50 / 249
第五章
第50話
しおりを挟むさくらが『その映像』に気付いたのは偶然だった。
クイズ番組が終わってもつけっぱなしだったテレビから、夜のニュース番組の予告が流れたのだ。
『過去最大規模の爆発事故』
『未曾有の大災害』
そんな言葉と共に映された数秒間の映像。
何も無い『荒れ地』が広がっていたが離れた場所に見慣れた建造物がいくつも映っていた。
それは『見覚えのある地域』だ。
この世界に来るまで住んでいた所だった。
・・・爆発事故?
・・・未曾有の大災害?
・・・・・・どういうこと?
膝だっこをしていたさくらがテレビをみた瞬間、驚きの表情をして身体を硬くする。
思わずさくらを抱き寄せたのと周囲が無音の闇に包まれたのが同時だった。
「さくら!」
「さくら!大丈夫か!」
ヨルクとヒナリがさくらの身を案じて声をあげるが、腕の中にいるさくらはカタカタと小刻みに身体を震わせている。
時々当たる手はドリトスだろう。
ドリトスもさくらの様子に気付いていたようで、静かにさくらの名を繰り返し呼びながら頭を撫でて気持ちを落ち着かせようとしている。
「大丈夫だ。さくらなら俺の腕の中にいる」
俺の言葉に「よかった」と安堵するヨルクとヒナリの声が聞こえた。
何も見えない闇の中だ。
下手に動くとケガをしかねない。
「いつまでセルヴァンの腕の中にいるんだよ。『オレのさくら』を独り占めしやがって・・・」という普段なら聞こえないヨルクの小さな声も、この無音状態の中ではハッキリ聞こえた。
ヨルクには『さくらバカ』の一件も含めて、後で制裁確定だ。
気が付いたら、一面コバルトブルーの海に似た空間にペタリと座り込んでいた。
周りを見渡す。
水族館の大水槽の前にいるような・・・そんな気分で癒される。
「さくら!よかった。此処にいたのね」
突然姿を現したアリスティアラが首に腕を回して抱きしめてくる。
創造神も一緒だ。
表情は変えなかったが、さくらの姿をみて安堵していた。
・・・さくらは自覚していないが、ニュースの映像をみて深いショックを受けたココロが『現実逃避』をしたのだ。
現実の世界が『闇』に覆われたのも、さくらのココロを受けてのことだった。
「・・・ここは?」
「以前、さくらが作り出した空間だ」
見上げていた創造神にそう言われて「そう言えば『怒気騒動』でトンズラこいた時に逃げ込んだ場所か」と呟くと、創造神に「『避難した場所』だろう?」と苦笑しながら訂正された。
「・・・で?」
「なんだ?」
「あの『事故』って何?私がこの世界に来たのと関係してるの?」
「・・・無関係ではないな」
私の言葉にアリスティアラがピクリと身体を震わすが離れようとしない。
その状態のままで創造神から『当日』の説明をしてもらった。
あの『爆発事故』は最初から起きることが決まっていたらしい。
「私は『その時』に死ぬ予定だった?」と尋ねたら「キミは残業で帰宅が遅くなって助かっている」と言われた。
でも『あの日あの瞬間』は自宅にいたじゃん。
そう言ったら『事故』の時間をずらして『転移』と重ねたらしい。
元々、事故が起きる時刻は夕方だったそうだ。
そのため『死ぬハズの生命』が助かり、『助かるハズの生命』が喪われた。
私の住んでいた場所も1階の店舗が起こした『二次災害』の大爆発で消失する予定だったそうだ。
それでこの世界に『ワンフロア』を持ち込めたんだ。
そして『家に帰っていた人たち』は転移の直前に『向こうの神様』に『消滅』させられたそうだ。
『神の手』にかかった人たちは『転生の環』に入らず、すぐに転生したらしい。
・・・すべてが『吹き飛んだ』から『愛車をこの世界に』って私のワガママも聞けたんだね。
「瓦礫の中から出して復元するのに時間が掛かったけどな」
そう言って創造神は苦笑する。
じゃあついでに。
『なぜ事故は起きた』の?
