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63.
しおりを挟む事務員の説明は大雑把。
入院の際に持ってくる署名済みの書類などの話を簡単に説明していく。
「こちらは帰ってから読んでください」
本当に自分の言いたいことだけを流していった。
「部屋は大部屋」
その言葉に「あれ?」と思った。
本来なら個室希望かどうかを確認するのに、勝手に決められていた。
それを聞きたかったのに、自分の説明が終わるとそのまま立ち上がった。
「では看護師を呼んできます」
そう言ってサッサと出ていった。
やってきた看護師は挨拶もそこそこ。
上座にドスンッと座るとふんぞり返った。
まず前面に「わざわざテメエに説明してやるために時間を割いてきてやったんだ。土下座して感謝しろ!」という表情に、母が私の代わりに答える度に「テメエは黙ってろ!」という横柄な態度。
机の下で母が私の右手を握りしめていた。
「この机、蹴りつけてやろうかと思った」
「ごめん。お母さんもそう思った」
穏やかな母をブチ切れる直前まで怒らせるなんて……
私が知る限り二人目。
ただ、この看護師はそのあと慌てることになる。
「以上で説明を終わります。何か質問などありますか? なかったらこれで説明は終わりです」
『貴様の態度が許せねえ』
そう言いたい気持ちを抑えて
「大部屋はヤダ」
そのひと言だけ言った。
その途端に「え⁉︎」と驚いたのは、言葉になのか声に怒りが含まれていたからなのか。
「大部屋でいいといったんじゃ……」
「そんな話、ひと言もない。言ってない。聞かれてもない。ウソつき」
「そんな話は聞いていません。ここで聞かれるかと思っていましたが『大部屋だ』と勝手に決められていたようで」
一気に言い放った私に、立ち上がって帰ろうとしていた母も加勢した。
「ウソつき。聞きもしないで勝手なことして。ウソつき。だから人殺し病院で手術なんか受けたくない。どうせ手術中の体調悪化を理由に殺す気なんだ」
私の言葉に看護師は震えていた。
「すぐに事務員を呼びます!」
そう言って、慌てて出ていった。
……逃げたともいう。
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