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第九章
第162話
しおりを挟む浮き輪に浮かんで、ハンドくんの水魔法で出来た波にゆらゆら揺られながら、優しく砂浜近くまで運ばれて行くさくら。
背中が進行方向だったのは、シーナたちの泳ぎの練習が見られるから。
風魔法ではなく水魔法なのは、手足をパチャパチャパタパタさせて海水を空中に飛ばして虹を作って遊んでいたから、顔に海水がかかってしまうからだろう。
浮き輪から降りる時に気をつけないと、ひっくり返っちゃうんだよね。
ハンドくんに手伝ってもらおっかな~?
そう思っていたら背後から、「おーい。海から『カワイイ贈り物』が届いたぞー」と聞き覚えのある声が聞こえた。
「・・・・・・え?」
「このまま『オレたちの娘』にしちゃおうぜ!ヒナリ」
驚いて振り向こうとしたら腕が伸びてきて、そのまま『お姫様抱っこ』で抱き上げられた。
同時に乾燥魔法と浄化魔法が掛けられる。
「ヨ、ヨルク?!」
「あら。ホントにカワイイ子ね。『私たちの娘』にしちゃいましょ」
横からヒナリも顔を出してきた。
「・・・ヒナ、リ?」
なんで?と言う前に、ヒナリに強く抱きしめられた。
「もう!本当に『私たちの雛』は困ったカワイイ子なんだから!」
え?何?何が起きてるの?
目を丸くして驚く私の耳に、「さくら。ヒナリに『言うこと』があるじゃろう?」とドリトスの声が聞こえた。
「ヒナリ・・・。勝手に『お出かけ』してごめんなさい・・・」
そう謝ると、ヒナリは身体を離してから私の頬を両手で挟んで「大丈夫よ。怒ってないから」と笑ってくれた。
「・・・怒ってない、の?」
「ええ。『心配』はしたけどね」
「・・・ごめんなさい」
今度は私からヒナリの首に抱きついた。
ヨルクに抱き上げられているから、ヒナリの首に上から抱きつくような状態。
しがみついてから小さな声で「ママ」と呟いたけど、ヒナリにはちゃんと届いたようだ。
優しく抱きしめて、頭を撫でてくれた。
「『私たちの娘』はホントに優しくていい子よね」
「お転婆さんだけどな」
「そこがカワイイのよ!」
「カワイイから、このまま『閉じ込めたくなる』んだよな~」
「確かに。『カワイイさくら』の笑顔を誰かに見せたくはないわ~」
「『寝顔』もカワイイからなー」
「あら。『困った表情』もカワイイのよ」
あれ?
なんか2人が『どっちがどれだけ私の『カワイイ』が言えるか』を競い始めたぞ。
「ホレ。こっちじゃ」
手が見えたため、そっちへ手を伸ばす。
ヨルクもヒナリも、すんなり手を離してくれた。
「ドリぃ」
「おかえり。さくら」
「ただいまー」
ドリトスの首に抱きつくと、いつものように頭を撫でてくれた。
「お久しぶりです。さくら様」
ジタンが笑顔で挨拶をしてくれる。
・・・アレ?『王さま』は?
また、お仕事『取り上げられた』の?
それとも『王さま』クビ?
