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第六章

第86話

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「え?一体此処はどこなの?」

ヒナリの驚きも仕方がないだろう。
ここには『なにもない』のだ。
同じく周囲を見渡すドリトス、セルヴァン、ヨルク。
そしてジタンも一緒だ。

「ここはね。『夢の中』だよ」

さくらの声がしたが、さくらの姿はどこにもない。

「さくら?どこ?ねえ・・・」

さくらの姿が見えないことに不安になるヒナリ。
そんなヒナリの肩を抱いて「シッ。静かに」と注意するヨルク。

「ゴメンね。ヒナリ」

さくらが謝る。

「もうね。そこの大陸には居ないんだ」

そうしてさくらは話す。
元々、エルハイゼン国に長くいるつもりはなかったことを。
イレギュラーの自分がいたら『国に迷惑がかかる』と思っていること。
そして、このアリステイド大陸の人たちが知らない『別の大陸』に渡る予定だったこと。
・・・・・・もう『帰らないつもりだった』こと。

それを聞いて誰もが愕然とした。


「でもね。『神の館』が出来て、『私の帰る場所』が出来たの」

だから『いつになるか分からない』けど・・・・・・

「帰ってきたいって思ってる」



「『帰ってきたい』じゃなくて『必ず帰ってきなさい』よ!」

ヒナリが泣きながら叫ぶ。

「さくら様。僕は迷惑だなんて考えたことは一度もありません。逆にさくら様には感謝しています。自分の視野が狭かったことに気付かせて下さったことを」

ジタンは率直に心の内をバラす。

そんな2人の様子に、さくらが笑ったような気配がした。

「うん。だからね。私は『予定通り』他の大陸の人たちの生活とか見て回ってくる」

この世界のこと、なんにも知らないのって『もったいない』でしょ?
ハンドくんも一緒だから大丈夫だよ。
色んなこと『体験』してくるね。



じゃあ。みんな・・・

「行ってきま~す!」




ドリトスたちは同時に飛び起きた。
そして『さくらが眠っていた』場所に目をやるが、そこにさくらはいない。

「そんな・・・」

ヒナリがショックで言葉を失う。

「うわっ」という声とともにジタンが入り口に姿を現した。
どうやらハンドくんたちに連れてこられたようだ。

「ジタン。さくらが・・・」

ヨルクの言葉に体勢を整えたジタンはやはりショックを受けるが、すぐにまっすぐな表情で「このことは国民には内緒にしましょう」と言い切った。
いなくなったと聞けば、騒動も起きるだろう。
「自分たちを見限っていなくなった」とウワサされる可能性もある。
そうなれば、一番ツラいのはいずれ戻ってきた時にその事を知ったさくらだ。

「さくら様は『この世界を知るため』に出かけられたのです。ですから『神の館この家』に必ず戻られます」


「さくらは・・・さくらは私たちのもとへ帰って来るのですか・・・?」

ヒナリは泣いて赤くなった目をみんなに向ける。
しかし、その目には力強い『意思』を秘めている。

「すぐかどうかは分からない。しかし時間がかかってでも帰って来ると『信じている』」


セルヴァンの言葉にドリトスとヨルク、ジタンの3人は頷く。


「ヒナリさん。さくら様は『行ってきます』と仰られました。それは『帰ってくる』つもりだからです」


そう。ジタンの言う通り、さくらは「行ってきま~す」と言ったのだ。
そしてあの時だけさくらは姿を見せて笑顔で手を振っていたのだ。
さくらのことだ。
『帰ってくる気がない』なら「じゃあね」「元気でね」「バイバイ」だろう。
「お世話になりました」と言って頭を下げているだろう。


「なあ。ヒナリ。此処は『さくらの帰ってくる場所』だ。だから待っててやろう?」

「僕は『植物の研究』を続けます。いずれさくら様がお戻りになられた時に『少しでも成果をご報告』出来るように」

「そいつが上手く行ったら『桜』を育てようぜ!」

「いえ。桜だけでなく様々な『さくら様の世界の植物』をこの国内外で育てようと思っています。それは『この世界の瘴気を薄める』ことに繋がると思っていますから」

「私も!私にも手伝わせてください!」


ジタンとヨルクの会話にヒナリが顔を上げる。
そんなヒナリにジタンは「もちろんです。一緒に頑張りましょう」と手を差し伸べた。




「本当にキミたちには驚かされる」

突然男性の声がしてジタンは現れた男性の姿に驚く。

「ジタン。この世界の『創造神』だ」

ヨルクの言葉にジタンは胸に手を当てて頭を下げる。
ジタンは何度か神々と会ったことはあるが、創造神とは初対面だった。
その姿に頷いた創造神は、全員を隣の部屋へと移動させる。
座卓には『手袋をしていないハンドくん』が待っていた。

「さくらはキミたちの世話のためにハンドくんたちを残した」

それはつまり『ここへ戻ってくる』ことを意味しているのだ。
そしてハンドくんはリモコンをパチパチと弄ると、テレビ画面には荒野の中にある城壁に向かって歩く『茶髪の少年』の後ろ姿が映った。

それはドリトスでなくても分かった。


「「さくら!」」

ヨルクとヒナリが声を揃えてテレビに呼びかけた。
すると2人の声が聞こえたのだろうか。
『さくら』が立ち止まり後ろを振り向く。
そして、そのまま振り仰いだ。
じっとこちらを見たさくらの目には『決意』が浮かんでいる。
さくらはそのまま城壁に身体を戻すと再び歩き出した。

映像はそこで途切れた。

「キミたちが心配するだろうから『時々』見られるようになっている」

「ありがとうございます。それだけで十分です」

ヒナリがまっすぐな目で創造神を見る。

「さくらは『自分の選んだ道』を歩き出したのです。だから私たちは『自分たちの出来ること』をしながらさくらの帰りを待ちます。さくらが帰ってきた時に恥ずかしくないように。胸を張ってさくらに『おかえり』と言えるように」

ヒナリの『決意』に誰もが頷く。

その様子に創造神は「さすがだな」と関心する。
以前はさくらが2時間『外出』しただけで取り乱したヒナリだったが、今は『いつ帰るか分からない』さくらを待つという。
それも『自分の出来ること』をしながら。


「では『いいこと』を教えよう」

これはさくらの使う身分証を作る際に『どんな名前にするのか』聞いた時の言葉だ。


「名前?だったら『ヒナルク』で。だって、私はヒナリとヨルクの『子供ヒナ』だもん。だから2人から名前を貰っていつも守ってもらうの」

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