私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第三章

第58話

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眠るためベッドの中に入りましたが、アクアとマリンがテントの前にいるため、心配でテントの外が見えるようにしていました。ウトウトしては目を覚まし、また様子を見ながらウトウトと繰り返していました。
キッカさんが部屋に戻って来たのは、私が二人に伝言を頼みテントに戻ってからすでに三時間後。トータルで五時間後のことでした。その間、誰も戻ってきていないようです。


「「キッカ おそーい!」」

「ああ。すまない。エアさんは?」

「おねえちゃん やすむって」

「おねえちゃん かおいろわるかった」

「おねえちゃん まだふるえてた」

「いっしょうけんめい わらおうとしてた」

上手く隠していたつもりなのに、隠しきれていなかったんですね。それを『気付かないフリ』してくれていたようです。
二人が結界の前から動かないため、キッカさんはテントの前まで来て床に座り二人と目線の高さを合わせています。

「二人とも。ずっと此処でエアさんを守ってて疲れただろ?」

「「へいき!」」

「おねえちゃんが あまいおやつ たべさせてくれた」

「『こわいひとから まもってくれたおれい』だって」

「「おいしかったー!」」

「・・・そうか。よかったな」

キッカさんが二人の頭を撫でると、嬉しそうに笑っています。その笑顔を見ていると、まだチクリと胸が痛みますが以前ほどではありません。

それにしても、約束の時間が守れない。それもこれだけ遅くなるなんて・・・何か起きたのでしょうか?気になります。ですが、私は今日はもう外に出たくないのです。『誰もいないベッド』でも怖かったのです。
このまま数日はテントから出ずに過ごしたいと思っています。

キッカさんが戻ったから、二人はもう大丈夫でしょう。
そう信じて、画面を消して目を閉じました。





ふたたび、テントから出ることの出来ない生活が始まりました。でも今回はプールで体力が落ちないように注意しています。
プールサイドチェアに寝転び、窓の外を見ると、空は半分が元に戻りました。キャンプファイヤーが効果を見せているようで、一気に暗闇が明けて来ました。そのため昼夜の確認が出来るようになりました。それでも、まだチャットが使えません。・・・いえ。時々繋がるようです。まるで電波の悪い場所にいるような感じです。

虫たちのスタンピードが始まって今日で24日目。
そろそろ、自分の目で『確認したい』し、何が起きているか『調べたい』し、色々と『動きたい』ですね。

テントの外を確認すると、今日もアクアとマリンが陣取っています。あれから、日中は私のテントの隣にあるベッドの上で絵本を読んだり遊んだりしています。時々、冒険者さんたちが一緒にトランプの相手をしているようです。彼らは私のテントに、気遣うような目を向けています。
あれ以来、私がテントから出ていないため、虫草は在庫切れしたでしょう。
だから、今まで交代で24時間ずっと虫草を燻してルーフォートを守っていた冒険者さんたちは『お役御免』なのでしょう。

・・・酷い言い方ですが、私は『善意』で虫草を渡していたのです。それを『婦女暴行をして奪おう。殺しても構わない』なんて意志を持ち、集団で襲われて、誰が虫草を渡すというのでしょうか?残念ですが、私はそこまで偽善者ではありません。
テントの外、窓の外は虫に襲われているようです。キャンプファイヤーは続けているのでしょうか?松明も。
ううん。もう手を貸したいと思いません。謝られても許せません。どうぞ、『自分たち』で何とかして下さい。
・・・キッカさんが、『あの日』以降テントに戻っていないようです。バカな町民たちが縋っているのでしょうか。






「愚かなる者たちよ」

突然、空や建物の中に現れた『朧げな光の女性』は、過去に現れた時と違い、王都だけでなくこの王国のすべてで見ることが出来た。王都で目撃した人々は「聖女様・・・」と呟き、中には跪く者もいる。

「今、この国で『虫の襲撃を受けている町や村』があります。愚かなる者たちよ。人に頼るだけで、自らの手で解決しないのであれば、その町や村はこの先滅び去ることになります。いいえ。滅びなさい。生きる資格などない。寄生虫根性の者は、この国にとって、いいえ。愚かなるレイモンドのような『害悪』でしかない。滅びなさい。生きる資格など持たない者よ」

