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第四章

第39話

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「ヤッ・・・アッ!ヤァァァァー!」

突然さくらが何かに怯えるように悲鳴を上げたあと上体を逸らして『けいれん』を起こした。

「何があったんじゃ!」

周囲を見回すが、部屋の中にいたハンドくんたちがいない。
 するとドンッと物凄い音が部屋の外から何度も聞こえてきた。
さくらを守るように抱きしめるセルヴァンと2人を庇うように覆い被さるドリトス。

「早くさくらを連れて寝室へ!」

突然現れた女神に驚きを隠せない2人。
しかし再度女神に促されて、さくらを連れて寝室へ入った。
扉を閉じると、室外の音と振動が遮断されて『結界が張られた』ことに気付く。
ハンドくんたちが張る時は結界が白く光るが、今は何も変わったことが起きなかった。
これは『神々の結界』なのだろうか。

実は中からは分からないが、寝室の外では金色に光っていたのだ。
『部屋の中』から分からないようにしているのは、さくらに『外で何か起きている』と気付かせないための配慮だ。
そのためハンドくんたちの結界も、中にいると分からないのだった。



あれほど苦しそうにしていたさくらだったが、寝室に入ると呼吸はまだ荒れつつも怯える様子だけはなくなっていた。
ベッドに座ったセルヴァンの腕の中で、さくらは再び眠っている。


「これは一体何が起きているのですか?」

セルヴァンが心配そうにさくらの額に手をあてている女神に聞くが、女神は黙って首を横に振る。
なぜ『言えない』のだろうか。

「此処にいればさくらは守られますか?」

「ええ。それは大丈夫です」

女神の言葉にセルヴァンとドリトスは安堵の息を吐き出す。

「ひとつお尋ねしても宜しいでしょうか?」

ドリトスの言葉に「答えられる事でしたら」と女神が頷く。
つまり『いま起きていること』 は『答えられない』らしい。
ハンドくんがいないということは『さくらに関係している』ということだ。
それだったら、後でハンドくんが教えてくれるだろう。


「何故我らに神々の姿が見えるようになったのでしょうか」

ドリトスのこの質問は、今この場にいないヒナリたちも含めた4人が一番『知りたかった』ことだ。
でも女神が笑顔で教えてくれた理由は、あまりにも驚くものだが納得出来る事だった。

「貴方方は『さくらと共に生きる』ことを選ばれましたから」

そのため『さくらと同じ』ように神々の姿が見えるようになったらしい。
・・・『世話係』のハンドくんたちも神々の姿が見えるようだから、『世話役』の自分たちもハンドくんたちと『同じ立場』なのかも知れない。




さくらを囲んで静かな時間を過ごしていると、ハンドくんたちが寝室に現れて寝室側から扉を開けた。
「もう出ても大丈夫」という事だろう。
さくらの頬を撫でていた女神が「さくら。もう大丈夫よ」と囁くと、声に反応するようにさくらは微笑んだ。




「なぁ。オレたちがいない間に何があったんだよ」

昼過ぎに部屋へ戻ってきたヨルクが、真っ先に驚きの言葉を口にした。
ヒナリはセルヴァンから眠るさくらを奪うと抱きしめて泣いている。

「それよりヒナリの様子はどうした?」

ヒナリの必死な様子にセルヴァンとドリトスは驚き、少し離れた場所にヨルクを引き摺ってから聞く。
『次期族長』の座を退しりぞけなかったのか?
しかし、弟が継がなければ『親族が引き継ぐ』ハズだ。



「・・・なんだよ。『部屋の外』のこと知らないのか?」



ヨルクの話だと、王城の内外が『何者かに攻撃された』ように荒れているらしい。
ヒナリはその様子をみてパニック状態になったそうだ。
確かに部屋へ戻ってきたヒナリは、さくらの無事を確認するまで半狂乱になっていた。
今はさくらの無事が確認出来たからか、大分落ち着きを取り戻している。


「ハンドくんたちは何か知らんかね?」

ドリトスがそばにいたハンドくんに尋ねる。
あの騒動で居なくなっていたということは『何があったか』を知っているのではないのか?


