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前編

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「メアリ!」

きょうもまた煩わしい朝が来ました。
公爵家のメイドには貴族の子女が行儀見習いとして入っています。
公爵家で行儀見習いをしたという箔をつけてより良い結婚をするためです。

公爵家のメイドに入っても、貴族令嬢の中には誰かの下に仕えるということに抵抗があるようです。
そんな令嬢の一人である彼女は、下働きの服装をしている私を見つけると偉そうに命令をしてきました。

「メアリ! 返事をしなさい! このグズ‼︎」

私は彼女に返事をせず通りすぎます。
そんな私の腕を掴んで力一杯頬を引っ叩きました。
小さな私の身体は勢いよく壁に叩きつけられ……ませんでした。
直前に大きな腕と身体が私を守ってくれたからです。

「なっ、何をするの! 離しなさい!」

私を叩いた令嬢は公爵家の騎士に取り押さえられています。

「君はいま、自分が何をしたのか分かっていないのかね?」
「こ、公爵様!」
「君はこの子に何をしたのか分かっているのか」

静かに怒っているこの公爵家の当主に青ざめる令嬢。
一歩前に進むと令嬢は一歩後ろへ下がろうとします。
ですが、両側から腕を掴まれているため実際には下がれていません。

「わ、私は、下働きの娘が私が呼んでも来ないから……」
「ほう。。そんな娘、どこにいる?」
「……え? だってそこに……」

令嬢は逞しい腕が守るように抱きしめている私を睨みます。
彼女は私を守るこの相手に想いを寄せているのです。
そのため、子供の私に憎しみの感情を向けてくるのです。

「ねえ、お父さま。お母さまと私を捨ててあの方と結婚するって本当ですか?」

顔をあげて、私を抱きしめる父にそう問います。
すると驚いた父が首を左右に振って「そんなことはしないよ」と優しく頭を撫でてくれました。

「それは誰かから聞いたのかね?」
「はい、おじい様。……そこのクララ様です」
「メアリ。メアリは公爵家の令嬢だ。使用人に様をつける必要はない」
「いいえ、おじい様。クララ様は公爵家の御令嬢だそうで、私はクララ様に殴られるために存在しており、殺しても許される。生まれながら格が違う。メアリも母親と共に殺されたくなければ私に土下座して生かしてもらえる許可を取りなさい。少しでも刃向かったら男たちの慰み者にしてやる。クララ様はそう言って私を毎日蹴り飛ばします」
「メアリ。なぜそんな大事なことを言ってくれなかったのかね?」
「だって、お父さまはクララ様と結婚するから私たちが邪魔で殺す気なんでしょう? そんなことをおじい様にいえば、お父さまは口封じのために私たちを殺すと」
「そんなことはない。ぜったいに」

そう言って私を強く抱きしめる父、痛ましい視線を向ける祖父。
騎士たちは悲しそうに私を見て、殺気をクララに向けています。

「クララ? ああ、ブランドン家の娘か。公爵? ブランドン家は侯爵だろう。爵位の偽称の上に簒奪。公爵家の令嬢であるメアリに対しての暴行に暴言。ブライドン家当主を王城に呼べ。陛下の前で罪を明るみにする!」
「いやああ!」


この日を最後にクララは私の前からいなくなりました。
私は事実を大きく話しただけ。

だって今日は4月1日。
嘘を吐いても許される日です。
でも私、大袈裟に言っただけで事実だから、ウソじゃないですよ。
実際にクララに殴られたもん。
だから許されるの。

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