この言葉のあと、各地・・・町や村に『光の槍』が落ちた。それによって、犠牲になった者はいない。
それを『聖女様からの罰』と誰もが思い知った。
それは王城の外れ、前王が引き籠った離宮に落ちて砂に変えた。
不死人しなずびと』となったレイモンドと前王の周囲にも『光の槍』は落ち、二人は泣きながら謝り続けた。

このルーフォートにも『光の槍』は落とされた。ひとつは町の守備隊詰め所の前に。そして『ある家』に。



その前に、私はテントから出ていた。
アクアとマリン。冒険者さんたちとフィシスさんがいる時に。

「・・・・・・今の、ナニ?」

私は『はじめて見た』ため、この反応であっているでしょう。

「エアさん・・・はじめてだっけ?」

「・・・?何が?」

「エアちゃん。今の方が『聖女様』よ」

「・・・ふうん」

「『ふうん』って・・・。まあ、自分たちも最初見たときは似た反応でしたけど」

「それより、アレは何?」

私が外を指差すと、全員が窓の外に目を向けます。

「なんだ!ありゃあ~!」

そこには何十メートルもある『光の槍』が突き刺さっていました。



皆さんは外へ飛び出して行きました。

「エアさんはテントの中へ!」

「アクア。マリン。この部屋を守りなさい。不審者は『殺さなければ倒していい』わ」

「「わかったー!」」

フィシスさんが子どもたちに『物騒な許可』を出しちゃっています。
私はせっかく出たのに、ふたたびテントに戻されました。まあ、『聖女様が現れた時に私が一緒にいた』という証言のためですからね。
いくつか、情報も手に入れましたし。

ちなみに、私の称号には『聖女の声を届ける者』と『神に代わりバツを落とす者』があります。一度目の『聖女様降臨』以降に出た称号です。もちろん『非表示』ですが。
『光の槍』の目標は『悪いヤツ』に設定しています。そして『誰も傷つけない』設定済み。・・・のはずなんですが。なぜ『家に落ちた』のでしょう?
唯一、『前王が逃げ込んだ離宮』と、レイモンド、前王は『自分の意思』で設定しましたが。



そして、いくつかフィシスさんから情報をもらいました。

『毒虫を使って私を襲おうとして失敗した人』は、エンシェント元男爵の子飼いのひとりで、毒虫を使った暗殺を請け負っていたそうです。部屋の中を睡眠薬で充満させて、人も毒虫も全て眠らせてから無事に『回収』したそうです。毒虫はフィシスさんが『元の地域』に返してくれたそうです。

「巣がなくなっていても、そこにいた仲間たちは残っていたから。ニオイで敵かどうか判断するみたいで、どの虫たちも上手く仲間と合流していたわ」

そして、捕まった人は女性でした。暗殺する家に侍女として入り込み、ベッドメイクする際に枕の下などに眠らせた毒虫を仕込んでいたそうです。無事に王都へ送られて、今は『処罰待ち』だそうです。たくさんの人を暗殺して来たため、『公開処刑』になるようです。
あの部屋を狙ったのは偶然だったそうで、私を狙った訳ではなかったそうです。

「私のご主人様を捕まえた連中が、ご主人様の邸を我が物顔で使っている」

そのため『ご主人様の仇を取る』つもりだったようです。そのご主人様の罪を自ら証言するのですからね。

「一緒に公開処刑を受けられて嬉しいでしょう」

そうフィシスさんは言っていました。


そして、この部屋を集団で襲った人たちは、『誰から話を聞いた』のか言わないそうです。ただ、総勢15人の町民が暴挙に出たということで、オーガストさんは虫草の購入をストップさせたそうです。そして「自分たちの過ちは自分たちで償う」ということで、虫草を燻す作業もキャンプファイヤーの設置も、すべて町民たちでさせているそうです。
キャンプファイヤーで使っていた完熟果物もお酒も、私が持っているのを使ってたのに大丈夫でしょうか?
フィシスさんに聞いたら、オーガストさんはそれを分かった上で「好意をあだで返したのだから、自分たちで尻拭いしなさい!」と町民に宣言したそうです。そのため冒険者さんたちは、久しぶりの休憩を満喫しているそうです。

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