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第三章
第50話
しおりを挟む取り調べや調査やなんやらで、結局宿には泊まれません。立入禁止状態です。『誘拐の現場』ですから仕方がないですね。
ちなみに私は被害者だと分かってもらえました。自分たちより立場が上のフィシスさんたち『王都守備隊隊長』の庇護者な上、冒険者ギルドの『情報漏洩の被害者』ですから。
各地の守備隊の上に立つのが『王都守備隊』で、南部守備隊なら『国の南部地域を管轄している』そうです。そして此処ルーフォートは王都の南、フィシスさんたちの管轄区域なのです。
「危ないから私たちの手が届く範囲にいて!」
それが、予定を10日繰り上げて王都を出立することを伝えた時に皆さんから言われた言葉です。あまり王都に近くなく、それでいて何かあればエリーさんやキッカさんたちのパーティが駆けつけられる場所。その候補の一つがルーフォートでした。
通常なら問題ないでしょう。
ただ、魔物の氾濫が起きている可能性があり、フィールドだけでなくダンジョンでも『魔物の棲息範囲』が変わっている可能性もあります。実際に、『はじまりの森』にはダンジョンの下層にしかいない『ツノありキバありウサギ』や『イノシシの集団』、『ネズミの集団』もいましたし、『大地の迷宮』にも『いないはずのネズミ』が棲み着いていました。さらに上位種や『棲息地から出てきた魔物』もフィールドに展開しています。
もちろん、フィシスさんたちは『私の強さ』を信じてくれているし、認めてくれています。でも、「一番『危ない』のは人間の欲望だから」というのが理由なのです。
今回・・・それが顕著にあらわれたトラブルに、しっかり巻き込まれました。
『フィシスさんたちに迷惑掛けた』と落ち込んだけど、フィシスさんたちは違う考えを持っていました。
「エアちゃんには『犯罪者が寄りやすい』のね。私たちは『守りたい』って思うけど、連中には『よいカモ』って見えるんでしょうね」
「エアちゃん。イヤかもしれないけど『今のまま』でいてね。それは『周りの救い』になることだから」
「・・・あら。すごくイヤそうな顔ね」
「・・・・・・イヤです。自分のことだけで『手一杯』だもん。それなのに、周りを救って回りたくないです。私は『自分のことは自分で何とかしろ』って突き放すタイプです。犯罪に関わることなら仕方がないけど・・・。それでも『自分たちのことは自分たちでなんとかしろ』と思います。だって、町や村の『悪い評価』が国中に広がるんです。この町だって『宿の人身売買』に『貴族の不正』が明るみになったんですよ?内輪で問題解決するか、町長が貴族院に訴えていれば、少しは努力した評価が得られて、町長だって更迭されなかったのに」
「まあ、たしかにそうよね」
それに『人を救う』なんて・・・まるで『聖女のよう』じゃないですか。この世界の『バ神』は、私を城から追い出して『彼女』を殺したクセに、『聖女』の仕事をさせる気でしょうか?何様ですか?ああ。『バ神様』か。自分たちの世界のことは自分たちで『何とかしろ』よ。そんなことも出来ない脳ナシ役立たずのクズのクセに、人の、それも『異世界人』の人生に手を出すなんて、お巫山戯じゃあないですかね?人から色々と奪ったクセに、何を考えているんでしょうね。
「別に『何とかしよう』と思わなくていいの。エアちゃんは『犯罪者を暴き出す囮』になってくれればいいの。それを『片付ける』のは私たちの仕事よ」
「エアちゃんは好きにしてればいい。エアちゃんを狙ったヤツは私が潰す。だから、フィシスとエリーに伝えて。私が『一番に報復する』んだから」
「ちょっと、ミリィ。私たちも報復するわよ」
「フィシスとエリーは『交渉』役。アンジーとシシィは『書類整理』。エアちゃんを狙った連中を再起不能まで叩き潰すのが私の役目」
私を抱きしめて、真面目なトーンで話すミリィさんに、くすりと笑いが溢れました。
笑ったのが聞こえたのか、ミリィさんが優しく抱きしめてくれました。
私が映像を記録してフィシスさんたちに送っていたのと、キッカさんも音声を記録してくれていたため、私の記録に手が加えていないと認めてもらえました。そのため、私は取り調べ云々を免除。私の証言は必要ありません。知りたい情報は、記録からどうぞ~。ということです。
ちなみに、今までフィシスさんたちに送っていた証拠の数々は、すべて魔石に移してあるそうです。
この記録、主に『私目線』です。そのため、『私自身』は映っていません。もし、背後で怪しい素振りを見せた場合は、『二画面』で記録されます。