「港地区の工場から漏れだしたガスが風に乗って広がり、離れた場所にある製鉄所の『火』に引火した。夜だったから広範囲に広がったガス漏れに気付かれなかった」
「じゃあ『本来の時刻』で事故が起きていたら?」
「もっと大惨事だ。被害者は『万』を超えていた」
「事故は終業時間間近か帰宅ラッシュ直撃ってことか」
私の言葉に創造神は頷く。
事故が起きたという港地区は所謂『工場・工業地帯』だ。
そこで働いている人だけでも数千人はいる。
そして事故の起きた範囲だけでも、数多くの工場や住宅、保育園から大学まで複数の教育施設まである。
ショッピングセンターもあるから、沢山の人たちが買い物や食事に来ていただろう。
『本来の時間』なら沢山の人たちが『事故範囲内』にいただろう。
創造神の言うとおり被害者が『万』を超えていてもおかしくない。
夕方なら交通渋滞だって日常茶飯事だし、公共交通機関はいつも通り満員だっただろう。
それらの人たちを含めると『万』の下に『数千人』が付いていたハズだ。
「一つだけ確認したいんだけど・・・『母は無事』?」
そう聞いたら「周りの高い建物が『防風壁』となって、実家やその周辺はしない建物も住民も無傷だ」と言われて安心した。
風は西から東南の方面に流れていたため、私の住んでいた場所は『ギリギリ爆発に巻き込まれた』状態に近いらしい。
店舗による『プロパンガスの大爆発』がなければ「半数は生き残っただろう」とのこと。
それにしては更に『広範囲』が被害受けていたようだけど?
そう聞いたら『老朽化』が原因の崩壊だったらしい。
そのため『大きな通りに並んで建てられた比較的新しい建物』が防風壁の役目をして命運を分けたそうだ。
・・・そう。『防風壁』で跳ね返された風が、勢いを増して周囲の古い建物を破壊したのだ。
そして・・・創造神の話だと、公式に発表されているこの災害での死者・安否不明者は数千人。
実際は高速道路や一般道などを『偶然通りかかって巻き込まれた』人もたくさんいたため、『公式発表』の数より『倍』はいるらしい。
繰り返された大爆発+大火災だったため『跡形もなく』吹き飛んで消えてしまったそうだ。
最初の爆発で建物は瓦礫と化し、火災が瓦礫ごと埋もれた人を焼き、連鎖で二次・三次と続いた爆発が、人々が存在していた『痕跡』のすべてを吹き飛ばした。
住人は住民票に加えて、家族や同僚、友人知人の証言で『安否不明者』に加えられたし、会社で『夜勤』だった人たちも勤務表などで証明された。
それ以外に『間違いなく巻き込まれた』にもかかわらず証明出来ない被害者は、『通常の行方不明者』『家出捜索人』として片付けられているようだ。
簡単に言えば『慰謝料を支払う相手は少ない方がいい』からだろうね。
・・・そして私は安否不明者の『仲間入り』をしているそうだ。
「確かに『異世界』にいるんだから安否確認はムリだよね~」
そう笑ったら創造神に「笑い事か?」と呆れられた。
でも「じゃあ写メ撮って、SNSに『無事だよ~ん』ってアップしてもいい?」と聞いたら「そいつはダメだな」と笑われた。
最後に創造神が、現場を『俯瞰』で見せてくれた。
広範囲で物の見事に『なにもない』。
所々で見えるアスファルトの残骸で、そこがかつて『道』だったと分かる程度だ。
そこで分かった、私の住んでいた所が『ギリギリ』だった理由。
堤防と堤防に挟まれた南側の地域の方が大きな被害を受けたのは分かった。
その堤防を乗り越えて『爆発の余波を受けた』という感じだ。
ガス漏れの現場周辺も広範囲に吹き飛んでいた。
「これって、対岸やその周辺も爆風で被害を受けているんじゃない?」
「否。西風が強くて爆風は湾内で勢いを無くして対岸まで届いていない」
その分、西風の威力が増して被害が拡大したらしい。
「爆発・炎上したとはいえ『こんな状態』になるもんなの?」
どんなにガス爆発・炎上したとはいえ『何もなくなる』ってあるのだろうか?
建物の枠組みすら残っていない。
すでに『片付けられた』可能性はあるが、それにしては『なんにもない』のだ。
・・・土台も、何もかも。
あるのは『雑草が疎らに生えた大地』だけだ。
「それは『この世界の神』が『決めたこと』だ」
「・・・天罰?」
「否。間違いなく『人災』だ。ただ『あまりにも酷い状態』だから・・・『残された者たち』も『惨状の映像をみた者たち』も『精神に異常をきたす』」
「創造神は『その映像』をみせてもらったの?」
そう聞いた瞬間、イケメンの眉間にシワが寄る。
・・・そんなに『酷い映像』だったんだ。
私の拙いアタマでも想像できる。
千々にちぎれて吹き飛んだ『万』を超える遺体。
捜索に向かった自衛隊ですら『目を逸らす』だろう。
マスコミやスマホ片手に『面白半分』で現場に入った野次馬たちも心が壊れただろう。
そんな彼らが映像をネットで流して、興味本位でみた人たちの心も・・・
聞いた話だと『尾根に墜落した史上最悪な飛行機事故』の現場に入った捜索隊やマスコミの人たちの中では、あまりにも酷い現場に『心を病んだ』人が複数人いたらしい。
他国で起きた『2棟のビル崩壊事件』では、更に凄惨な現場だったために『心が壊れた』そうだ。
あの時は『ガレキに付着した小さな皮膚片』ですら回収していたとも聞いた。
『元の世界』の神さまは『そうならないよう』に『消滅』させたのだろう。
「・・・みせんぞ」
無言になった私を心配したのだろう。
軽く冗談を言うように話す創造神の顔には、まだ眉間にシワが残っている。
「イヤな映像思い出させてゴメン」
私の言葉に創造神は一瞬驚いた顔をしたがすぐに微笑み、「あれは『現実には起きなかった』ことだ」と言いながら頭を撫でてくれた。
創造神との会話中もずっと無言で私を抱きしめているアリスティアラ。
カタカタと私に抱きついて震えているアリスティアラに苦笑する。
「ねぇ。アリスティアラ」
そう呼び掛けるとビクリと身体を震わせる。
「こう考えられないかな?『私はその事故で運良く生き延びて、この世界に『引っ越してきた』んだ』って」
そう言ったらアリスティアラもだけど創造神まで一緒になって驚いていたよ。
だってこういう事故が起きたら『避難』とかするでしょ?
