上 下
178 / 249
第九章

第178話

しおりを挟む

「おはよう。さくら。よく眠れた?」

目を覚ますと、いつものように目の前にヒナリの優しい笑顔があった。
優しく頭を撫でてくれる。
気持ちが良くてまた眠くなる。

「んー。気持ちイイ~。また寝るぅ~」

「え?ちょっとさくら?」

〖 さくら。そろそろ起きないと『美味しいおやつ』がなくなりますよ 〗

「やーん。食べる~」

〖 じゃあ起きましょうね 〗

「ふあ~い」

ハンドくんたちに上半身を起こされて、目をこするさくら。
抱きしめていた『ダッちゃん』は畳まれたタオルケットの上に乗せられる。

〖 ダッちゃんは『さくらを寝かせる』のが仕事です。
さくらが起きたら、ダッちゃんは『寝る時間』ですよ 〗

そのダッちゃんのカラダにタオルがかけられるのを見守っていたさくらの頭をヒナリが撫でる。

「さくら。お腹すいたでしょ?ゴハンに・・・」

「さくらぁー!朝メシ出来たぞー!降りてこーい」

下からヨルクの声が聞こえてきた。
ヒナリが寝室から飛び出して下へ身を乗り出す。

「もう!私が作るって言ったじゃない!」

「だからオレが起こしに行くって言ったじゃないか。
さくらが降りてから作ってたら、さくらがハラ減らすだけだろ」

ヨルクに正論を吐かれて黙るヒナリ。

〖 さくら。出来たてのゴハンを食べに行きましょうか 〗

「うん」

ハンドくんにパジャマから服に替えられると、ハンドくんたちに起こしてもらい寝室から出る。

「ヨルクー。お腹すいたー」

「ゴハン出来てるぞ。冷める前に食べろよ」

テーブルには、焼き鮭など和食が用意されていた。
ヨルクは炊飯器からご飯をよそうと、座ったさくらの前に置く。
それと同時に、さくらに浄化魔法クリーンをかける。

「よし。食ってイイぞ」

「はーい。いっただきまーす!」

手を合わせてから美味しそうに食べ出すさくらを、ヨルクはヒナリと一緒に向かい側の席に座って嬉しそうに眺める。

さくらたちが別荘島に来るのは聞いていた。

〖 獣人族の3人の少女たちに、『獣人独特の戦い方』を徹底的に教えて下さい 〗

セルヴァンがハンドくんからそう頼まれたのだ。
武器を使った基本的な戦い方はハンドくんたちが叩き込んだ。
しかし、『獣人独特の戦い方と身の守り方』を教えるのはハンドくんよりセルヴァンの方が適任だろう。
それは彼女たちが獣人族に偏見を持つ大陸で強く生き抜いていくためになることだ。
いずれ、成長した彼女たちが獣人族に教えていくことになるだろう。

ただ、『瘴気の強いダンジョンにいた』ため、別荘島に来たさくらはそのまま翌朝になっても起きなかった。
それを心配したスゥたちがさくらから離れようとしなかったため、ヨルクとヒナリが呼ばれたのだ。
その時は3日間ぐっすり眠っていた。
目を覚ましたさくらの開口一番のセリフは「あー、よく寝て疲れた~」で、心配していた3人は安心すると同時に気が抜けたのだった。

今でも少し長めに眠るが、それはさくらの身体に多少の負荷が残っているからだ。
『指輪の効果』がなければ、さくらは昏睡していただろう。

「さくら。今日は私たちちょっと時間がかかるから、お昼ごはんは一人になっちゃうけど・・・大丈夫?」

〖 お昼は無人島の『鍛錬組』と一緒に取ります。
どうせですから、さくらは魔法で遊びましょうね~ 〗

「魔法で遊ぶのはいいけど、危ないことはしちゃダメよ?」

「大丈夫だよ。ハンドくんとセルヴァンが一緒だもん」

魔法が得意なドリトス様がいれば安心出来る。
しかし、ドリトス様は、スゥたちの武器を強化するため工房にいる。
セルヴァン様もドリトス様ほどではないが、『さくらを止める』ことは出来る。
・・・唯一の問題は、ハンドくんが『さくらが楽しそう』というだけで暴走を許してしまうことだろうか。