だから、バンバン送れちゃうんですけどね。
宿は捜査しているため、当分、というより二度と宿泊は出来そうにありません。
「これじゃあ宿は使えないわね。仕方がないわ。エアちゃん。しばらくは『旧エンシェント男爵邸』を使って」
「・・・でも」
「エアさん。部屋に結界を張って、テントの中で過ごして貰ってていいんですよ。今回の騒動が落ち着くまでの間だけです。町長更迭に冒険者ギルドの『再教育』による一時閉鎖。そして宿の人身売買に冒険者パーティの逮捕など。とりあえず、『被害者』であるエアさんには町に滞在してもらわないと困りますから。・・・連中の方が」
「被害者のエアちゃんがいなくなると、『逃げた』とか『冤罪だ』とか騒がれるからね。下手したら腹黒に『揉み消し』される可能性もある」
「・・・そういう時こそ『審神者』でしょ?」
「いやいや。こういう時こそ『公開査問会』だろう?」
「査問会だと『組織や団体』しか出来ない。今回は人身売買と違法奴隷売買に関わった、宿とエンシェント男爵、その周辺しか対象ではない。まずは八人を『買った』パーティたちの特定と、被害者の保護が優先だ。あの女将が覚えているかは分からんが・・・。『公開取り調べ』で罪を明るみにする」
「奴隷商人に売られた被害者の大半は王都で保護済みだ。奴隷商人は律儀にも『奴隷売買契約書』を残していたからな。あとはパーティに売られた被害者たちの保護と冒険者パーティの逮捕だ。連中がこの町にいることは分かってる。だから、門は閉鎖になってる」
「彼女たちを助けられたのはエアちゃんのおかげよ。本当にありがとう」
アンジーさんにお礼と共に抱きしめられました。
「そうね。エアちゃんがいなかったら、もっと沢山の女性たちが被害にあってたわ」
「・・・でも、なんで?何で誰も『気付かなかった』の?」
「犯罪が気付かれなかったことには、いくつかの理由が思い当たる」
「理由?」
「そう。まずひとつ目は『犯罪の現場が宿だった』こと。宿の女将が言ってたでしょ?『深夜や早朝に出ていった。そんな時間に出て行くのは本人たちの勝手』って。そう女将に言われたら、信じるしかない」
「そうね。宿を使って、女将が人身売買をしてるなんて誰も思いもしないわよね」
「それも『ひとり』の人を選んで、ね。もし待ち合わせをしてて翌日に相手が到着したとしても、『今朝出掛けた』と言えばいい。その相手がやはり『女性ひとり』なら、『戻るまで彼女が泊まった部屋で待ったらどうか』と言えば、断るものはいないだろう」
「待ち合わせの相手が『チャット』や『通話』をしたらバレるんじゃないの?」
「ああ。エアちゃんは知らないのよね」
「一般的に知られてないけどね。『奴隷売買契約書』で奴隷になった時点でステータス画面は封じられるのよ」
「・・・それって『ガータン』も?」
「そうよ。それがどうしたの?」
私がアミュレットの『鑑定』でステータスを確認したら驚いていたこと。
そして、私がガータンの手から逃れて城門を出た後、ガータンは門兵に取り押さえられていたこと。
その時に『犯罪者』と言われていたこと。
「ガータンが『鑑定拒否』のアイテムでも着けているのかと思ったんですが・・・」
「違うわ。ステータスが封じられているのよ」
「ガータンは『鑑定魔法』を使ってました」
「ちょっと待って!魔法は封じられるはずよ?」
「・・・でも、その件は記録されてますよ。ガータン自身も鑑定を使ったこと認めてましたし」
「それはちょっと・・・。調べ直した方がいいわね」
どういうことでしょう?私と一緒でアミュレットとか持っていたのでしょうか?
「エアちゃん。ガータンだけど、もしかするともっと大きな犯罪に関わっているかもしれないわ」
「そうね。ガータンの奴隷契約は王都で公開処刑になる奴隷商人がしていたはず。そして、エアちゃんが送ってくれたガータンのステータスには間違いなく『奴隷』の表示があったわ。にも関わらず『封じられたハズの魔法を使った』。それはエアちゃんの記録にも証拠として残ってるから間違いないわね」
・・・フィシスさんが怖いです。
「フィシス。エアちゃんが怯えるから『ひとりごと』は何処か行ってやって」
「ああ。ごめんなさい。まだ詳しく調べないといけないけど・・・。ガータンの場合、『奴隷契約』に不正があったと思われるわ」
「エアちゃんが指摘してくれたから、不正が分かったのよ。鉱山に送られた奴隷などすべて調べないと、反乱が計画されているかもしれないわ」
やはり『奴隷が魔法を使える』のはありえないようです。
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