たくさんの人たちが亡くなったり行方不明のままの場所では『捜索作業』があるから当分・・・
そして爆発は『工場』も含まれている。
もし有害物質とか検出されていたら何十年も住めないし。
『雑草が疎らに『しか』生えていない』ってことは『その可能性』が高い。
それに『住むところ』をなくしたら引越しをするよね。
その『引越し先』が『この世界』だった。
・・・そう考えちゃダメかな?
「ねぇ。アリスティアラ。『生きる場所をなくした私』に『住むところ』を与えてくれたのが貴女なんだよ」
この世界へ連れて来てくれてありがとう。
そう伝えて抱きしめ返す。
私はアリスティアラの涙をはじめてみた。
8
お気に入りに追加
2,636
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~
狐火いりす@商業作家
ファンタジー
事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。
そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。
「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」
神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。
露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。
やりたいことをやって好き勝手に生きていく。
なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。
人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
異世界転移したので、のんびり楽しみます。
ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」
主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。
異世界に転移したので国民全員の胃袋を掴みます
りゆ
ファンタジー
じゅわわわわっっ!!!
豪快な音と共にふわふわと美味しそうな香りが今日もセントラル家から漂ってくる。
赤塚千尋、21歳。
気づいたら全く知らない世界に飛ばされていました。まるで小説の中の話みたいに。
圧倒的野菜不足の食生活を送っている国民全員の食生活を変えたい。
そう思ったものの、しがない平民にできることは限られている。
じゃあ、村の食生活だけでも変えてやるか!
一念発起したところに、なんと公爵が現れて!?
『雇いシェフになってほしい!?』
誰かに仕えるだなんて言語道断!
たくさんの人に料理を振舞って食生活改善を目指すんだ!
そう思っていたのに、私の意思に逆らって状況はあれよあれよと変わっていって……
あーもう!!!私はただ料理がしたいのに!!!!
前途多難などたばた料理帖
※作者の実体験をもとにして主に構成されています
※作中の本などは全て架空です
元構造解析研究者の異世界冒険譚
犬社護
ファンタジー
主人公は持水薫、女30歳、独身。趣味はあらゆる物質の立体構造を調べ眺めること、構造解析研究者であったが、地震で後輩を庇い命を落とす。魂となった彼女は女神と出会い、話をした結果、後輩を助けたこともあってスキル2つを持ってすぐに転生することになった。転生先は、地球からはるか遠く離れた惑星ガーランド、エルディア王国のある貴族の娘であった。前世の記憶を持ったまま、持水薫改めシャーロット・エルバランは誕生した。転生の際に選んだスキルは『構造解析』と『構造編集』。2つのスキルと持ち前の知能の高さを生かし、順調な異世界生活を送っていたが、とある女の子と出会った事で、人生が激変することになる。
果たして、シャーロットは新たな人生を生き抜くことが出来るのだろうか?
…………………
7歳序盤まではほのぼのとした話が続きますが、7歳中盤から未開の地へ転移されます。転移以降、物語はスローペースで進んでいきます。読者によっては、早くこの先を知りたいのに、話が進まないよと思う方もおられるかもしれません。のんびりした気持ちで読んで頂けると嬉しいです。
…………………
主人公シャーロットは、チートスキルを持っていますが、最弱スタートです。
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
アイテムボックスだけで異世界生活
shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。
あるのはアイテムボックスだけ……。
なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。
説明してくれる神も、女神もできてやしない。
よくあるファンタジーの世界の中で、
生きていくため、努力していく。
そしてついに気がつく主人公。
アイテムボックスってすごいんじゃね?
お気楽に読めるハッピーファンタジーです。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる