43 / 249
第四章
第43話
しおりを挟む目を覚ますと、ベッドの中だった。
頭を撫でられて顔を向ける。
「さくら。大丈夫かね?」
『・・・・・・・・・ドリトス?ここは?』
「『さくらの部屋』じゃよ」
ボーッとした頭を動かす。
ああ。確かに『エルハイゼン』にある『私の部屋』だ。
でも『なんで寝てる』んだっけ?
「熱を出して寝込んだんじゃよ」
表情を読んだドリトスが今の状況を説明してくれた。
ああ。創造神に『呼吸器系の強化』をしてもらって熱を出したのか・・・
額や頬にあててくるドリトスの手に何故か安心する。
ココロの何処かで不安な気持ちもあったが、ドリトスの手がそんな不安を払拭してくれた。
・・・何故『不安』になったんだろう?
「まだ熱が残っておるな」
そっかー。
熱が出てるから頭がボーッとしてるんかな?
不安な気持ちも熱のせいなのかな?
・・・なんだろう。
何か忘れてる気がするんだけど。
考え事をしていたら、ドリトスが額に固く絞ったタオルを乗せてくれた。
冷たくて気持ちがいい。
ってことは、やっぱり熱があるんだなー。
「もう少し眠っていなさい」
『ドリぃは?』
「大丈夫じゃ。起きるまでずっとそばにおるからのう」
布団の上に伸ばしたままの手を握ってくれる。
そして、もう片方の手で頭を撫でてくれた。
それに安心したらまた眠くなってきた。
「おやすみ。さくら」
頭を撫でてくれるドリぃの手が優しいから、目を閉じたらそのまま深い眠りに落ちていった。
清浄魔法をかけると、さくらが目をゆっくり開けた。
目を覚ましたさくらだったが、熱のせいか虚ろな目をしている。
頭を撫でると顔を向けてきた。
「さくら。大丈夫かね?」
『・・・・・・・・・ドリトス?ここは?』
「『さくらの部屋』じゃよ」
口を動かして『会話』をするさくら。
やはりまだ声は出せないようだ。
ボーッとした表情で部屋の中を見回している。
「熱を出して寝込んだんじゃよ」
さくらの額や頬に手をあてて熱を確認する。
「まだ熱が残っておるな」
何処か不思議そうに戸惑った表情で考え事を始めたさくら。
そんな彼女の額に固く絞ったタオルを乗せる。
冷たくて気持ちがいいのだろう。
ニコッと笑顔を見せてくれた。
「もう少し眠っていなさい」
『ドリぃは?』
「大丈夫じゃ。起きるまでずっとそばにおるからのう」
心配そうに、心細そうな表情で見てくる。
『ドリぃ』と呼んでいるから『そばにいて欲しい』のだろう。
布団の上に伸ばされているさくらの手を握り、右手で頭を撫でると安心したようで目が閉じだした。
「おやすみ。さくら」
寝息が聞こえてくるのに時間はかからなかった。
「・・・ドリトス様。あの、さくらは?」
ヒナリが寝室に顔を出した。
他の2人も一緒だ。
彼らはさくらに『ダレ?』と言われるのを怖がって、寝室に入って来られなかった。
言われなくても『知らない人』という目で見られるのが怖いのだろう。
最後尾にいるセルヴァンは、不安からか耳と尻尾が垂れている。
こんな姿を獣人族の者が見たら・・・
前にいるヒナリやヨルクが見ても驚くだろう。
『族長』や『補佐』として下の執務室にいるであろうセルヴァンの子供たちですら、見たことがないかも知れない。
「まだ『記憶の整理』が終わっていないようじゃ」
さきほどの戸惑った表情が全てを物語っている。
他の・・・大好きなセルヴァンの名前すら口から出なかった。
自分の名前ですら、口にするのに時間がかかっている。
「さくらは大丈夫なんでしょうか?このまま『記憶が戻らない』なんてことになるのでは・・・」
「もしそうなったらどうする?ヒナリは『さくらから離れる』のかね?」
「イヤです!」
「イヤだ!」
ヒナリに聞いたのだがヨルクも一緒に否定を口にする。
そんな2人の声が大きくて、さくらが身動ぎした。
「さくら。大丈夫じゃよ」とドリトスが声をかけるとすぐに落ち着いたようで、深く息を吐き安心した表情になる。
ドリトスはずっとさくらの手を握り、頭を撫で続けている。
ヨルクとヒナリはハンドくんたちに口を塞がれている状態で、涙目で頭頂部を押さえていた。
ハンドくんたちが2人の口を塞いだ直後に、セルヴァンからゲンコツを落とされたからだ。
2人のおかげで、セルヴァンの心には余裕が出来たようだ。
「『記憶をなくした』としても、それは『過去の思い出』じゃよ。なくなったら『新しい思い出』を『一緒に作り出していけばよい』だけじゃ」
ドリトスが言い含めるようにさくらの頭を撫でながら言う。
それはヒナリたちに向けて。
そして眠るさくらに向けて。
「そうだな。さくらが覚えていられないなら俺たちが代わりに覚えていればいい」
冷静を取り戻したセルヴァンが、さくらに近付いて頬を撫でる。
ふにゃっと笑顔になるさくらに全員の目が細められた。
『さくらは『さくら』なのですから』
さくらの名前の時にハンドくんが言った言葉だ。
そうだ。
名前も記憶も必要はない。
『さくら』という存在だけがあれば・・・
フワフワとした気分の状態で目を開ける。
左側を見ると寝る前と変わらずドリトスがいてくれた。
ずっと頭を撫でてくれたのかな?
