上 下
214 / 249
第十章

第214話

しおりを挟む

「ああ。この者たちが『銀板所持者にケンカを売った』という『若者バカモノ』ですか」

「ええ。それで処分なんですが・・・」

「その目は全然反省していないようですね。
では、見せしめのために厳罰に処しますか」

警備隊の詰め所にある牢の中には、『ヒナルク殿さくら様』からお金を脅し取ろうとした不届き者たちが投獄されている。
先日、お許しを受けて、特別に『本来の御姿』を拝むことが出来た。
すでに信仰は神に。心はさくら様に捧げた。

「この者たちの所持品は?」

「はい。こちらに」

ざっと確認して、左右の箱へと分別していく。
最後にアイテムボックスを右の箱に入れて、左側の箱を隊員に渡す。

「この者たちは日が変わる直前になったら、町の外へ追放してください。
その時、その箱の中身は彼らに返してください。
こちらの箱の中身は迷惑料として『ツバサ』の皆さんに渡してきましょう」

私の判断に不服なのか、檻の中の連中はギャンギャン吠えている。

「銀板所持者に対する無礼の処罰は奴隷への降格処分です。
それを『なんとか価値のありそうなもの』を差し出すことで、何とか町からの追放処分という内容で済まそうというのを・・・
もしかして、奴隷の方が良かったですか?
その場合、10年以上の労働に奴隷ですから記憶封じ。
もちろん所持品はすべて没収ですが」

私の言葉にさっきまで騒いでいた連中はピタリと黙った。
犯罪による奴隷降格処分である以上、『優しい家族』が身元を引き受けないと記憶がないまま彷徨い歩く。
町の中ならいいが、丸腰のまま町の外へ出てしまったら数日で魔物の胃袋の中だ。
・・・まあ、生きて刑期を終われれば、の話だ。
主人の気分や機嫌で、簡単に消される生命。
それが奴隷なのだ。




「今日はどうしたんだ?」

ロンドベルが訪室した。
しかし、隣のスゥたちの部屋に。
来客の場合、よほどの事がない限り主人の部屋に入れない。
たいていは従者の部屋が応接室代わりに使われるのだ。
そのために従者の部屋にも関わらず広く作られているのだ。
宿によっては主人と従者の部屋の間に応接室が設けられている場合もあるが・・・

「ええ。バカモノに絡まれたと聞きましてね。
その迷惑料として、金目になるものを持ってきました。
これでも足りないので、連中は日付が変わる直前に町からの追放処分にしたんです。
追放後はどうなろうと構いません。
ただ、さらに罪を重ねたら、今度の罪を追加されて重労働の奴隷になるだけです」

床に広げられたシーツの上に並べられた数々のアイテム。

「アイテムボックスにお金まで。
このアイテムボックスはスゥたちが貰えばいい。
ああ。でもまだ余るな。
じゃあ、ロンドベルベルくんも1個持っていけばいいよ。
あっても困らんだろ?
ハンドくん。いいよね?」

〖 はい。それならいいでしょう。
『解体のナイフ』もありますから、スゥたちで使いなさい 〗

「お金はご主人が受け取ってください。
私たちはアイテムボックスや『解体のナイフ』という高価なアイテムを頂けるだけで十分です」

〖 分かりました。
アイテムは良く話し合って決めなさい 〗

お金はハンドくんが受け取った。
そこから、宿泊代や彼女たちの食事代を払うためだ。
ちなみに、さくらが口にするものは屋台の料理でも宿屋の料理でも、さくらの身につけている上着などが勝手に浄化してくれている。
だからといって安全だとは言えない。
そのため、さくらはチョコチョコと『魔石の精製』をしている。
1分から3分という短時間だ。
それでも万単位で魔石が出来ている。
どうしても酷い時は、さくらが寝ている時にハンドくんは『最終兵器』を持ってくる。
その名は『ヨルク』
そう。さくらの浄化が追いつかず。
それでいて『神様はきちゃダメ~!』というさくらの希望のぞみを叶えるとなると・・・

〖 ヨルクは『神様』ではないので大丈夫でしょう。
それに『さくらのため』です。
「イヤ」なんて言わないですよね? 〗

「言わねーよ」

ということで、時々ハンドくんに拉致られて寝ているさくらの浄化をしている。
さくらは「寝たらスッキリしたー!」と思っている。
もちろん、さくらの食事は『瘴気の混じっていない、さくらの世界から取り寄せた食材』を使っている。
しかし、さくらが今いる大陸は『アリステイド大陸』と違って瘴気が濃い。
・・・いや。アリステイド大陸よりは濃いが他の大陸よりは瘴気が薄い。
そのため、この大陸が『さくらの旅行先』に選ばれたのだ。

「さくら。いくらでもフォローしてやる。
だからいっぱい楽しんでこい」

いつものように半分だけ瘴気を浄化させたヨルクは、ベッドのヘリに腰掛けてさくらの寝顔を堪能する。
これは瘴気の浄化に対する『ご褒美』だ。
それでも長居すると離れたくなくなる。
そのため、眠るさくらの頭を撫でて、頬にキスをする。

「ハンドくん。頼むよ」

神の館へ送ってもらうのと、さくらのこと。
詳しく言わなくともハンドくんは理解してくれる。

〖 分かりました 〗

ハンドくんの言葉を最後に、ヨルクは転移した。
ヨルクには聞こえただろうか。
ヨルクがさくらから離れてハンドくんが転移させる直前に、さくらの「パパぁ」といった小さな寝言を。


ヨルクは目を細めて微笑んだため、聞こえていたのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~

狐火いりす@商業作家
ファンタジー
 事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。  そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。 「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」  神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。  露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。  やりたいことをやって好き勝手に生きていく。  なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。  人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

異世界に転移したので国民全員の胃袋を掴みます

りゆ
ファンタジー
じゅわわわわっっ!!! 豪快な音と共にふわふわと美味しそうな香りが今日もセントラル家から漂ってくる。 赤塚千尋、21歳。 気づいたら全く知らない世界に飛ばされていました。まるで小説の中の話みたいに。 圧倒的野菜不足の食生活を送っている国民全員の食生活を変えたい。 そう思ったものの、しがない平民にできることは限られている。 じゃあ、村の食生活だけでも変えてやるか! 一念発起したところに、なんと公爵が現れて!? 『雇いシェフになってほしい!?』 誰かに仕えるだなんて言語道断! たくさんの人に料理を振舞って食生活改善を目指すんだ! そう思っていたのに、私の意思に逆らって状況はあれよあれよと変わっていって…… あーもう!!!私はただ料理がしたいのに!!!! 前途多難などたばた料理帖 ※作者の実体験をもとにして主に構成されています ※作中の本などは全て架空です

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」 主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスだけで異世界生活

shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。 あるのはアイテムボックスだけ……。 なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。 説明してくれる神も、女神もできてやしない。 よくあるファンタジーの世界の中で、 生きていくため、努力していく。 そしてついに気がつく主人公。 アイテムボックスってすごいんじゃね? お気楽に読めるハッピーファンタジーです。 よろしくお願いします。

処理中です...