そう聞いたら「「エルハイゼン国代表として、さくら様に会って来て下さい」って執務室から追い出されました」と笑って教えてくれた。
今では時々、『植物の研究』を理由に『王さまの仕事』を取り上げられて、神の館へ追い出されることがあるらしい。
仕事を優先させようとすれば、「我々は『役立たず』ですか?」との脅し付き。
その様子はまるでハンドくんに似ているそうだ。
「彼らは国王を何だと思っているのでしょう」とグチるジタンだったが、その表情は楽しそうだ。
「さくら。セルヴァンにも『ただいま』しておいで」
そう言ってドリトスの腕から砂浜に下ろされた。
「彼処にいらっしゃいますよ」と言うジタンの視線を辿ると、ワンタッチテントのそばにセルヴァンが立っていた。
セルヴァンの目は、砂浜に向かって泳いでいるシーナたちに向いている。
その様子に動けないでいた私に、ドリトスは「大丈夫じゃよ」と頭を撫でてくれた。
セルヴァンの顔が私の方を見ると、そのまま微笑んで片膝をついて両腕を広げてくれた。
自分でも気付かずにセルヴァンに駆け出していたようだ。
気付いた時はすでにセルヴァンの首に抱きついていた。
「セルヴァン・・・ごめんなさい」
セルヴァンは私の謝罪の意味が分からなかったようだ。
でもすぐに「あの子たちのことか?」と聞かれて黙って頷く。
「謝ることはない。さくらの好きにしていいんだ」
セルヴァンは左腕で抱き上げて、強く抱きしめてから「でも『もう一度』会わせてくれてありがとう」と言ってくれた。
・・・ずっと謝りたかった。
彼女たちに関わったことを。
生殺与奪が出来る立場で関わっていることを。
「セルぅ。ただいま」
「ああ。おかえり」
セルヴァンに直接謝れたことで、やっと『胸のつかえ』が取れた。
そして、セルヴァンの胸のモフモフに顔を擦り寄せて甘える。
セルヴァンも久しぶりに感じる『さくらの温もり』を確認するように優しく抱きしめた。
海から上がってきたシーナたち3人は、見たことのない人たちに驚いていた。
しかし、自身たちの『ご主人様』も『師匠』も、彼らに『警戒』していない。
それどころか、ご主人様は自分たちと同じ『獣人の男性』に抱き上げられて嬉しそうに笑っている。
瞬時に気付いた。
『この人たちが『ご主人様の家族』なのだ』と。
「ねえ。アナタたちが『さくら』と一緒に旅をしてくれている子たちね」
「あ、ハイ」
3人は驚きで固まってしまう。
初対面で、『自分たち』に優しい言葉を掛けてくれる相手は少ない。
話しかけてこなくても、遠くから蔑む目で見られるだけだ。
だから、目の前の女性にも、一緒にいる男性にも、その後ろで見ている2人からも、『差別的な目』を向けてこないことに驚いていた。
それは『獣人の男性』が一緒にいるからだろうか?とも思う。
〖 『挨拶』はどうしました? 〗
ハンドくんの言葉に慌てだす3人。
自分たちの非礼は、ご主人様を『笑い者』にするからだ。
「失礼しました。私はマルシェイナと申します。
ご主人様には『シーナ』と呼んで頂いています」
「あ、あの。妹のシュピルナです。
『ルーナ』と呼ばれています」
「はじめまして。エスティラです。
ご主人と同じく『スゥ』とお呼びください」
3人の挨拶に、目の前の2人が驚いた表情を見せてから笑顔になった。
「はじめまして。私はヒナリ。さくらの『親代わり』よ 」
「オレはヨルク。同じくさくらの『親代わり』だ」
「親、代わり・・・?」
「ああ。オレたちは全員、さくらの『今の家族』だ」
「私たちがね、さくらを『自分たちの娘』として選んだのよ」
「オレたちの種族には『気に入った相手を我が子に出来る』制度があるんだ。
もちろん相手が望まなければ諦めるけど。
まあ、さくらも『ひとりぼっち』だったからな。
今じゃ、オレたち5人とハンドくんたちに、多数の『神様たち』と『恐竜たち』が『さくらの家族』ってところかな」
他にも『親衛隊』がいるが、連中は家族に入らないよな。
ヨルクはそう言いながらヒナリと笑い合う。
〖 何を言っているんですか?
貴方たちは『おまけ』です。
さくらの家族は『ハンドくん一族』だけで十分です 〗
「うげっ!張り合う気かよ。
寝るときはオレたちが一緒に寝てるじゃないか」
〖 貴方たちがいなければ、『ダッちゃん』と私が一緒にいます。
いまでも寝る時は『ダッちゃん』と私が一緒にいます。
ヨルクは影も形もいません 〗
「でも・・・」
〖 なんですか?
