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第七章
第102話
しおりを挟む部屋に戻ったさくらは、お昼ごはんとデザートのソフトを食べてからベッドに入ると、すぐに眠りについた。
別荘で散々泣いたため、泣き疲れて眠かったのもあるが、寝るときにハンドくんから頭を撫でてもらって安心したのが一番大きかっただろう。
〖 覗き魔 〗
ハンドくんが小さな声で呟くと「そいつはヒドいなー」という男の声が聞こえて創造神とアリスティアラが姿を現した。
〖 さくらから『来るな』『かかわるな』と言われなかったか? 〗
「・・・言われました。ですが・・・」
言葉を詰まらせるアリスティアラにハンドくんは深く息を吐いたように空気を『振動』させる。
〖 『別荘での記憶』は消さなくていい 〗
「それはどういうことだ?」
〖 分からないですか? 〗
〖 あの時『泣いた』のは『安心したから』でもありますが、今までココロの底に溜まっていた『泣き叫びたい感情』が爆発したのもあるからです 〗
〖 記憶を消したら、また『その感情』がさくらの中に戻ってきてしまうのですよ 〗
ハンドくんの言葉に創造神とアリスティアラは何も言い返せなかった。
『ヨルクがいなくなった』と言って泣いたり、『セルヴァンとドリトスが帰ってこないかも』と言って泣いたことはある。
ヒナリに『嫌い』と言われて泣いたことも。
しかしさくらは、決して感情のまま泣いたことがない。
あの『別荘で泣いた』のが初めてだった。
〖 さくらは『あの時』自分で『答えを導き出して』立ち直ったのです 〗
〖 そんな『さくらの気持ち』も『なかったこと』にするのですか? 〗
ハンドくんの言う通りだ。
否。ハンドくんの言葉は『正論』だ。
『泣くほどの事があったら何でも消してしまう』のは間違いだ。
『自力で『乗り越えた』』のだから、辛くても残すべきだろう。
「分かった。『記憶の削除』はしない。ただ『体内の浄化』だけでも、させてもらえないかな?」
〖 半分なら 〗
「ああ。それでも構わない」
すべての『澱』を消してしまえば、自分たちが来ていたことに気付かれてしまう。
そうすれば『神の館』に二度と戻らないだろう。
・・・せっかく『さくらの帰る場所』が出来たのだ。
『さくらの帰りを待つ人たち』がいるのだ。
『マンション』や『別荘』、『召喚獣の住む島』を含んだ『無人島諸島』だけの世界で人生を終わらせるようなことはさせたくない。
そして『すべてを拒否』して自ら眠り続ける一生は絶対させたくないのだ。
アリスティアラがさくらに手を翳すとさくらの全身がピンク色に輝く。
〖 やり過ぎです 〗というハンドくんの声で、アリスティアラがハッと我にかえる。
「ご、ごめんなさい!」と慌てて手を引っ込めるが、ハンドくんに〖 これ位なら誤魔化します 〗と言われて息を吐く。
ハンドくんはさくらが寝てからも、ずっとさくらの頭を撫で続けている。
まるで『さくらの記憶』を守るように。
〖 そろそろ帰って下さい 〗
〖 これ以上此処にいられたら、この部屋が『清浄化』してしまいます 〗
〖 そうなったら、さくらを誤魔化すことが出来なくなります 〗
「分かりました。・・・さくらの事、お願いします」
〖 はい。くれぐれも『別荘の様子』を『彼ら』にはみせないで下さい 〗
〖 彼らに心配させるのをさくらは望まない 〗
「ああ。分かった」
創造神の言葉でハンドくんがさくらの頭から離れる。
アリスティアラがさくらの頭を撫でて「いっぱい楽しんできてね」と囁いて頬にキスをする。
さくらが『ふにゃり』と微笑んだのにつられて微笑んで創造神と交代する。
さくらの頭を撫でながら「好きなように『暴れて』おいで」と言った創造神。
ハンドくんが〖 これ以上暴れたら『大変なこと』になりますよ 〗というが「構わんよ」と笑う。
そう。さくらの言動で『良い方向』に向かっていく。
この町に蔓延っていた『悪い空気』の温床は、大半が『さくらの手』で片付けられた。
・・・まるで『瘴気が浄化』されるように。
〖 一応確認しますが・・・あの『獣人たち』が現れたのと『さくらの冒険旅行』が『重なった』のは偶然ですか? 〗
「ああ。間違いなく『偶然』だ。我々は誰も手を加えてはいない」
そう。少女たちの登場には神々も驚いた。
それでもすべて『さくらに任せる』ことにした。
いくつか『選択肢』はあった。
銀板の彼女には『公開私刑』に行かないことも出来たのだ。
しかし彼女は『殺しを見たくない』から『助ける』ことを選んだ。
・・・そして『出会った』。
さくらの冒険旅行が1日遅れていたり、少女たちの『公開私刑』が1日早かったら『出会うことはなかった』のだ。
〖 分かりました。その言葉を信じましょう 〗
「おい」
〖 そうでしょう? 〗
〖 『そのこと』が原因で、さくらに『精神的負荷』がかかって寝込むところでした 〗
〖 もしも『誰か』が関わっていたら『紙のハリセン』程度では許していませんよ? 〗
それに気付いたハンドくんがセルヴァンに『話』をつけてきたおかげで、さくらの負担は軽くなり寝込まずに済んだのだ。
「分かっている。『約束』通り、我々はさくらに気付かれないよう『見守る』だけだ」
〖 覗きは『ほどほど』にして下さいね 〗
「『覗き』ではないと言うのに」
〖 では『さくらのストーカー』 〗
「違います!」
アリスティアラの声に「う、ん・・・」とさくらが身動ぎする。
すぐに創造神が手を翳してさくらを魔法で眠らせると、静かな寝息が室内に戻った。
「・・・ごめんなさい」
アリスティアラが頭を下げる。
ハンドくんはさくらの頭を撫でながら〖 貴女は何時まで気付かないのでしょうね 〗と意味深な言葉を呟く。
創造神は「え?」と驚いているアリスティアラの肩に手をかけて「すまない」と謝って部屋を後にした。
・・・創造神の『謝罪の相手』と『その意味』を知るハンドくんは、さくらの頭を優しく撫で続けていた。
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