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第八章
第141話
しおりを挟むお昼にハンドくんが出してくれたのは、何時かの屋台で食べた『海鮮お好み焼きオールスターズ参上!』でした。
エビ・カニは生地と一緒に焼いて、サーモンはあとから乗せてあった。
うん。あの時も上から乗っていたっけ。
それに『粉ものパーティー』の時も、同じものを作ったんだよね。
もちろん、定番の『肉入りお好み焼き』も。
〖 スゥ。これがユリティアの屋台で食べ損ねた『お好み焼き』です。
以前ご主人が作ったものですよ 〗
ハンドくんの言葉に目を輝かせるスゥ。
「屋台は『食べ歩き用』だから二つ折りにして食べたけどな」
「このまま、お皿に乗せたまま食べていい?」
〖 もちろん、いいですよ 〗
「熱いからヤケドするなよ」
「はい!いたーだきます!」
そういうと、フォークで突き刺して口に運ぶ。
ハンドくんが最初から5センチ四方の大きさに切ってくれていたのだ。
ちょうどチヂミみたいなものに近いと思う。
この世界では、主流は箸だけど、スゥとルーナはまだ箸よりフォークに頼っていた。
だから、ハンドくんは事前に切り分けてくれている。
「おいしーです!」
〖 そうですか。
まだありますから、おかわりできますよ。
同じ『海鮮』でも『肉入り』でも 〗
『肉入り』という言葉にスゥは目を輝かせている。
「ハンドくん。次は『肉入り』みたいだね」
〖 そのようですね 〗
さくらの前には丸いままのお好み焼きが皿に乗っていた。
それを箸で切り分けて口へと運ぶ。
その様子をスゥは食べるのも忘れてジーッと見ている。
「どうした?」
「ご主人。箸の持ち方きれい」
「ん?ああ。ずっと箸を使ってきたからな」
〖 どうしました?
せっかくのお好み焼きが冷めてしまいますよ 〗
変わらずジーッとさくらの手を見ているスゥ。
それを見て「箸の練習がしたいのか?」とさくらが聞いてみると、ブンブンと上下に頭を振った。
スゥ担当のハンドくんが箸を持って現れ、正しい持ち方を教えるためにスゥの指を1本ずつ箸に添わせていく。
「スゥ。正しく持てたら、こうやって動かすことが出来るぞ」
さくらが箸を開いたり閉じたりすると、それまで緊張して固くなっていたスゥの指から力が抜けていった。
指をハンドくんたちに支えられながら、切り分けられたお好み焼きを挟んで口に運ぶ。
「おお!上手くいったじゃん。
練習すれば、ひとりで上手に食べられるようになるよ」
「はい!」
スゥは1つずつ確実に『できること』を増やしている。
シーナもルーナも、泣いていては先に進めない。
・・・スゥに追いつけない。
『守りたいものがある』のなら、強くなるしかない。
肉体も、そして精神的にも。
お昼ごはんを食べてから休憩をとっていたが、スゥは苦無を手に担当のハンドくんに相手をしてもらっていた。
ねえ。ハンドくん。
スゥの折れた短剣を私のアイテムボックスに入れたら『壊れる前』に戻せたんじゃない?
なんでそれを止めたの?
『簡単ですよ。
この世界のアイテムボックスには『そんな機能』はありませんから。
それに『壊れてもさくらに直してもらえる』なんて考えを持ってしまったら、『物を大切にしない』でしょう?』
たしかに・・・。
スゥはそんなこと考えないだろうけど、ルーナならそうなりそうだ。
『それに、タイミングをみて苦無にチェンジさせようと思っていました』
ああ。今朝届いたんだっけ。
『そうです。
そのため、短剣を元に戻したら苦無を使おうとはしなかったでしょう』
さくらは、鍛錬に精を出しているスゥを見る。
スゥの動きは『猫そのもの』だ。
苦無は、そんなスゥの『ツメ』の代わりに、どんな敵でも切り裂いてくれそうだ。
「スゥ。そろそろ休みなさい。休憩したら先に進むよ」
「はい!」
スゥは苦無を腰につけた『スリープ』に戻す。
〖 スゥ。左の攻撃が弱いです。
利き手ばかりに頼っていたら、『二刀流』になりません。
左手の苦無は、攻撃を受け流す『盾』ではありませんよ 〗
「はい!師匠!ご指導ありがとうございました!」
スゥは相手をしてもらったハンドくんに頭を下げると、さくらのいるテーブルへ戻って来た。
すぐに別のハンドくんがレモン水を差し出す。
「だいぶ使いこなしてきたな」
「いえ。師匠に何度注意されても、まだ短剣を使っていたクセが抜けていません」
「それはエラい!」
「え?あの、ご主人・・・?」
さくらが誉めるとスゥがキョトンとする。
スゥは『出来ていない』と言ったのを、さくらは誉めているのだ。
「スゥは『クセ』になるほど、短剣を使いこなしていたということだろ?