何時もさくらが寝てるところをジャマする『ひにゃり』さん 〗
「あ、あれはハンドくんが・・・」
〖 寝呆けたさくらが口にするくらい、何度も寝ているさくらのジャマをしているってことでしょう? 〗
「ほれ。お前ら。ハンドくんに勝てるはずがないじゃろう」
「そうですよ。さくら様のことは、ハンドくんが一番よく『分かっている』のですから。
はじめまして。私はこの2人の幼馴染みで『人族』のジタンと言います」
「ワシは『ドワーフ族』のドリトスじゃ」
ドリトスの名前を聞いて、スゥがハッとする。
「あの・・・私はエスティラと言います。
私の苦無を強化して、壊れた『短剣』を直してくださったのは」
「ああ。ワシじゃよ。
そうか。あの苦無と短剣の持ち主じゃったか。
あの短剣は大切に使われておったのう」
ドリトスの言葉に、スゥは目を輝かせて頭を下げた。
「あの時はありがとうございました!
短剣は今も私の大切な『お守り』です。
そして苦無も強化してくださり、ありがとうございます」
スゥのお礼に「ワシも『壊れた武器を大切に思う子』に会えて嬉しいのう」とスゥの頭を撫でた。
「あれ?スゥ?
ドリトス。スゥが何かしたの?」
さくらがセルヴァンの左腕に抱えられたまま近付いてきた。
「さくら。この子はワシの名前を聞いて『短剣と苦無のお礼』を言ってくれたんじゃよ」
「あれ?スゥにドリトスのこと話したことあったっけ?」
「いえ。ご主人は師匠に『預けていた苦無が届いたか』を確認されたときに『ドリトス様』の名前を出されました。
その後、『短剣を直して下さる方が強化して下さった』と」
「あー。そういえばそんな話をしてたよーな気がする。
コカトリスの後だっけ」
〖 たしかに言いましたね。
コカトリス戦のあとで 〗
「相変わらずさくらは『おバカ』だなー。
ハンドくんと会話する時に、普通にドリトス様の名前を口にしちゃったんだろ」
「ハンドくーん。ヨルクがイジメたー」
さくらの言葉で、ハンドくんがハリセンを振るのを咄嗟に避けるヨルク。
「ウワッ!ちょっと待て!!
そいつは『武器のハリセン』の方じゃねーか!」
〖 それがどうしました? 〗
「『どうしました』じゃねえ!」
〖 小さなことをイチイチ気にするなんて『男らしくない』ですよ 〗
逃げ回るヨルクの背後から、『真鍮のハリセン』をブンブン振って追い回すハンドくん。
「全然『小さなこと』じゃねー!
さくら!笑ってないでハンドくんを止めろって!」
「止めなくていいぞ。さくら。
あの『出来の悪いアタマ』は、一度取り替えたほうがいい」
「セルヴァン!
余計なことをさくらに吹き込むなー!」
「『余計なことを喋るクチ』は、一度取り替えたほうがいいようじゃな」
「ヒナリー!
なんとかしてくれー!」
「ヒナリさんなら、すでにハンドくんの『結界の中』ですよ」
〖 よかったですね。
ヒナリを巻き込まないで逝けますよ 〗
「よくねー!っつーか、絶対字が違うだろ!ぶふぇ!」
走り回っていたヨルクだったが、砂に足を取られて顔面から砂浜にダイブしてしまった。
それと同時に、ハンドくんの『紙のハリセン』が唸りを上げて後頭部を殴打。
それを皮切りに、紙のハリセンを手にしたハンドくんたちから『袋叩き』にされるヨルク。
そしてご丁寧に、ハンドくんたちに掴まれて海の中へ『ポイッ』とされた。
「っだー!!!オレで遊ぶなー!」
海から上がったヨルクは叫び、乾燥魔法と浄化魔法をかけながら戻ってくる。
「さくらを揶揄うからじゃ」
「さくら様を揶揄うということは、ハンドくんに『死刑宣告』を突きつけられても文句が言えないって、何回言えば分かるんですか」
「無理よ。ジタン。
ヨルクはバカだから『死んでも治らない』わ」
「少しは懲りろ」
「ハンドくんは『ヨルクで遊ぶ』のが大好きだもん。ね~」
〖 ヨルクなら何があっても『壊れません』から 〗
・・・ヨルクの『味方』は一人もいなかった。
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