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第五章

第52話

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この最上階全体の空気はこの世界の空気を『清浄化』させている。
そんな空気でも身体を慣らしていないとすぐにこの世界の『瘴気が混じった空気』に対応が出来なくなって苦しむことになる。

そうハンドくんに説明されてヒナリは慌てだす。
しかし、ハンドくんに『此方こちら最低さいていにち時間じかんごせば大丈夫だいじょうぶ』と言われて安心する。

「さくら。ごはんを食べる時は此方に戻って食べましょうね」

「『夜はコッチに戻って寝る』ってのも良いかもな」

ヒナリとヨルクはなんとかして『さくらが苦しまないで楽しく過ごせる方法』を話し合う。
さくらも「こっちで寝るときにまた『獣化じゅうか』してくれる?」とセルヴァンに『おうかがい』を立てている。
もちろん大切なさくらの『小さなお願い』をセルヴァンが断るハズがなかった。



ハンドくんが出してくれた『ハニーホットミルク』を飲み終えたさくらの目はもう半分閉じだしていた。

「さあ。そろそろ寝ようかね?」

ドリトスに頭を撫でられたさくらは無言で頷いて、そのままコテンとドリトスにもたれる。
その様子にドリトスは苦笑して、さくらを抱き上げると『さくらの部屋』へと運んでいく。

先ほどまで過ごしていた部屋の隣に『新しい部屋』があり、何かが床に並べられていた。
これが『お布団』なのだろう。
3つの布団が同じ方向に並べられて、残りが頭を向かい合わせになっている。
そして3つ並んだ真ん中の布団に『ダッちゃん』が置かれていた。
この並びだと、誰もが『さくらの寝顔』を見ることが出来るのだ。

「ダッちゃ~ん」と言いながら抱きまくらを抱きしめた寝間着姿のさくらはそのまま夢の中。
左右にドリトスとヒナリが陣取り、ドリトスの頭側にセルヴァン、向かい合う布団にヨルクが寝ることに。
誰もが布団に潜り込んで、左側を向いて眠るさくらの寝顔を見ていた。

ハンドくんが部屋の電気を消すと藺草いぐさの香りで4人もすぐに眠りについた。




夜中に目を覚ましたさくら。
上半身を起こすと各々の布団にみんなが寝ているのを確認してニコリとする。
でも小首を傾げるとキョロキョロと周りを見回す。
『ハンドくーん』と思念で呼ぶとすぐに現れて、さくらの身体を持ち上げるとリビングへと連れて行く。


「あー。やっぱりいたー」

「あら?起きてきちゃったの?」

リビングでは以前のように神々がくつろいでいた。

「『やっぱり』って事は気付いていたのか?」

「うん。ごはん食べにリビングへ戻ったときに」


あの時さくらがキョロキョロしていたのは、『神々がいた痕跡』を辿たどっていたからだった。
ハンドくんたちは創造神の右足を枕にしてさくらを寝かせる。
『ダッちゃん』をさくらに渡すのも、タオルケットを掛けるのも忘れない。


「・・・おい」

「創造神様に『ひざまくら』してもらうの?良かったわね~」

「『吉夢良い夢』が見られるぞ」

神々の言葉にさくらはニコニコ。
その様子を見ていた創造神は黙ってさくらの頭を撫でた。




「ねえ。エアリィ」

「なあに?」

さくらが風の女神エアリィを呼ぶと、彼女はさくらの前に座って『ダッちゃん』を抱いている腕を撫でる。

「あのね・・・『怒気』の時、怖くて無意識にエアリィの『真名まな』を呼んじゃった。・・・ごめんなさい」

さくらの目から涙が零れる。
エアリィが零れる涙をぬぐって目尻にキスをする。

「あの時は『真名』でよかったのよ。私たちのチカラは強すぎて『個人相手』には使えないの。だから『真名』を呼んでもらう必要があったのよ」

「ずっと気にしてたのか」

頭を撫で続けている創造神は、黙ってコクンと頷くさくらに「気付いてやれなくて悪かったな」と謝る。
さくらは『真名を使って相手を『使役』する』ことは知っていた。
しかし『神が『特定の相手』にチカラを使うために真名を使う』ことは知らなかったようだ。
いや。知っていても『真名を使う』ことを躊躇ためらっただろう。


・・・さくらは『そういう子』だ。


『あの時』はあまりの恐怖でさくらの精神もギリギリだった。
だから無意識に『真名』を呼んで救いを求めたのだろう。
そして、ずっと『真名を呼んでしまった』ことを後悔して苦しんでいたのか。

一度真名を呼ばれた風の女神は『制限の解除』がされて自由にさくらの下へ現れるようになった。
さくらはそれを『使役』と勘違いしたのだろうか。


「なあ。『我らがいとし子』よ。どうせだから、我ら全員の『真名』を呼んではどうだ?」

「そうすれば、『さくらを守るため』に我らは何時いつ如何いかなる時でもチカラを貸せるぞ」

「でも・・・」


さくらはやはり『真名を呼ぶ』ことに躊躇う。

「お主らとはまだ『お友達じゃない』から『名前を呼び合う必要はない』ってさ」

そう言って笑う『水の女神アクアティティ』。
彼女はさくらに『真名』を呼ばれた一人だ。
理由は高熱で寝込んでいたさくらが脱水症状を起こしたことがあるからだ。
この世界に点滴はない。
そのため彼女がさくらの身体の水分管理をしていたのだ。

「・・・アクア~」

困った顔をして水の女神を『愛称』で呼ぶ。
そんなさくらのクチに小さな氷を作って入れる。
「のど乾いているでしょ?」と『さくらだけ』には優しい水の女神に「ちゅめた~い」と笑い返すさくら。
その笑顔に周りにいる神々の顔がゆるむ。

そのまま目が『とろーん』となって閉じていく。


「さあ。そろそろお休み。我らが愛し子よ」

創造神がさくらの身体に掛けられたタオルケットの上からトントンと軽く叩く。

「また『前みたい』に『みんな一緒』にいられる?」

「『彼ら』と一緒にいるのに『寂しかった』のか?」

創造神に聞かれて「『全員み~んな一緒』がいい」と呟く。
もちろん『ドリトスたち』と一緒にいられて嬉しい。
でも『広い座卓』を見ると、常時10人以上が座って賑やかだった神々の姿がないのが寂しかったのだ。
そんなさくらの頭をアクアが撫でる。

「もう少しだけ待ってね。今はまだ『やること』が残ってるの」

「それが終わったらまた『リビング ここ 』で一緒にいてくれる?」

「それをさくらが望むなら」

「ドリぃたちと、神様たちと、『みぃ~んな一緒』がいい・・・『どっちか』だけは寂しいよぉ」

さくらの目からふたたび涙が溢れて創造神のズボンを濡らす。

「約束しよう。『やること』がすべて片付いたらまた一緒に居ることを」

「ホント!?」

「『ゆびきり』でもするか?」

創造神が小指を差し出すとさくらが笑って小指を絡ませる。

「ゆびきった~」

さくらが笑顔で小指を離すと「約束破ったら『ゲンコツ一万回と縫い針千本飲む』んだからね」とクスクス笑う。
そんなさくらの頭を撫でているとそのまま寝息が聞こえてきた。
安心したのだろう。
笑顔を浮かべて眠るさくらに、見守る神々も自然と笑みが零れた。


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