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第七章
第113話
しおりを挟む「ところでヨルク。貴方は『此処の植物調査』を本当にするつもりでいるのですか?」
ジタンの言葉に全員の視線がヨルクに集中する。
「ああ。できればやりたい」
「だから『さっきの提案』を受けようと思う」
ヨルクはそう言って恐竜たちに向く。
「魔獣島に行く時は『護衛』を頼めるか?」
恐竜たちは顔を見合わせる。
そしてティラノに視線が向かう。
彼らはティラノが『自分たちのリーダー』と認めているようだ。
[ それは『さくらのため』になるの? ]
「ああ。『この世界の瘴気』が少しでも薄くなれば、さくらは『今より』元気になれる」
「オレは・・・『オレたち』はそう信じて『植物研究』をしている」
ヨルクの隣にジタンが並ぶ。
「はい。さくら様は『身体の周囲』に結界を張って、その中を『浄化』することで『外』に出られています」
「別の言葉にするなら、『そこまでしないと生きられない』のです」
ハンドくんが、まだ研究中の『同時通訳』魔法を使ってくれているため、少しのタイムラグで恐竜たちの『言葉』が分かる。
生まれて間もないせいか、思考はまだ幼いようだ。
[ さくらのため? ]
[ さくらが元気になるため? ]
[ 『ごしゅじんさま』さっきも寝てた ]
[ 元気になったら『ご主人さま』と、もっと遊べる? ]
[ あそべなくなったら? ]
[ そうなったら『さくらが泣く』 ]
[ ぼくたち『ごしゅじんさま』泣くの見たくない]
恐竜たちは口々に『自分の思い』を口にする。
ハンドくんと神々が、恐竜たちの『質問』に一つずつ答えていく。
それもすぐに『答え』が出た。
ティラノがヨルクに向く。
[ 『となりにいく』時は『守る』 ]
[ でも『ごはん』じゃないから『追い払う』だけ ]
[ なにか起きたら、すぐに『こっちへもどる』。やくそくして ]
〖 一応、自分たちの方からも何人か『付き添い』ます 〗
〖 ですが『危険なことはしない』と約束して下さい 〗
さくらとヒナリが来る前の『やり取り』も、この『約束』があったからか。
「約束する。『危険なことはしない』し『何か起きればすぐに此方へ戻る』と」
これは生命をかけた『大事な契約』だ。
そのため、ヨルクは真面目な表情で『約束』を口にする。
この場には、セルヴァンたちだけでなく『神々』もいる。
必然的に『誓約の立会人』となってくれたのだ。
「『誓約』は成された」
創造神がそう『宣言』すると、ヨルクとティラノがキラキラと光る。
「ねえ。どうしたの?何かあったの?」
さくらの声が突然響いた。
〖 さくら。どうしました? 〗
「何かあったのか!」
さくらのもとへと走り出そうとするセルヴァンやヨルクは、ハンドくんたちに『取り押さえられる』。
その状態でもヨルクはさくらに声をかける。
「あのね。島が『ウレシイ』って喜んでいるの」
「みんなが『仲良し』になるのがウレシイって」
「『ウレシイ』がいっぱいになると『島が豊かになる』んだって」
「・・・誰が『そのようなこと』を?」
「この島!」
ジタンの呟きはさくらに届いたようだ。
以前に聞いたさくらの話だと、『別荘島』にも『他の無人島』にも『島の意思』が存在している。
その『島の意思』が『喜んでいる』らしい。
「この島と隣の島にある『珍しい植物の研究』がしたいって言ったら、恐竜たちが協力してくれることになったんだ」
「だから喜んでいるんだね」
「喜んでいるか?」
「うん」
さくらからも嬉しそうな声が聞こえる。
〖 さくらは何をしていますか? 〗
「アンキロの背中に乗って『恐竜島』観光中だよ。あ!『木の実』なってる~!」
「きゃー!ダメー!さくら!それ食べちゃダメぇー!」
「ペッしなさい!まだ『安全』か分からないのよ!」
ヒナリの悲鳴が『直接』耳に届いた。
さくらは『風魔法』で声を届けてきていたが、案外近い所にいるのだろうか。
「ハンドくん」
〖 此処にある果実はすべて、食べても大丈夫なものです 〗
「そうよ。さくらが遊びに来る恐竜島に『食べられないもの』なんて植えないわ」
「何でもすぐに『口にする』子だもの。ねぇ?」
「さくらの世界にある『果物』を、此方用に『作り変えた』ものよ」
「キミたちの『研究』には使えない『特別製』だ」
「植物を『作り変える』ことは可能なのですか?」
「ああ。『種の状態』でならな」
「それを『植物』に関わる私たちで育てたのよ」
しかし、それを出来るのは瘴気をなくした、この『さくらの島々』だけだ。
もちろん、瘴気が溜まるように出来ている隣の魔獣島の植物には出来ない。
さくらの世界では、『昆虫』が『受粉』の手伝いをしないと実がならない。
しかし、この世界には『昆虫』がいない。
『受粉』の手伝いをしてくれる『代わりの生き物』もいない。
代わりに『一つずつ』受粉させていくのは大変だ。
そしてそれをハンドくんたちに押し付けるのは失礼な話だ。
それこそ『乙女なんかいくらでも替えがきく』と思っていた、アリステイド大陸に生きる者たちと何ら変わらない。
そのため、風で吹かれるだけで『自分で受粉』するように作り変えたのだ。
ハンドくんに頼んだのは『収穫』だけだ。
彼らは『島の管理』の一つとして請け負ってくれた。
ジャムやアップルパイなど作って出してくれたが・・・
さくらに出す前に出されたということは『毒見』だったのだろう。
それでも・・・自分たちが作った果物だ。
さくらが口にして『何かあった』らそれこそ困る。
もちろん『ハンドくんの報復』も怖いが、『他の神全員から睨まれる』のも怖い。
そして、絶対!二度とさくらには会わせてもらえない!
それを回避出来るなら、『毒見』なんて大したことではない。
それにハンドくんは『本当に食べられないもの』を出すことはない。
さくらもハンドくんも、『食べ物を無駄にしない』のだ。
「きゃー!さくら!ダメ!食べちゃダメー!!」
またさくらが果物を口にしようとしたようだ。
「ちょっと行ってくる」
ヨルクがヒナリの声がした方へ飛んでいった。
程なくして「ヨルク!さくらを止めて!」と聞こえたが、それ以上はヒナリの声は聞こえず、時々楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
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