今も頭を撫でてくれているから気持ちいい。
『ドリぃ』
「具合はどうじゃ?」
『・・・良くない』
なんだろう。
頭がクラクラする。
そう訴えたらドリトスが額と頬に手を伸ばしてきた。
「フム。熱は下がっておるが。多分『そのせい』じゃのう」
そっかー。熱のせいか。
「起きるかね?」
『・・・・・・セルぅ?』
「ああ。セルヴァンなら隣の部屋におるぞ」
『・・・そこにいるよ~。壁のウラ』
鑑定魔法で、壁の向こうにセルヴァンがいるって表示されている。
「おやおや。ちょっと待っていなさい」
ドリトスが頭を撫でてから部屋の外へ向かった。
セルヴァンを呼びに行ってくれたんだろう。
・・・盗み聞きしようか覗こうか。
そう思ったらハンドくんたちが現れて両耳を塞がれた。
同時に全身を『風』が覆って、外の音が遮断されて何も聞こえなくなった。
外の気配も感じない。
これは『風の結界』?
部屋の中が見えないよ?
『風の女神』が私の身体を抱き起こして、守るようにぎゅっと抱きしめてくれた。
ねぇ。どうしたの?
何か起きたの?
・・・何が起きているの?
『頭がクラクラする』
そう訴えたさくら。
『記憶の整理』が原因だろうか。
・・・しかし『それ』をさくらは知らない。
ハンドくんの話だと、さくらには一切話していないらしい。
そのため、『熱のせい』と話したらさくらは納得したようだ。
『・・・・・・セルぅ?』
セルヴァンを『愛称』で呼ぶ。
どうやら『記憶の整理』は無事に終わっているようだ。
「ああ。セルヴァンなら隣の部屋におるぞ」
そう告げるとさくらは壁を見つめて『・・・そこにいるよ~。壁のウラ』と訴えた。
さくらを心配しているのに寝室へ入る勇気がないのだろう。
セルヴァンはさくらに対してのみ酷く『臆病』になってしまうようだ。
「おやおや。ちょっと待っていなさい」
頭を撫でて部屋を出る。
さくらの言った通り、壁に凭れてセルヴァンが立っていた。
「ドリトス。・・・さくらは?」
「目を覚ましてお主の名を呼んでおるぞ」
そう教えるとセルヴァンが嬉しそうに凭れていた壁から身体を離した。
その瞬間、『部屋の外』から爆発音が轟いて部屋が小刻みに揺れる。
慌てて寝室を覗くが、さくらはハンドくんたちと『女神』に守られてキョトンとしていた。
「こちらは大丈夫です」
「さくらを頼みます」
女神とハンドくんたちがいるなら、さくらは大丈夫だろう。
部屋の中も揺れた様子はない。
さくらの無事を確認してセルヴァンと共に部屋の外へと飛び出す。
部屋が白く輝いてハンドくんが結界を張ったことが分かった。
寝室を出た時は黄金に輝いて『神の結界』が張られていた。
『二重の結界』に守られているなら外で『何が起きていても大丈夫』だろう。
19
お気に入りに追加
2,637
あなたにおすすめの小説
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!
さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。
しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。
とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。
『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』
これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。
女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
土岡太郎
ファンタジー
自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。
死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。
*10/17 第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。
*R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。
あと少しパロディもあります。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。
良ければ、視聴してみてください。
【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
https://youtu.be/cWCv2HSzbgU
それに伴って、プロローグから修正をはじめました。
ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo
過去数百回分の人生の知識と能力を使える俺は、女神からも溺愛されているが、今世では王国から追放されてしまったので、復讐してやろうと思っている
もぐすけ
ファンタジー
神の祝福の儀式で1人の神にしか祝福を受けられなかった第5王子のアレンは、王子の身分をはく奪され、罪人の流刑地であるレンガ島に追放となってしまう。また、母は不義密通の濡れ衣を着せられ死罪になり、服毒自殺させられる。
唯一アレンを祝福した月の女神ルナは、実はアレンと数千年もの間パートナー関係にあり、数百回もの人生を共に歩んだ仲だった。
前世の記憶を取り戻したアレンは、今世も2人で幸せに暮らすことを誓い、流刑地でスローライフをルナとともに満喫しようとする。
だが、アレンの兄たちはアレンを亡きものにしようとする。
2人を邪魔するやつは許さない。アレンとルナは流刑地の罪人を巻き込んで兄たちに対抗していくうちに、いつの間にか流刑地が栄え、王国が傾いて行く。
手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅 落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語
さとう
ファンタジー
旧題:手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚
〇書籍化決定しました!!
竜使い一族であるドラグネイズ公爵家に生まれたレクス。彼は生まれながらにして前世の記憶を持ち、両親や兄、妹にも隠して生きてきた。
十六歳になったある日、妹と共に『竜誕の儀』という一族の秘伝儀式を受け、天から『ドラゴン』を授かるのだが……レクスが授かったドラゴンは、真っ白でフワフワした手乗りサイズの小さなドラゴン。
特に何かできるわけでもない。ただ小さくて可愛いだけのドラゴン。一族の恥と言われ、レクスはついに実家から追放されてしまう。
レクスは少しだけ悲しんだが……偶然出会った『婚約破棄され実家を追放された少女』と気が合い、共に世界を旅することに。
手乗りドラゴンに前世で飼っていた犬と同じ『ムサシ』と名付け、二人と一匹で広い世界を冒険する!
異世界でショッピングモールを経営しよう
Nowel
ファンタジー
突然異世界にやってきたジュン。
ステータス画面のギフトの欄にはショッピングモールの文字が。
これはつまりショッピングモールを開けということですか神様?
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる