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第五章

第50話

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さくらが『その映像』に気付いたのは偶然だった。
クイズ番組が終わってもつけっぱなしだったテレビから、夜のニュース番組の予告が流れたのだ。

『過去最大規模の爆発事故』

未曾有みぞうの大災害』


そんな言葉と共に映された数秒間の映像。
何も無い『荒れ地』が広がっていたが離れた場所に見慣れた建造物がいくつも映っていた。
それは『見覚えのある地域』だ。

この世界に来るまで住んでいた所だった。




・・・爆発事故?


・・・未曾有の大災害?



・・・・・・どういうこと?





膝だっこをしていたさくらがテレビをみた瞬間、驚きの表情をして身体を硬くする。
思わずさくらを抱き寄せたのと周囲が無音の闇に包まれたのが同時だった。



「さくら!」

「さくら!大丈夫か!」

ヨルクとヒナリがさくらの身を案じて声をあげるが、腕の中にいるさくらはカタカタと小刻みに身体を震わせている。
時々当たる手はドリトスだろう。
ドリトスもさくらの様子に気付いていたようで、静かにさくらの名を繰り返し呼びながら頭を撫でて気持ちを落ち着かせようとしている。

「大丈夫だ。さくらなら俺の腕の中にいる」

俺の言葉に「よかった」と安堵するヨルクとヒナリの声が聞こえた。
何も見えない闇の中だ。
下手に動くとケガをしかねない。
「いつまでセルヴァンの腕の中にいるんだよ。『オレのさくら』を独り占めしやがって・・・」という普段なら聞こえないヨルクの小さな声も、この無音状態の中ではハッキリ聞こえた。

ヨルクには『さくらバカ』の一件も含めて、後で制裁確定だ。




気が付いたら、一面コバルトブルーの海に似た空間にペタリと座り込んでいた。
周りを見渡す。
水族館の大水槽の前にいるような・・・そんな気分で癒される。


「さくら!よかった。此処にいたのね」

突然姿を現したアリスティアラが首に腕を回して抱きしめてくる。
創造神も一緒だ。
表情は変えなかったが、さくらの姿をみて安堵していた。

・・・さくらは自覚していないが、ニュースの映像をみて深いショックを受けたココロが『現実逃避』をしたのだ。

現実の世界部屋の中が『闇』に覆われたのも、さくらのココロを受けてのことだった。



「・・・ここは?」

「以前、さくらが作り出した空間だ」

見上げていた創造神にそう言われて「そう言えば『怒気騒動』でトンズラこいた時に逃げ込んだ引きこもった場所か」と呟くと、創造神に「『避難した場所』だろう?」と苦笑しながら訂正された。


「・・・で?」

「なんだ?」

「あの『事故』って何?私がこの世界ここに来たのと関係してるの?」

「・・・無関係ではないな」


私の言葉にアリスティアラがピクリと身体を震わすが離れようとしない。
その状態のままで創造神から『当日』の説明をしてもらった。


あの『爆発事故』は最初から起きることが決まっていたらしい。
「私は『その時』に死ぬ予定だった?」と尋ねたら「キミは残業で帰宅が遅くなって助かっている」と言われた。
でも『あの日あの瞬間』は自宅にいたじゃん。
そう言ったら『事故』の時間をずらして『転移』と重ねたらしい。

元々、事故が起きる時刻は夕方だったそうだ。
そのため『死ぬハズの生命』が助かり、『助かるハズの生命』が喪われた。
私の住んでいた場所も1階の店舗が起こした『二次災害』の大爆発で消失する予定だったそうだ。


それでこの世界に『ワンフロア』を持ち込めたんだ。


そして『家に帰っていた人たち』は転移の直前に『向こうの神様』に『消滅』させられたそうだ。
『神の手』にかかった人たちは『転生の』に入らず、すぐに転生したらしい。


・・・すべてが『吹き飛んだ』から『愛車をこの世界に』って私のワガママも聞けたんだね。


「瓦礫の中から出して復元するのに時間が掛かったけどな」

そう言って創造神は苦笑する。




じゃあついでに。
『なぜ事故は起きた』の?

「港地区の工場コンビナートから漏れだしたガスが風に乗って広がり、離れた場所にある製鉄所の『火』に引火した。夜だったから広範囲に広がったガス漏れに気付かれなかった」

「じゃあ『本来の時刻』で事故が起きていたら?」

「もっと大惨事だ。被害者は『万』を超えていた」

「事故は終業時間間近か帰宅ラッシュ直撃ってことか」

私の言葉に創造神は頷く。

事故が起きたという港地区は所謂いわゆる『工場・工業地帯』だ。
そこで働いている人だけでも数千人はいる。
そして事故の起きた範囲だけでも、数多くの工場や住宅、保育園から大学まで複数の教育施設まである。
ショッピングセンターもあるから、沢山の人たちが買い物や食事に来ていただろう。
『本来の時間』なら沢山の人たちが『事故範囲内』にいただろう。

創造神の言うとおり被害者が『万』を超えていてもおかしくない。
夕方なら交通渋滞だって日常茶飯事だし、公共交通機関はいつも通り満員だっただろう。
それらの人たちを含めると『万』の下に『数千人』が付いていたハズだ。


「一つだけ確認したいんだけど・・・『母は無事』?」

そう聞いたら「周りの高い建物が『防風壁』となって、実家やその周辺はしない建物も住民も無傷だ」と言われて安心した。
風は西から東南の方面に流れていたため、私の住んでいた場所は『ギリギリ爆発に巻き込まれた』状態に近いらしい。
店舗による『プロパンガスの大爆発』がなければ「半数は生き残っただろう」とのこと。

