175 / 249
第九章
第175話
しおりを挟む昨日一日休んだからか、スゥたち3人の動きは見違えるほど軽くなっていた。
「やっぱり、私たちは瘴気の影響を受けていたのですね」
「私やルーナだけでなく、なんの兆候も見せなかったスゥまで瘴気が影響していたなんて・・・」
〖 そう簡単に気付けるなら、エンテュースやユリティアの住人も気付けるでしょうね。
いえ。『気付けない』から、様々な犯罪が横行しているのです。
ご主人はともかく、あなたたちも『正常に近い思考を保っている』からこそ、悪事に巻き込まれます 〗
「あの時・・・私たちをご主人が救ってくださった時、他には誰も助けてくれませんでした」
〖 当たり前です。
あの町では、あの男を『銀板所持者』と思い込まされていました。
助けたところで、次に『奴隷として広場に引き出される』のは自分になるだけです。
自分の生命をかけてまで『見ず知らずの他人』を助けるより、『見守る方がラク』だったんです。
分かりますか?『見守る』んです。
あの『バカげた儀式』が無事に終わって『気の毒な奴隷』が殺されるようにね。
口で嫌がっていても、『手を下すのは自分ではない』です。
『自分たちに罪はない』
『イヤでも銀板所持者に従うしかなかった』
あの場に集まっていた連中は、そう言い逃れ出来る『便利な立場』を悪用して楽しんでいました 〗
ハンドくんの指摘に、スゥたちは目を見開いて驚く。
「でも・・・私たちは『助けたくても助けられなかった』って警備隊の人たちから言われました。
謝罪もされました。
神殿でも謝罪されました」
〖 では、あなたたちに謝罪した『町の人』はいましたか? 〗
ハンドくんの言葉に顔を見合わせた3人は首を横に振る。
〖 ご主人はそのことに気付いていましたよ。
ですから『銀板所持者』だと明かして警備隊に命じて動いてもらったのです。
あの、自分の魔法生物にすら命じず『お願い』をするご主人ですよ。
そんな、人に命じて動かすなんてしないご主人が、あなたたちを確実に助けるため『命じる側』に立ったのです。
・・・それは町の人たちに『言い訳をさせないため』です。
本当に助ける気があれば、王都にでも訴えることは出来たハズです。
銀板所持者の悪行を取り締まる部署が各地にあります。
それをしなかった時点で、あの広場にいた者たちも『同罪』です。
・・・それが分かっているからこそ、彼らは謝罪出来なかったのです。
それでも、悲劇の犠牲者が奴隷だったら、彼らの心は少しは軽くなったでしょう。
ですが、現実には『奴隷だと思っていた犠牲者』はあなたたちと同じ『よそから連れて来られた』だけだった。
殺される無実の人たちを救わず見殺しにした。
その自責の念から、彼らは逃れることは出来ません。
ご主人も、あなたたちも、彼らを叱責することなく町を離れました。
謝罪をして心を軽くすることは出来ません。
この先、あなたたちが名を上げれば、彼らは自身の犯した罪から逃げられず、向き合うことになります 〗
「・・・私たちのせいで、あの人たちは苦しみ続けるの?」
「ルーナ。それは違う。
罪と向き合い、罪を償う気が少しでもある人なら苦しまない。
ただ、師匠の言うとおり『自分は悪くない』と言って逃げ続ける人には、『自分の罪と向き合って反省しろ』と責めることになるだけ」
「たくさんの人が『見殺しにされた』以上、それは『仕方がない』と思う。
『助けられなかった』にしろ、ひとこと「悪かった」という謝罪を言わなかった時点で『悪いと思っていない』んだと思う。
ユリティアで言ったよね。
「従者が主人に簡単に殺された」って。
・・・『従者や奴隷』って、私たちが考えているよりずっと軽い生命なんだと思う。
だから、私たちは強くならなくてはいけない。
『私たちの生命が簡単に奪われない』ように」
シーナの言葉にスゥとルーナが頷く。
いつまでも、主人に庇われていられない。
自分の足で立ち、決して負けない強さを。
あの時みたいに、不条理に生命を奪われるようなことにならないように。
そして・・・不条理に奪われそうになった生命を救えるように。
そのためには『立場』も必要になってくる。
たとえ銀板にならなくても、強くなって『周囲から認められる人』になればいい。
3人は改めて誓い合った。
不条理で泣く人を、ひとりでも多く救えるようになる、と。
6
お気に入りに追加
2,637
あなたにおすすめの小説
アイテムボックスだけで異世界生活
shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。
あるのはアイテムボックスだけ……。
なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。
説明してくれる神も、女神もできてやしない。
よくあるファンタジーの世界の中で、
生きていくため、努力していく。
そしてついに気がつく主人公。
アイテムボックスってすごいんじゃね?
お気楽に読めるハッピーファンタジーです。
よろしくお願いします。
好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~
狐火いりす@商業作家
ファンタジー
事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。
そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。
「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」
神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。
露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。
やりたいことをやって好き勝手に生きていく。
なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。
人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!
僕のおつかい
麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。
東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。
少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。
彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。
そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※一話約1000文字前後に修正しました。
他サイト様にも投稿しています。
はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!
さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。
しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。
とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。
『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』
これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。
女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
土岡太郎
ファンタジー
自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。
死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。
*10/17 第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。
*R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。
あと少しパロディもあります。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。
良ければ、視聴してみてください。
【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
https://youtu.be/cWCv2HSzbgU
それに伴って、プロローグから修正をはじめました。
ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる