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第七章
第105話
しおりを挟む「ヒナルク殿」
神官長に呼ばれて立ち止まる。
穏やかで優しい目をしたこの神官長を見ているとドリトスを思い出す。
「こんな時間にお呼び出ししてしまい申し訳ございませんね」
「いえ。『神官長』様がそう簡単に神殿から出られては、警備隊の皆様が大変でしょう?」
「時々『困らせてみたい』と思いますわ」
神官長の言葉に背後に控える若い警備隊員が青褪める。
この神官長は揶揄っているだけで、実際には行動しないようだ。
『さくらとは違いますから』
私は『困らせてみたい』じゃないよ。
『困らせている』んだもん♪
『さらに『悪い』です』
自分の方が「行動力がある~」と勘違いしている様子のさくら。
『冒険旅行中』は、ちゃんとそばにいて『お世話』をしないと、と改めて誓うハンドくんだった。
神官長の私室に招かれたヒナルク。
神官長は「ヒナルク殿と『大事なはなし』があるから」と警備隊員に『部屋の外からの警備』をお願いした。
「ヒナルク殿。この度はご迷惑を承知で『押し付ける』事になってしまい申し訳ございません。その上、貴方の『奇跡』を私共の『功績』として奪う結果になった事も申し訳なく思っています」
神官長は深く頭を下げてくる。
「神官長様。頭を上げて頂けませんか?」
「これは『自分自身が望んだこと』でもあるのですから」
そう。
私は『宿屋で見せた奇跡』を『神殿の起こした奇跡』にすり替えてもらったのだ。
回復魔法は一般的に『光魔法』が有名だ。
しかし『水魔法』と『木魔法』、『地魔法』にも回復魔法はある。
『光の回復魔法』が有名なのは『初心者レベル』で覚えられるからだ。
ただし光魔法を使える人が少なく、そのほとんどが『神官』として神殿に『招かれる』。
ちなみに、この世界では男性でも女性でも共に『神官』と呼ぶ。
そして水魔法と木魔法の回復魔法は『上位級』で覚えられるそうだ。
ちなみに『地魔法』は『木魔法』と同系統だが、よりランクの高い『中位魔法』のため、『光魔法』よりは多いが使える者自体は少ないそうだ。
この冒険旅行に出る前、神々に『基本魔法』をすべて教わってあるから、もしも「中位級魔法を使ってみろ」と言われても困りはしない。
もちろん『使う相手』は『言った張本人』だ。
・・・どう転んでも、私は『珍獣扱い』になるところだったが。
それを『神殿の起こした奇跡』にすることで、私は『自由』を。神殿は『名声』を。それぞれ『手にできる』のだ。
その代わり、私から『条件』を出した。
その1。
獣人の少女3人の身柄を私が預かること。
彼女たちは『住んでいた村』が魔獣に蹂躙された。
その前に村に張られていた『危険予知』の魔法が発動したため、村人たちは逃げ出して無事だった。
彼女たちは逃げる途中で家族たちと逸れてしまったらしい。
とりあえず3人で街道まで出たところで、偶然馬車が通り過ぎた。
その馬車から出てきた男に「この町に『保護施設』がある」と言われてついてきた。
そして『保護施設』として連れて来られたのが『ジョルトの屋敷』だった。
そこで首輪をつけられて地下に閉じ込められ、『あの日』広場に引き出された。
残念ながら、村の名前など分かることはない。
ただ「何日も馬車に揺られて、いくつもの村を通ってきた」そうだ。
小さな2人が指を折りながら数えていたけど、途中で指が足りなくなったと言って足の指まで数えていたらしい。
・・・つまりそれほどの日数をかけたのか、村を通ってきたのかは分からないが、『遠くから来た』のは間違いない。
そのため『あてどのない旅』をしている私が連れて行くことで『手掛かり』を見つけることが出来るかも知れないのだ。
とりあえず3人に『ここに残って家族が見つかるのを待つ』か『一緒に旅をして家族を探す』か聞いてみた。
3人は「「「行く!」」」と即答した。
そして、その2。
『宿屋の娘』に罪を問わないこと。
「・・・・・・『これ』は一体どういうことなのか説明して下さい」
父親である宿屋のオッチャンが神殿に運ばれてからそう聞いた。
彼女は買い物の途中で、男たちの『ヒナルク襲撃』の計画を聞いてしまった。
ただ、『いつ』『どこで』なのかは分からなかった。
一度買い物した荷物を置きに宿屋へ帰ると、『ヒナルクは部屋に帰っている』とのこと。
用心のためにヒナルクには『別の部屋』の鍵を渡して、自分は『残りの買い物』をするために外へ出た。
途中で最近宿で顔を合わせることが増えた『警備隊副隊長』に会って、ヒナルクがすでに襲撃を受けていたことを知った。
それで自分が聞いた話をして副隊長たちと共に戻った時には、宿屋は『襲撃を受けた後』だった。
・・・犯人たちに『心当たり』がある。
『アクセサリーショップ』だ。
そう考えると時間的に『ピッタリ』あう。
私の襲撃に失敗して『実行犯』は捕縛された。
そして私の指摘で、アクセサリーショップに捜索が入った。
その捜索から『何らかの理由』で逃れた者たちが、『荷物』か『私自身』か『その両方』か。
何かを狙って襲撃したが、私は『いなかった』ため逃げ出した。
部屋が『使われていない』と勘違いされた理由はハンドくんが『時間魔法』を使ったからだ。
出かける前に、室内に時間魔法を掛けて『部屋に入る前』の状態に『時間を戻している』。
私の髪も時間魔法で『寝ぐせができる前』に戻しているのだ。
あんなに親切にしてくれた人たちを『巻き込んでしまった』ことが申し訳なかった。
オッチャンの傷は塞がったが、体内から流れ出た血液は汚れてしまっているため戻すことは出来ない。
そのため、今は神殿で『保護』されて回復に努めている。
治癒魔法で『血液を少しずつ増やしている』らしい。
気を付けないと目眩や嘔吐などの症状が現れるからだ。
しかし、明日の午後には宿屋へ戻ることが出来るだろう。
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