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第八章

第155話

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ご主人と師匠、そしてスゥを探して隣の町へと向かった。
しかし、私たち2人だけでは町まで辿り着けなかった。

『次の町まで歩いて向かう』

そんなことも出来なかった。
地図がないため、街道がふた手に分かれた分岐点で動けなくなった。
2つの矢印には、それぞれ何か書いてある。
でも・・・それが分からなかった。
左手の矢印には『エバステン』。
右手の矢印には『ギルモア』。
どちらも『人の名前』だと分かった。
これははたして町なのだろうか。
誰かの家なのだろうか。

・・・そして、どちらに行けばいいのか分からなかった。





私たちは、またユリティアへ戻って来た。
・・・戻るしかなかった。
とりあえず、冒険者ギルドへ行って、ドロップアイテムを売り捌いてお金にしよう。
そして、今度は何を買おう。
塩とフライパンは買った。
他の調味料も買おうか。

そう思いながら門番の前に進む。
今日は『鯨亭』の亭主だった。

「お前らに、ヒナルクからの伝言だ。
『何をしている』
それだけだ」

「ご主人様に、お会いされたのですか?!」

「ああ。3日前に出て行ったがな」

「他には?ご主人さまは私たちのことを何か・・・」

ルーナも珍しく声をあげた。
最近は声を出すこともなく、元気もなくなっていた。

「・・・俺がお前らに預かった言葉はそれだけだ」

「そう・・・ですか」

その言葉に、私もルーナも落ち込んでしまった。
やっぱり、私たちはご主人様から『捨てられた』のだ。
だから、私たちに掛ける言葉などないし、『これ以上つきまとうな』ということなのだろう。




「お前らへの言葉はそれだけだがな。
俺が聞いた話では、お前らを『捨てた』わけではないようだぞ」

亭主の言葉に顔を上げた私たちに、ご主人様から聞いた話を教えてくれました。
ご主人は『落ち着いて冷静に行動出来れば、もっと『正しい行動』が出来る』と仰っていたそうだ。
たしかに、最近の私は冷静ではありません。
そして、スゥとのレベルの差がドンドン開いていくのを悔しく思っていた。

深呼吸をして、心を落ち着かせてみる。

・・・私は途中から『ルーナを庇うこと』をメインにしていた。
何考えていたんだろう。
私は従者という立場なのに『ご主人様を守る』ことも考えなかったなんて・・・!

その時から、私は『従者失格』だったんだ。



『ルーナは・・・誰かに依存しすぎる。
『戦う』と決めた以上、覚悟をしなければいけないのを、シーナとスゥの存在に甘えていた』

そうご主人様が話していたと知り、私は隣で青褪めているルーナを見る。
私の服にしがみつき震えているのは、ご主人様から『現状を招いた原因』と遠回しに責められていたからだろう。

私たちを『共闘』に分けた方が一番良い。
そう聞いて驚く私に、『スゥはパーティを抜けて『共闘関係』になった』と教えてくれた。
スゥは、ご主人様からも師匠からも実力を認められて、『ご主人様と対等の立場』になった。
すでに従者から『護衛』にランクアップしていたが、そちらはそのままらしい。
そしてスゥは『読み書きも計算も料理も出来るから心配していない』そうだ。
『鯨亭』のメニューも自分で読めているらしい。

・・・私がスゥにまさっているものは、何もなくなってしまった。




ルーナは町に入ってからずっと私の右腕にしがみついている。
私に捨てられないように、と思っているのだろう。
町の中を歩く私たちを、周囲から白い目と陰口が届く。
スゥの礼儀の良さが称賛されている。
続いて「それに比べて」という言葉に続くのは、私たちを批判する言葉だった。
中でも多いのが『屋台でも大人しく並べない』だった。
たしかに、屋台の列に並んでいてもルーナは繰り返し「まだ?」「あとどれくらい待つの?」「お腹空いた」「いい加減待ってるの疲れた」と言い続けて大人しくしていない。
私の背が高いから、「うるさいわねー」「しつけがなってないの?」という大人たちの声が聞こえる。
その度に、嫌がるルーナを無理矢理引き摺って広場を離れていった。
なぜ、静かにするように注意しなかったんだろう。
ご主人様の言っていた通り、私は冷静になれば『正しい行動』が出来る。
今になって『正しい判断』が出来るなんて・・・

冒険者ギルドに入ると、ルーナの手を離して魔獣の肉やドロップアイテムを売却する。
銀貨15枚と銅貨30枚にしてもらった。
そして、膝をついてルーナと目の高さを合わせる。
それだけで怯えるルーナ。
ここがギルドで、今まで残していた魔獣の肉まで売却したこともあり、『パーティの解散』を告げられるのではないかと思っているのだろう。

「ルーナ。よく聞いて。
私たちはこれから『やり直そう』。
私はずっとルーナを甘やかして、自分もご主人様や師匠、スゥに甘えてきた。
だから、それを止めて、もう一度2人で『ご主人様に信頼してもらえる』ようになろう」

私の言葉に、ルーナは泣きながら抱きついてきて何度も頷いた。



ずっとルーナは怖かったのだろう。
ご主人様から離れてからずっと・・・
私はそんなルーナの気持ちすら考えたことはなかった。
気付いてフォローすることもなかった。
いま、ルーナは泣き疲れて眠っている。
そんなルーナを抱えて、私は受付へと向かった。

「すみません。私たちでも泊まれる場所はありませんか?」

「このギルドの上は『簡易宿泊所』になっていますよ」

受付の職員に言われて、はじめて『階段の上』のことに気付いた。
カウンターの外側に階段があるということは、冒険者が使える何かがあるということだ。

「ご案内しますね」

そう言われて、職員の1人が階段の上へと案内してくれた。
上には宿屋と同じ個室が並んでいた。

「こちらはお1人様用です。お2人で泊まられるならもう1つ上の階となります」

「2人部屋でお願いします」

「はい。それではこちらへどうぞ」

3階につくと、部屋の広さは下の1.5倍あった。

「ここでお願いします」

「はい。こちらは一泊銅貨3枚となります。
ちなみに下の部屋は一泊銅貨2枚となります」

ルーナを抱えたままではお金が出せない。
そのためルーナをベッドに寝かせようとして、ルーナが汚れていることに気付いて、ルーナと自分に浄化魔法を掛けてから寝かせた。

「5日間、泊まります」

「はい。それでは銅貨15枚となります。
次からは、下の受付で宿泊することを伝えて頂ければカギをお渡しします。
それではごゆっくり」

「はい。ありがとうございます」

カギを受け取ると、職員は部屋を出ていった。
カギをかけて、空いているベッドに腰掛けた。
眠るルーナを見て思う。
私は『勘違いをしていた』と改めて思った。
『守る』ということは、こんな風に『疲れさせる』ものではない。
もっと別の・・・『正しく導き、必要なら叱る』ことじゃないか?

今になって、やっと気付いた。
普段の私だったら、ダンジョンの外に出されたら、ダンジョンの中へ駆けて戻っていた。
ルーナもそうだ。
私が「ご主人様の所へ戻ろう」といえば頷いたと思う。

「ふ、あ・・・」

なんか、久しぶりに安心したら眠くなってきた。
起きたら。
ぐっすり寝たら、きっと少しは『私らしい私』に戻っている。

私はベッドに潜り込んで、目を閉じた。

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