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第一章
3.自分たちの物差しで騒いでいる
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数年前、魔物の凶禍がある国を襲った。
すでに僕は結界師として生きていたけど、周囲から「役立たず」と言われ、依頼を達成しても色々と理由をつけて報奨金が支払われなかった。
品行方正のはずの冒険者ギルドがそうなのだから、冒険者が僕に対する態度もひどいものだった。
「結界しか張れない役立たず」
それが一転したのは、王都近くで魔物の凶禍が発生したからだ。
城門が壊され、数体の魔物が入り込んだことで王都は一瞬で恐慌になった。
冒険者たちが城外へ追い出すことに成功したが、多数の犠牲者が出た。
その犠牲者には冒険者ランクで上位のパーティも含まれていた。
「結界師! 俺たちを助けてくれ!!!」
「結界師! 頼む! 王都に結界を!!!」
冒険者や貴族、王族に市民までが僕の家の前に集まって口々にそう訴えた。
当時僕が住んでいた家は、貴族街の中でも中程度の空き家だったところだ。
家は広くても庭はなく、前の持ち主だった新興貴族は庭付きの家に移り住んだために空いていたそうだ。
……実は所有者が転々としてきたため知られていなかったが、これは商人の移動用戸建てだった。
商人だから、いつでも何処へでも持ち運べるような家を設置していたのだろう。
それが貴族に奪われたのか。
たぶん所有者は死んだのだろう。
だから、少し広いだけの普通の家だと思われて転売されてきた。
家は古いものほど安くなる。
この家も、宿で半年連泊し続けるより安かったため購入した。
もちろん正式な手続きで僕のものになったけど……それが激レアの戸建てだと知って目の色を変えた。
「子どもが持つのに相応しくない!」と言って奪おうとした。
「なんで? どういう理由で『相応しくない』っていうの? 僕はちゃんと手続きをして買ったんだよ?」
「子どもが家を持つなどまだ早い!」
「だいたい子どもなんかに売るとは!」
そう騒がれたけど……僕が王都に来る前から空き家だった屋敷。
調停人が、僕が王都に来る前に誰でもいつでも購入できたはずだったと認めてくれた。
それだけじゃない。
「子どもに因縁つけて。大人として恥ずかしくないのか!」
そう言って僕に迷惑料を支払わせただけでなく……
『私たちは子供に因縁をつけて強奪を企んだ愚かで卑怯者です』
そんな立て札の前で地べたに正座して笑い者にされたのは、有名な冒険者パーティと貴族たち。
立て札により名誉は自分たちで傷つけたと知られ、僕には同情を。
彼らには冷ややかで白い目が向けられた。
そんな騒動が起きたにも関わらず頼み事をするなんて……厚顔無恥も甚だしい。
冒険者でも商人でも、根無草は家を借りたり購入して住み、その地を離れる際に売却する。
痕跡を残さないのは、冒険者の過去の履歴を追えないようにするため。
冒険者や商人の中には、家族との仲違いや家庭内のトラブルが原因で独立という形で生きている人は多い。
家族に殺されかけたり自らの意思で死んだことにして、新たな人生を送っている人もさえいる。
そのため冒険者は職業で呼びあうが名前を呼ばれることはない。
似た名前というだけで依頼を妨害される恐れも、経験が足りないのに獲物と間違えて危険な依頼を押し付けて依頼失敗を装って殺すなど。
国が滅んだときこそ、そんなトラブルが起きやすい。
それを未然に防ぐため、パーティ以外の冒険者は名前で呼びあわない規則ができた。
もちろん、家に直接押しかけたり依頼を受けるように訴えたりするのはご法度であり、マナー違反で迷惑料の支払いが発生する案件だ。
だいたい冒険者は指名依頼が入ったら必ず依頼を受けなくてはならない、という縛りはもちろん存在しない。
何より身勝手な連中のいうことだ、きっと「自分が住んでいる町を守るのは当然だ」とでも言って報酬は支払われないだろう。
死んだパーティのうちふたつは、僕の達成した依頼を横取りして自分たちの功績にした連中だ。
それは冒険者なら、ここに押しかけた連中だったら誰もが知っているはずだし、僕にしてみれば自業自得でしかない。
実力が伴わない功績で身を固めて、自分が強くなった気でいた。
僕は一度も自分の功績を認められていない。
ただし、功績があるということは僕自身の実力が上がっていることにもなる。
評価されなくても、僕の冒険者としての実力は高い。
周りは僕が結界だけに頼って生きていると思っているが……
7歳で天恵を受けた子供でも、それまでは短剣で弱いけど魔物と戦っていた。
冒険者に登録する前の実力はギルドカードに表示されない。
ステータスのレベルを他人にみせる方法はない。
……本当の僕のレベル、それを知ったらきっと驚くだろう。
でも、こう考えるのではないか?
「結界師のレベルは結界で魔物が勝手に死んだことで上がっているのだ」と。
戦闘にならない、結界に触れて倒れた魔物などから得る経験値は『結界師のレベル』が上がるだけ。
彼らが知っている僕のレベルは、結界師としてのレベルだ。
上限がないため上がり続けるそれは、いま700を超えている。
それでも結界師としてはまだ初心者から抜け出せていない。
僕ひとりだけをみて誰かと比べることができない大人たちは、自分たちの物差しで騒いでいる。
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