それにしては更に『広範囲』が被害受けていたようだけど?
そう聞いたら『老朽化』が原因の崩壊だったらしい。
そのため『大きな通りに並んで建てられた比較的新しい建物』が防風壁の役目をして命運を分けたそうだ。

・・・そう。『防風壁』で跳ね返された風が、勢いを増して周囲の古い建物を破壊したのだ。



そして・・・創造神の話だと、公式に発表されているこの災害での死者・安否不明者は数千人。
実際は高速道路や一般道などを『偶然通りかかって巻き込まれた』人もたくさんいたため、『公式発表』の数より『倍』はいるらしい。
繰り返された大爆発+大火災だったため『跡形あとかたもなく』吹き飛んで消えてしまったそうだ。

最初の爆発で建物は瓦礫と化し、火災が瓦礫ごと埋もれた人を焼き、連鎖で二次・三次と続いた爆発が、人々が存在していた『痕跡』のすべてを吹き飛ばした。
住人は住民票に加えて、家族や同僚、友人知人の証言で『安否不明者』に加えられたし、会社で『夜勤』だった人たちも勤務表などで証明された。
それ以外に『間違いなく巻き込まれた』にもかかわらず証明出来ない被害者は、『通常の行方不明者』『家出捜索人』として片付けられているようだ。

簡単に言えば『慰謝料を支払う相手は少ない方がいい』からだろうね。

・・・そして私は安否不明者の『仲間入り』をしているそうだ。

「確かに『異世界ここ』にいるんだから安否確認はムリだよね~」

そう笑ったら創造神に「笑い事か?」と呆れられた。
でも「じゃあ写メ撮って、SNSに『無事だよ~ん』ってアップしてもいい?」と聞いたら「そいつはダメだな」と笑われた。



最後に創造神が、現場を『俯瞰ふかん』で見せてくれた。
広範囲で物の見事に『なにもない』。
所々で見えるアスファルトの残骸で、そこがかつて『道』だったと分かる程度だ。
そこで分かった、私の住んでいた所が『ギリギリ』だった理由。
堤防と堤防に挟まれた南側の地域の方が大きな被害を受けたのは分かった。
その堤防を乗り越えて『爆発の余波を受けた』という感じだ。
ガス漏れの現場周辺も広範囲に吹き飛んでいた。

「これって、対岸やその周辺も爆風で被害を受けているんじゃない?」

いや。西風が強くて爆風は湾内で勢いを無くして対岸まで届いていない」

その分、西風の威力が増して被害が拡大したらしい。



「爆発・炎上したとはいえ『こんな状態』になるもんなの?」

どんなにガス爆発・炎上したとはいえ『何もなくなる』ってあるのだろうか?
建物の枠組みすら残っていない。
すでに『片付けられた』可能性はあるが、それにしては『なんにもない』のだ。
・・・土台も、何もかも。
あるのは『雑草がまばらに生えた大地』だけだ。


「それは『この世界の神』が『決めたこと』だ」

「・・・天罰?」

いや。間違いなく『人災』だ。ただ『あまりにも酷い状態』だから・・・『残された者たち』も『惨状の映像をみた者たち』も『精神に異常をきたす』」

「創造神は『その映像』をみせてもらったの?」

そう聞いた瞬間、イケメンの眉間にシワが寄る。
・・・そんなに『酷い映像』だったんだ。


私のつたないアタマでも想像できる。
千々にちぎれて吹き飛んだ『万』を超える遺体。
捜索に向かった自衛隊ですら『目を逸らす』だろう。
マスコミやスマホ片手に『面白半分』で現場に入った野次馬たちも心が壊れただろう。
そんな彼らが映像をネットで流して、興味本位でみた人たちの心も・・・

聞いた話だと『尾根に墜落した史上最悪な飛行機事故』の現場に入った捜索隊やマスコミの人たちの中では、あまりにも酷い現場に『心を病んだ』人が複数人いたらしい。
他国で起きた『2棟のビル崩壊事件』では、更に凄惨な現場だったために『心が壊れた』そうだ。
あの時は『ガレキに付着した小さな皮膚片』ですら回収していたとも聞いた。

『元の世界』の神さまは『そうならないよう』に『消滅』させたのだろう。


「・・・みせんぞ」

無言になった私を心配したのだろう。
軽く冗談を言うように話す創造神の顔には、まだ眉間にシワが残っている。

「イヤな映像モン思い出させてゴメン」

私の言葉に創造神は一瞬驚いた顔をしたがすぐに微笑み、「あれは『現実には起きなかった』ことだ」と言いながら頭を撫でてくれた。


創造神との会話中もずっと無言で私を抱きしめているアリスティアラ。
カタカタと私に抱きついて震えているアリスティアラに苦笑する。


「ねぇ。アリスティアラ」

そう呼び掛けるとビクリと身体を震わせる。

「こう考えられないかな?『私はその事故で運良く生き延びて、この世界に『引っ越してきた』んだ』って」

そう言ったらアリスティアラもだけど創造神まで一緒になって驚いていたよ。


だってこういう事故が起きたら『避難』とかするでしょ?
たくさんの人たちが亡くなったり行方不明のままの場所では『捜索作業』があるから当分・・・
そして爆発は『工場』も含まれている。
もし有害物質とか検出されていたら何十年も住めないし。
『雑草が疎らに『しか』生えていない』ってことは『その可能性』が高い。
それに『住むところ』をなくしたら引越しをするよね。
その『引越し先』が『この世界』だった。


・・・そう考えちゃダメかな?


「ねぇ。アリスティアラ。『生きる場所をなくした私』に『住むところ』を与えてくれたのが貴女なんだよ」


この世界ここへ連れて来てくれてありがとう。
そう伝えて抱きしめ返す。




私はアリスティアラの涙をはじめてみた。




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