原因げんいんは2つ』
『1つめ。『エルフえるふたち』がさくらをねらっておそってきた』

「はあ?なんで『さくら』が狙われたんだよ」

『エルフは『飛空船事件ひくうせんじけん』のつみで、一族いちぞく寿命じゅみょうが30ねんにまでちぢめられた』
天罰てんばつけていない30さい以上いじょうのエルフが次々つぎつぎ生命いのちとしている』

「そんなの『自業自得』じゃないか!」

「ヨルク。『怒気』を放つな」

ヨルクの怒りにセルヴァンが注意する。
ヨルクは慌てて深呼吸を繰り返し、呪文のようにさくらの名を繰り返して心を落ち着かせる。

「襲ってきた連中はどうなったんじゃ?」

全員ぜんいんたおした』

ドリトスの問いにハンドくんたちが一斉にハリセンを手にした。

・・・それは凄まじい光景だっただろう。


『そして襲ってきた連中れんちゅうにはかみのぞどおり『天罰』をあたえた』
『連中は天罰を受けてでも600歳まできたかったんだから『本望ほんもう』だろう』


よくハンドくんたちが『さくらの敵』を生かしたもんだと思ったが・・・
なるほど。
『残りの生涯』を天罰と共に生きていくことになるのだから、『アッサリたおす』よりは良いのだろう。


連中はハンドくんたちの手で神殿の地下牢に文字通りに『投げ込んだ』そうだ。
今回下った『天罰』は『見えない『ハリセン』の刑』らしい。
それも『肉体』ではなく『精神』に直接ハリセン攻撃を受けているとのこと。
ハンドくんたちが隠れて『頭部』にハリセン攻撃をしても気付かれないかもしれない。

・・・さっきから何人かのハンドくんたちが交代で出入りしているのは、追求しない方がきっと良いのだろう。



『2つめ。乙女おとめたちが最上階ここまでがってた。それを目撃もくげきされたうえった兵士へいしたちが武器ぶきまわした』
『エルフが仕掛しかけた攻撃こうげきの『どさくさ』で、攻撃魔法まほう使つかわれた』

「またアイツらかよ!」

めてヨルク!」

先ほどよりはるかに強い怒りをあらわにしようとしたヨルクをヒナリが慌てて止める。
さくらに再び『負担』をかけるところだった。
今も未然に防ぐことが出来たようで、さくらは変わらず眠っている。
その様子に『3人』は安堵した。


ヨルクは結界の中でハリセン攻撃を受けたようで、後頭部を押さえてうずくまっていた。
確かに怒気を落ち着かせるのに『ハリセン攻撃』は有効なのかもしれない。

・・・特にヨルクには。


「ねぇ。兵士たちの『怒気』はさくらに負担はなかったの?」

「いや。・・・さくらは苦しんでいた」

ハンドくんに質問したが、セルヴァンが代わりに返事をした。
それに青褪めたヒナリが、膝だっこをしているさくらをキツく抱きしめる。

『いまはこのかい全体ぜんたい結界けっかいってあるから負担ふたんはない』

「本当に?本当にさくらが苦しんだりしない?」

『しない』

ハンドくんの言葉に安心して深く息を吐き、腕のチカラを少し緩める。

『でも『このなか』で怒気どきはなつと負担ふたんがかかる』

「ヨルクー!」

「分かった!分かったから!」

「ヒナリ。お主も『怒気』を放つんじゃない」

ドリトスに注意されて慌てるヒナリ。
自分では『怒気を放った自覚がない』からだ。
再び強くさくらを抱きしめていた事に気付いてチカラを緩めると、腕の中で眠っていたさくらの目が開いていた。

「ゴメンね。さくら。うるさかったでしょ?」

ヒナリがさくらの頬を撫でると、さくらはヒナリの目を見てかすかに微笑んでふたたび目を閉じた。

「・・・え?さくら?」

ヒナリの発した驚きの声にヨルクたちが駆け寄る。
ヒナリに聞かなくても、微笑んださくらの表情を見て理解した。

「・・・おかえり。さくら」

ヒナリがさくらの頬にキスをする。
眠っていてもふにゃっと笑うさくらに、全員の目から涙が溢れ出した。

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