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第八章
第118話
しおりを挟む露店の場所は聞かなくてもすぐに分かった。
宿からほど近い場所に『中央広場』があり、その広場の『外周』に露店と屋台が並んていた。
そこから放射状に8本の道が城壁まで伸びており、所々に横へ道が出来ていた。
「クモの巣みたい」という率直な感想に『そうですね』とハンドくんが同意する。
見て回るついでに『お昼ごはん』を購入することにしたが、スゥとルーナが屋台の匂いに誘われて落ち着かない。
そのため、シーナが2人を連れてさくらと別行動を取ることになった。
お金はハンドくんたちが預かり、購入時にシーナへ渡すらしい。
「シーナ。2人のことは頼んだよ」
「はい。おまかせ下さい」
すでにシーナに抱えられているスゥとルーナは大人しい。
先程『串焼き』の屋台の香りで涎を垂らしていたのだ。
別に『獣人族は肉の誘惑に弱い』のではない。
つけたタレの『焼ける匂い』に2人の鼻が誘惑されるのだ。
『焼き鳥屋』や『うなぎ屋』の匂いに誘惑されるように。
それも、薄い木の板を貼った『団扇』みたいなもので周りに『タレの罠』を拡散させている。
もちろんシーナも誘惑に誘われたが、2人とは違い『理性』は働いている。
・・・シッポが揺れていたのは大目に見よう。
私はハンドくんと一緒に屋台巡り。
この世界の屋台って『馬車の荷台』がそのまま『屋台』になってる。
私の世界でいう『キッチンカー』と同じだ。
そういえば『馬舎』という『馬しかいない』所がいくつもあった。
屋台を出している間は其処で預かってもらうのか。
『魔獣の襲撃などで『馬の暴走』が起きたら大変ですからね』
『広場で暴走が起きたら死者が出ます』
『それこそ『大惨事』ですよ』
馬って『臆病』なんだよね。
だから1頭が『騒いだ』ら他の馬も暴れるってテレビで言ってたっけ。
そんな話をしていたら、何か『お好み焼き』に似たものを焼いている屋台を見つけた。
看板にはキャベツをメインに3種類の具材が入っているようだ。
左から『サーモン』『エビ』『カニ』とある。
この町の南側に大きめな川があるため、『海鮮』が豊富なのだろう。
それにしても気になることがあるんだけど。
・・・・・・えっとぉ?
『間違いないようですね』
んー。でも『お店の人』に聞いてみた方がいいかな?
「すみませーん」
私が『ちょっと』背伸びをしないと届かない窓に手をかけて、中に声をかける。
「はーい」という声と共にニコヤカな笑顔のお姉ちゃんが顔を見せた。
さらに30センチほど高くにあるカウンターに乗っている『焼けたお好み焼き』を指差して「これはなあに?」と聞いてみる。
すると不機嫌そうに「あー。これは『サーモンのお好み焼き』だよ」と素手で上から押し潰す。
・・・それってお客さんに売る『売り物』だよね。
驚きつつ「それほしい」と言ったら「これは『触っちゃった』からー」と断られた。
だから『焼いてほしい』と頼んだら「弁当とか予約とかあるからねー」だって。
彼女の後ろから年配の女性が顔を出して「ちょっと・・・」と言ったけど、何か暴言を吐いて奥に押しやった。
彼女に似てるから『お母さん』かな?
ハンドくんがだんだん怒り出していくのが分かったけど・・・
でも『手を出す』のはもうちょっとだけ待ってね。
初めての客で『遊んでいる』だけかも知れないから、もう少しだけ粘ってみるよ。
「予約とかの後でもいいから焼いて下さい。取りに来ますから」と頼んだら「だったら5時過ぎるなー。でもその時間なら店を閉めてるかもねー」ってバカにするような口調で言われた。
そんな時だった。
「どうかされましたか?」って男性の声がして、左側を見ると『この町の警備隊隊長』が立っていた。
その後ろには私服・制服の警備隊員もたくさん立ってて『此方』を見ている。
鑑定魔法で『そのこと』を知って目を丸くした私に、もう一度「何か御座いましたか?」と尋ねてきた。
『サーモンのお好み焼き』を指差して「アレを食べたいって言ったら『今日はお弁当と予約がいっぱいで作れない』って断られた」と話す。
「あれは?」と聞かれたから『さっき上から『ぎゅうぎゅう』押し潰してて『素手で触ったから売れない』って言われた』と教えたら「少しお待ちいただけますか?」と言われた。
「予約の人がいっぱいいるし『忙しい』らしいから・・・」と断ったけど、待機していた制服の隊員にベンチへと誘導される。
何か、屋台の裏から中へ話をしている『私服隊員』が3人いるって鑑定魔法が教えてくれる。
10分もしないで、隊長が『ほかほか』のお好み焼きを持ってきた。
「どうぞ。お待たせしました」と差し出されてさらに目を丸くする。
なんで『片ひざ』つかれてるの?
