子宮筋腫と診断されまして。《12/23 完結》

６４．

「あの看護師ひとがおじいちゃんを殺したんじゃないよ」
「同おんなじだもん」

一週間前の早朝に、そのことで母と私は大ゲンカした。
泣きながら、溜まっていた気持ちをぶつけていた。

『おじいちゃんを殺した病院』

私が口を開けばそういうのを、母はいつも悲しそうに見てきた。
だから、病院で喋らなかった。
私が口を開けばその言葉が出ることを母は知っていたから、無理に喋らせようとしなかった。

看護師の説明を聞いてから駆けつけたのだろう。
事務員が慌ててきた。

「確認させてください。看護師に「大部屋がいい」と言ったんじゃないですか？」
「言ってない」
「そんな話は一切言われていません」

事務員の言葉を否定する私たち。
一方的に決めて、それを『本人たちが望んだこと』と嘘を吐いたんだ。
院内で決められている患者の権利を無視した行為。
病院に訴えられたら処罰は確実だ。
病院だけではない。
ＪＣＨＯという組織に加わっているのだ。
そこに直接訴えられたらただでは済まなくなる。

だからだろう。
一瞬、息をのんだようにピクッと反応した。

……知ってるよ。どこの用紙に書けばいいのか。
母がこの病院で働いていたんだからね。

それから個室の説明を受けた。
一人部屋でトイレ付きが四部屋。
一万二千円ですか。
高いですねえ。

一人部屋でトイレなしがひと部屋。
八千八百円。
第一希望はこの部屋。

二人部屋はトイレなし。
少し広めの部屋が二千七百五十円。
普通の部屋が二千二百円。

第二希望が少し広めの部屋で、第三希望に普通の二人部屋を選んだ。
それでなかったら大部屋。

それで申請させてもらった。

私が個室にこだわる理由。
それは母親が二週間前に法事で東京に行き、入院直前に伯母夫婦のわがままで北海道旅行。
帰宅は入院四日前だ。
伯母が十一月後半あたりに手術。
その前に旅行に行きたいと言い出したからだ。

「これが最後の旅行だって言うから」

本当なら行きたくない旅行。
それもツアーだ。
私が退院するまで行きたくなかっただろう。
それを『自分が入院するだろう予定日』で決定させた。
……『私に感染させる可能性がある』ことを知りながら。

つまり、私が感染していた場合を考慮して個室を希望しているのだ。

病院は、「感染していてもいいよ～。ついでに同室の患者や看護師たちを院内感染させてもいいから。同じフロアに産科もあるけど、妊婦や新生児に感染させてもいいよ～」と言っているのだ。
九月に院内感染させたのに、再度院内感染させる気らしい。

一応、事務員にはさりげなく『コ ロナに感染する可能性がある』ことを伝えた。


「残念ですが希望にそえなくて……」

そう言ってきたら、遠慮なく訴えてあげるよ。

「最初っから希望にそう気なんかなかったくせに。手術中に殺す気満々だよね」

その一文を最後に入れてあげる。
それで、実際に私が手術中に死んだら、誰だって間違いなく殺したって思うよね。

病院で院内感染が確認されたら、これが原因だよ。
私はちゃんと危険性を伝えた。
それを甘く見たのは病院側。
患者わたしの訴えを無視した看護師たちに責任があるからね。