凄いことじゃないか」
さくらの言葉の意味を理解したスゥは、驚きからか大きく目を見開いてから嬉しそうに笑った。
ダンジョンを進むと、ベアやウルフの他にオークやライノ、オックスにパンサーという強い魔獣が出てくるようになった。
間もなくボス戦が近いと言うことだろう。
この世界のダンジョンは基本が地下へ降りていくタイプだ。
上層階から下層部に向かうに従って、弱い魔獣から強い魔獣になっている。
『下の階ほど、瘴気が濃くなるからでしょう』
んー?
そろそろ上の方は弱い魔獣が、呼んでもないのに「呼ばれて飛び出て~」って、出て来てないかな?
『数は少ないですが、少しずつ現れていますね』
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
これからボス戦なのに・・・
『スゥとの差が大きくなりますね』
すでにスゥは苦無の熟練度も確実に上げていて、攻撃力も400まで上がっている。
今のスゥはレベル76。
ボス戦が終わったらレベル80は確実だろう。
レベルが上がった分、各魔獣との戦い方を覚えたようで、自分で戦略を考えてから確認を取るようになった。
それも、簡単な補足と修正をする程度で、ここでもスゥの分析能力の高さが垣間見れた。
『鵡鳳が戻りました』
ハンドくんが、昨日から強化のためにドリトスに渡してあった日本刀『鵡鳳』が戻ったことを教えてくれた。
アイテムボックスを確認すると、鵡鳳の攻撃力が3,850と高かった。
『ボス相手に一撃で終了ですね』
それはハンドくんも一緒でしょ。
『残念ですが、そこまで高くありません』
白金のハリセンの攻撃力は2,500でしょ?
『熟練度を上げましたから、現在3,012です』
・・・十分強いじゃん。
『さくらは『一撃必中』と『一撃必殺』のスキルを追加した光線銃も使ってますからね』
金ダライも使ってるもんね~。
『ボス戦にも使いますか?』
使ってもいい?
魔獣相手に使ってるからレベル4だよ。
落としたと同時に「試合しゅうりょ~」にならない?
『人間相手には使えませんが、その分魔獣に使っていいですよ。
あれは『魔法』ですから、最大のレベル10まで成長させても、金ダライだけでザコならともかくボスを倒すことは出来ませんよ』
よ~し!
だったらバンバン・・・
『ボス戦に1回だけですよ』
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・『ボス戦』だけ?
『弱い魔獣には使えませんよ。
せめて、魔獣のHPが500以上ないと。
金ダライの攻撃力が200あります。
さらに追加効果で『脳震盪』も。
もちろん。先日のように大量の魔獣が現れて『魔獣の数を減らすため』だったら構いません。
この先もずっと旅行を楽しむのでしょう?
だったら、こんなところで『全開』したらつまらなくなりますよ?』
・・・ならないもん。
『おや?
『ずーっと良い子でカワイイ私のさくらちゃん』は何処に行っちゃったのでしょう?』
此処にいるもん!
『はい。私のカワイイさくらちゃんは此処にいますね。
では、本日のデザートは何にしましょう?』
プリンアラモード!
『プリンの上にホイップクリームとサクランボ。
バニラアイスとフルーツ盛り合わせ』
ハンドくんの言葉に、さくらは我慢が出来なくなってくる。
それに気付いているハンドくんは、さくらの頭を撫でる。
『今日はボス戦前で終わりですよ。
ボス戦は体力を回復させてからの方が良いでしょう。
スゥは今日も1人でよく頑張りましたからね。
今日のデザートはスゥの分も用意しますよ』
甘いものは疲れを取るのに良いんだよね。
スゥが『ここまで頑張ったごほうび』だね。
〖 スゥ。階段を降りたら広場があります。
今日は其処で泊まります 〗
「はい。師匠」
前を歩くスゥにハンドくんが指示を出す。
其処は広場というか・・・重厚な両開き扉の前に出来た空間だった。
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