「予約の方がいらっしゃられるのでは無かったですか?」
「予約の方を押し退けて、先に作って頂く謂れは御座いません」
「予約までまだ時間があるので1枚焼くくらいなら問題ないそうです」
「ですが・・・さきほどは『焼いてる余裕はない』と」
「初めて見た顔だったから揶揄ってみただけとのことです」
「では『お代』を・・・」
「いえ。『失礼なことをしたお詫びにお代はいらない』そうです」
『さくら。ここは『好意』を素直に受けなさい』
ハンドくんにも言われたため「分かりました。ありがたく頂きます」とお好み焼きを受け取った。
隊長は「ではごゆっくりお楽しみ下さい」と言って去って行った。
お好み焼きは直径10センチくらいの円形で、『経木』のように薄く削った木の皮で出来た『四角い皿』に乗ってて、ハンドくんが言うには『半分に折って囓りつく』そうだ。
教えられた通り、皿ごと半分に折ってバナナの皮をむくように皿の先端を捲って「いた~だきま~す」と頬張るさくら。
ひと口囓ると不思議そうな顔をした。
『どうしました?』
『お口に合いませんでしたか?』
・・・ねえ、ハンドくん。
『サーモン』以外に『エビ』も『カニ』も入ってるよ?
『オールスター』参上?
『全部のせ』ってメニュー、あったかな?
『それは『さくらを揶揄ったお詫び』だからですよ』
・・・いいのかな?
『一度受け取った『お詫び』を残すのは『失礼』ですよ』
残さないよ。
ただ『サーモン』だと思ったら他の味もしたから『びっくりした』だけだもん。
お好み焼きの屋台を見ると、カウンターを拭いていた年配の女性と目が合った。
私がペコリと頭を下げると『お辞儀』で返された。
あ・・・。座ったままでは失礼だったかな?
立ち上がろうとしたけど、ハンドくんに止められた。
『あれは『迷惑をかけてすみません』って意味です』って教えられて『これ以上『騒ぎ』になったら彼女たちが『大変なこと』になりますよ』と脅された。
そしてハンドくんの操作で、私のMAPがAR表示で目の前に開かれた。
『広場内』に『警備隊』の表示になってる人たちが沢山いる。
『『問題を起こした』彼女たちは彼らに『見張られている』んですよ』
『これ以上騒ぎを起こしたら、即『捕縛』です』
『あの『女性』も一緒に『奴隷落ち』になります』
・・・え?なんで?
『さくらは『銀板持ち』でしょう?』
私の『銀板』って門番以外に見せてないよね?
『鑑定石にかけられれば『さくらに無礼を働いた』ことが表示されます』
『店のオーナーが『監督不行届』で罪を負いかけたのと同じですよ』
思わず屋台を見たが、女性は奥に入ったのかいなくなっていた。
・・・『お好み焼き』なら自分でも作れるから、断られた時に屋台から離れてればよかったな。
『『食べてみたかった』のでしょう?』
『相手が『さくら』でも『それ以外』でも、『客を揶揄う』時点で『お説教』を受けて当然です』
『これが『他の銀板じゃなくて良かった』ですよ』
『他の銀板でしたら即『奴隷落ち』でしたから』
そうだね。
でも『階級制度の世界』なのに、何故『私に無礼な態度』がとれるんだろう?
『『銀板』が少ないからですよ』
『銅板が殆ど。銀板は1割。金板に至っては大陸全体の『ひと握り』だけです 』
『そのため『相手は銀板や金板ではないか?』と気を張るより『自分と同じ『銅板』だ』と思う方が『ラク』なんです』
つまり銀板や金板に出会ったら『運が悪かった』って?
『そうなりますね』
ジタンみたいに『誰にでも堅苦しい態度』をしていれば良いのにね。
『本当に『そう』思いますか?』
・・・・・・・・・思わない。
『ウザい』だけだね。
『そうですね』
遠い空の『向こう』の執務室で、『新米国王』がクシャミした。
「風邪ですか?」
「いえ・・・違うと思います。『寒気』はないので」
「でしたら『何方か』が噂をされたのでしょう」
「さくら様だと良いのですが」
「『良い噂』でしたらいいですね」
自身の言葉に思わず頭部を押さえて周囲を警戒する『主君』に苦笑する。
さくら様が『この世界を知るため』に冒険旅行に出られた時は、次から次へと舞い込む『仕事』に集中していたために『落ち込む余裕』はなかった。
もしかすると、さくら様は『それを見越して』戴冠式の翌朝に出られたのだろうか。
執務補佐官は窓の外を見遣って心の中で祈る。
『さくら様に優しい世界』が、この空の下に広がっていることを。
『お好み焼き』を完食して、屋台に近付くと年配の女性が気付いて出てきた。
「あ!お好み焼き美味しかったです。ごちそうさまでした」
そう言って頭を下げると女性も慌てて頭を下げてきた。
あれ?さっきの『怖い人』がいない。
『配達にでも行ったか『他の用事』で出かけたのでしょう』
あ、そっか。
もう一度頭を下げて、また『屋台巡り』を開始した。
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