上 下
4 / 43
第一章

第4話

しおりを挟む


50年以上も前に、帝国全土を救った『聖女さま』のお話しを子どもの頃に聞いて、俺は『聖女さまにつかえる神官』に憧れた。
何とか『神官見習い』となった最初の仕事が『聖女さま探し』だった。
それだけなら、この任務はつまらないものだっただろう。
しかし、俺の向かうのは『伝説の聖女さま』の村がある領地だ。
すでに『伝説の聖女さま』は亡くなられているが、彼女の子孫が住んでいるらしい。
聖女さまの血を継いだ娘や孫娘なら、聖女になる可能性が高くなる。
俺は期待を胸に、先輩や護衛騎士たちと馬車でその地に向かった。

まず最初に、領主へ挨拶に向かった。
何だ。この領主の娘は。
「自分は『聖女』に相応しい」と、まるで俺たちがこの娘を迎えに来たように思い込んでいる。
領主も『我が娘が『聖女』だ』と信じて疑わない。
先輩が「一人でも多く『聖女さま候補』を王都へお連れするため、村々で『鑑定』することをお許し下さい」と話した。
その際「一人でも多く『お迎え』出来れば・・・」と含みを持たせるような言い方をしていた。
だがこの先の言葉は『我々の口からは』と言葉を濁した。
領主は勝手に『沢山の報奨金が貰える』など自分に都合の良い内容を思い浮かべたようで、ニヤニヤし出した。
そして館に無理矢理泊まることになった。
俺たちの部屋を別々にしようとしたが、「すみません。此方こちらはまだ『見習い』のため、翌日の手順など教えることがあるため『相部屋』でお願いします」と断って相部屋にしてもらった。
神官と神官見習いというペアになっているのは、こういう時に『相部屋』にしてもらうためらしい。
別々の部屋にして、その家の令嬢や奥方が『夜這い』してくるのを避けるためだ。
此処へ来る前にそれを聞かされて『まさか』と思ったが、あの執拗に別々の部屋にしようとしてきたのを考えると『真実』としか思えなくなった。

翌朝から領内の神殿を巡り、『聖女さま探し』を開始した。
何故か領主と娘もついてきた。
それも同じ馬車に乗り込もうとした。
それは丁重にお断りしたが、今度は「自分たちの馬車に」と言い出した。
「私たちは車内でも『大切な話』をしますから」と説明しても、「私たちは気にしません」と引かない。
護衛騎士から「『神官さまの機密』を盗み聞きするということは、王都での処罰を望まれるのですね」と言われて諦めた。
領主には妻と息子がいると聞いたが、息子を王都の学校に通わせるという理由から、2人は王都に住んでいるらしい。
先輩の話だと、10年前に『婚姻破棄』して他人になっているそうだ。
さらに元奥方は、幼馴染みの男性と再婚して子どももいる。
そして息子は中流の学院に入学している。
義父が商会を経営しているため、彼の手助けが出来るよう考えてのことらしい。
義父を実父として慕っており、生まれた妹を可愛がっている。
義父も彼のことを『我が子』と周囲に紹介している。
生まれがどうであれ、『今の親』との関係が最優先される以上、この領主が『跡継ぎ』として取り戻そうとしても出来ない。
実際に貴族の立場を利用して強引に連れ戻そうとした。
しかし司法省より却下され、元妻子に、そして彼女らの『今の家庭』に関わることを禁じられている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...