そうヒナリは心配したが、だからといって一緒にいられない以上、信じるしかない。

ヨルクとヒナリも、ハンドくんが神々と共に計画し、ジタンの指示で実現に向けて始動した『さくら様御料牧場』の下見をジタンや補佐官のセイルたちと共に行くのだ。
ジタンたちはハンドくんの無重力で浮かせてもらい、地図だけで立案した内容が可能か実際に見て確認することにしている。

植物の知識がある2人にも、開拓前の植物から大体の地面の状態を確認してもらうのだ。
さらに貯水池などに相応しい場所や水脈などを確認していく。
そして、地盤の固い場所に居住区を作ることも決めている。
それらは、実際に見て確かめるまでは『机上の空論』の域から出ておらず、実際に計画を進めることは出来ない。

神の館で地図を開いた時に土の神から「古い地図だな」と言われたのだ。

「ここの泉は今は枯れているわ」

「今は地盤が固いけど、泉の水脈が元に戻ったら人は住めないわ。
元々、良質な泥が取れる場所だったのよ。
上流の山が管理されなくなって、倒木や落石などで水が堰き止められたのよ」

「それは、『水がなくなって乾燥したから固くなった』ということですね」

「そうよ。当代のエルハイゼン国王は若いのに賢いわ」

「ありがとうございます」

事前にそんな話がやりとりされ、改めて調べたら良質な泥で陶磁器を作っていたようだ。

「再び良質な泥が採取されるようになれば陶磁器職人が喜ぶでしょう」

土魔法で食器や花瓶などを作ることが出来る。
しかし職人が作ったものと違い強度は弱く、耐久は1度か2度しかない。
夜と翌朝まで使えればいい、スゥたちの大陸の旅人たちが荷物を減らすために使っているだけで、普通は職人が作った商品を購入している。
職人は泥から魔力を込めて練りあげて、鹿路ロクロを使って作りあげる。
精度が違うため簡単に壊れないが、使用する泥によって耐久性が大きく変わる。
『御料牧場』で新しく生まれる泥には瘴気が含まれない。
その泥からどんな陶磁器が出来るのか。

ウワサを聞いた陶磁器職人たちは、未知の経験に心を躍らせていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~

狐火いりす@商業作家
ファンタジー
 事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。  そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。 「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」  神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。  露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。  やりたいことをやって好き勝手に生きていく。  なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。  人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。

異世界に転移したので国民全員の胃袋を掴みます

りゆ
ファンタジー
じゅわわわわっっ!!! 豪快な音と共にふわふわと美味しそうな香りが今日もセントラル家から漂ってくる。 赤塚千尋、21歳。 気づいたら全く知らない世界に飛ばされていました。まるで小説の中の話みたいに。 圧倒的野菜不足の食生活を送っている国民全員の食生活を変えたい。 そう思ったものの、しがない平民にできることは限られている。 じゃあ、村の食生活だけでも変えてやるか! 一念発起したところに、なんと公爵が現れて!? 『雇いシェフになってほしい!?』 誰かに仕えるだなんて言語道断! たくさんの人に料理を振舞って食生活改善を目指すんだ! そう思っていたのに、私の意思に逆らって状況はあれよあれよと変わっていって…… あーもう!!!私はただ料理がしたいのに!!!! 前途多難などたばた料理帖 ※作者の実体験をもとにして主に構成されています ※作中の本などは全て架空です

二周目だけどディストピアはやっぱり予測不能…って怪物ルート!?マジですか…。

ヤマタカコク
ファンタジー
二周目チートではありません。モンスター転生でもありません。無双でモテてバズってお金稼いで順風満帆にはなりません。  前世の後悔を繰り返さないためなら……悪戦苦闘?それで普通。死闘?常在でしょ。予測不能?全部踏み越える。薙ぎ倒す。吹き飛ばす。  二周目知識でも禁断とされるモンスター食だって無茶苦茶トレーニングだって絶体絶命ソロ攻略だって辞さない!死んでも、怪物になってでもやりとげる。  スキル、ステータス、内政、クラフト、てんこ盛り。それでやっとが実際のディストピア。 ようこそ。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

聖女は断罪する

あくの
ファンタジー
 伯爵家長女、レイラ・ドゥエスタンは魔法の授業で光属性の魔力を持つことがわかる。実家へ知らせないでと食い下がるレイラだが…… ※ 基本は毎日更新ですが20日までは不定期更新となります

処理中です...