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第3話
しおりを挟む「あなた方の婚約者であるわたくしどもは、御前会議の決定を受けまして婚約者の席を辞することとなりました」
一瞬で夢の中から現実に引き戻されたのだろう。
5人の少女親衛隊の顔色が青色に、そして白色へと変わる。
「ま……さ、か」
「……ウソだろう?」
5対の視線が縋るように私に目を向けるが、すでに決定されたことが覆ることもない。
「アリエス、ウソだよな? 婚約者を辞するなど……」
「ノーマット殿下?」
「私は、私が愛しているのは……」
少女を抱きしめていた腕をゆるめて、震える右手を私に伸ばしてくる。
「ノーマット殿下も、ほかの皆様も。何を考え違いをなさっていらっしゃるの?」
「アリエス……」
「「「アリエス嬢」」」
彼らの潤んでいる目は、待ち受けているであろう奈落から逃げるため。
けっして、婚約者だった相手を思い悲しんでいるのではない。
ここにいる彼らは三男以下で家督を継ぐことのない子息。
彼らは一律、条件の良い婿入り先を失ったのだ。
それは同時に有力な後ろ盾を失ったことにもなる。
彼らの学力は特筆するに及ばず。
武芸に秀でておらず、また文芸にも乏しい。
平和に等しいこの時代、戦う相手は国境に出没する異形の生き物くらいだろう。
腕に自信があれば国境警備隊に加わることもできただろうけど…………悲しいかな。
彼らに一縷の望みすらかけたとて無駄なこと。
期待そのものが羞恥で自ら砕け散るほど無能な烏合の衆だ。
彼らが無駄に描いていた光り輝く将来は、御前会議を機に完全に閉ざされた。
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