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第九章
第187話
しおりを挟む組み伏せられても暴れていたシーナだったが、ヨルクの清浄化魔法を繰り返し受けた事で徐々に落ち着いてきた。
「シーナ。暴れて少しは気が済んだか?」
ヨルクのいつもの軽い声に、シーナは自分が今まで胸の内に溜め込んでいたモヤモヤが消滅していくのを感じていた。
「ヨルクさん。・・・私は・・・自分が抑えられません。
師範を思えば『苦しい』。
ご主人様を思えば『お守りしたい』。
ですが、2人を見ていると、心の奥がモヤモヤして・・・すべてを、壊したく・・・」
シーナの言葉に合わせて、シーナの内部からドス黒いもやが溢れ出す。
それにヨルクは『ああ。やっぱり』と呟く。
「シーナ。お前の『その感情』を俺は知ってる」
ヨルクの言葉にシーナが動きを止める。
「シーナ。それは『嫉妬』だ」
「嫉妬・・・これが・・・」
「ああ。そうだ。
今から大事なことを話す。
不都合があれば、寝ている間に神に記憶が消されるが。
だが、記憶がなくても納得さえすれば、さくらやセルヴァンに対して二度と混乱することはなくなる」
「・・・教えてください。
私は2人を傷つけたくない・・・」
やはりシーナは苦しんでいた。
それを改めて知ったヨルクだったが、そのままの状態で話を進める。
この先の話でふたたび混乱する可能性があるからだ。
「シーナ。『生まれかわり』を知っているか?」
「はい。神殿で習いました」
「そうか。なら早い。
シーナは『生まれかわる前』、オレたちと同じ大陸に生きていた・・・『セルヴァンの妻』として」
シーナの驚きは大きかった。
しかしヨルクはそのまま話を進める。
当時、快楽を欲した獣人の一部が『獣化』して小さな集落を襲っては皆殺しにしていた。
自分もヒナリもその時に襲われた時の生き残りだ。
自分たちはセルヴァンの王城に引き取られ、その後、城のすぐそばに生き残った一族で移り住んだ。
その時、自分もヒナリも『前世のシーナ』と会っている。
しかし、彼女は魔物たちに家族を殺された人たちの慰問に向かい、その地で襲撃を受けて亡くなった。
スゥとルーナもその時の襲撃で亡くなった被害者だ。
「そして、シーナ。
シーナがセルヴァンとさくらの2人に嫉妬しているのは、シーナの『覚えていない記憶』の中にセルヴァンの妻だった感情が残っているからだ。
だからこそ、さくらを大切にするセルヴァンに嫉妬している。
そして、さくらに対してだが・・・こちらは簡単だ。
『ご主人様を取られたくない』
シーナはそう思っているが、さくらは『家族』であるセルヴァンとドリトス様に甘えている。
そしてこう思っているんだろ?
『私たちは家族に会えなくて辛いのに見せつけている』と。
だが、あの2人は許してくれないか?
さくらがこの世界にきた時から『世話役』としてそばにいるんだ。
何十日も熱を出して苦しんで、熱が下がっても身動き出来ないさくらのために、族長や部族長という立場をすべて投げ出して『そばにいること』を選んだんだ。
オレとヒナリが来るまで、あの2人が『さくらの父親で家族』だったんだよ。
まあセルヴァンはオレの『親みたいなモン』だから、今は『じーさん』の立場でオレとヒナリを見守ってるけどな」
「・・・では『家族として』なのですか?」
「ああ。今度冷静な目で2人を見てみな。
セルヴァンは『激甘オヤジ』というより『初孫がカワイイおじーちゃん』だぜ」
「ご主人様は・・・なぜ私たちを」
「ああ。さくらから聞いた事はないか?
『真っ直ぐな心で生きろ』と。
真っ直ぐで正しく生きれば、もう一度オレたちと同じ大陸に生まれ変われる。
さくらはその『導き』をしているだけだ」
ヨルクの言葉に涙が流れ続けているシーナ。
その姿は痛々しい。
「ハンドくん。その辺に創造神がいるか?」
〖 はい。すでにハリセンでぶっ飛ばしてあります。
あと50発はぶん殴っておきましょうか 〗
「そこはハンドくんに任せるよ」
〖 はい。任されました。
それで、汚れを拭いたら更に汚れを広げそうな、何の役にも立たないボロ雑巾に何の用です? 〗
あまりにもヒドい言いようだ。
ヨルクはそう思ったが、創造神は転生を司っている神の1柱だ。
シーナの苦しみの原因が『記憶の残滓』であった以上、みんなの代わりにハンドくんが罰を下すのも仕方がないだろう。
「創造神たちに伝えてくれ。『最後までちゃんと仕事しろ』と」
〖 分かりました。
ハリセンで徹底的に叩きのめして身体に教え込みます 〗
「ほどほどにしろよ」
〖 なに言ってるんですか。
何をしても『死なない』んですから『殺りたい放題』じゃないですか 〗
「焼るな。殺るな」
ヨルクとハンドくんのやりとり・・・いや『殺りとり』に転生を司る神々は青褪め、関わりのない大多数の神々から合掌された。
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