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第九章
第166話
しおりを挟む再び、ダンジョンに潜っては魔物の討伐とダンジョンの踏破を繰り返していた。
今日はユリティアに戻り、次の町へ拠点を移す準備をしていた。
「そうか。寂しくなるな」
「ボズには随分と世話になったからな」
ボズを含めて、酒を飲むのも今日が最後だ。
ボズも軽い酒なら酔わないようだ。
初日に強い酒を酌み交わしたため、みっともなく酔ったらしい。
・・・まあ。当時は大変だったから仕方がないだろう。
あの、絡んで来る女性冒険者たちの数も減った。
瘴気のせいもあっただろう。
冒険者は瘴気の中に突っ込む。
そして『瘴気の塊』である魔物を倒していく。
それで『瘴気の影響』を受けないはずがない。
さくらたちに問題がないのは、さくらの服には『瘴気を浄化する機能がついている』からと、『獣人は瘴気に強い種族』だからだろう。
しかし、今回、シーナとルーナはその瘴気の影響を多大に受けてしまった。
「身をもって知ることができて良かったな」
共闘を始めて、ハンドくんに瘴気の説明を受けた後、最初にさくらが2人に声を掛けたセリフだ。
3人は改めて『瘴気の怖さ』を知った。
瘴気に強いはずの自分たちがあれほど『異常行動』をしたのだ。
瘴気に弱い人間たちが『おかしくならないはずがない』。
その瘴気を少しでも薄めるために、魔物を討伐していく必要がある。
冒険者は金を稼ぐには良いだろう。
しかし、その『危険性』を知らないで冒険者になるから、対策が出来ず、『冒険者は荒ぶれ者が多い』となってしまう。
ボズたちにもそう説明した。
その事実に誰もが驚き、そして納得した。
さくらたちが来た五ヶ月前と比べて、今のユリティアは大きく変わった。
もちろん『良い方』へ。
「冒険者ギルドと守備隊に説明して、町全体で対策を考えよう。
オレたちは実際に変化を体験したからな。
もう、あの頃みたいに混沌とした日々には誰も戻りたくないだろう」
そう。キッカケは作った。
これから町を良くするか。また悪化させるのかは、町に住む人たちが選ぶことだ。
そして獣人は瘴気に強い。
冒険者じゃなくても、魔物討伐隊として雇うことが可能ではないだろうか。
そしてハンドくんから『受けた瘴気を弱めるには休息が一番』と教わった。
それをシーナとルーナ姉妹が『異常性』と、休息後の言動の違いを見せたことで、この町の人々は事実だと信じた。
何より、『ご主人と行動を共にし、正しく生活していた』スゥには、異常性は一切現れなかった。
その事実は大きかった。
魔物を倒せば瘴気は浄化されていく。
この町の周辺の瘴気は結構減っていた。
もう大丈夫だろう。
町の人々も瘴気が薄くなったせいで、屋台や露店でのケンカなどは減ったため、守備隊の人数も減っていた。
逆に増えたのは活気だ。
もし、すべてのダンジョンの入り口が『有害な魔物は出てきちゃダメ!』となったら、空に『綺麗な景色を見るため』に移動する『ケセラン・パサラン』や『まっくろくろすけ』が、鳥のように飛んでいく風景が見られるかも。
〖 そうですね。
『ケセランパサラン』や『まっくろくろすけ』は無害ですから、ダンジョンから出ても大丈夫ですね。
瘴気も極微量なので、問題は起きませんよ 〗
うん。そうなったらきっと面白いね。
さくらの願ったその世界は、何百年も後に叶えられることになった。
「じゃあ。元気でな」
「ああ。みんなには世話になった」
「いや。こちらこそ世話になった。
この町を良くしてくれたからな。
あとは俺たちがより良くしていくだけだ」
「ああ。頑張れよ」
「そっちもな」
今日は車ではなく徒歩で移動だ。
シーナとルーナが途中まで行った分かれ道まで行くためだ。
そして、その途中にあるダンジョンに寄るためでもある。
もちろん、ここから徒歩で1時間先にあるダンジョンを踏破したら軽自動車に乗って移動する予定だ。
ダンジョンへの道は軽自動車が通れない道幅のため、ハンドくんから『徒歩移動』と言われたのだ。
ハンドくんにはある魂胆がある。
町でまだ『ヒナルクのパーティメンバーに入る』という計画をたてて、狙っている連中を『潰すため』だ。
もちろん、さくらに気付かれないよう『コッソリ』と。
〖 準備出来ました 〗
〖 いつでも行けます 〗
仲間たちから届く連絡に、ハンドくんはさくらの頭を撫でた。
それが『作戦開始』の合図だった。
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