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第10話

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残念ながら、今日舞台の幕が上がったばかりのため、控え室は貸し切り状態です。
定員は30名様なんですよ。

「よかったですね。入居が昨日でしたら、今ごろ投擲の的でしたよ」
「「良くない!」」
「でしたら、今から追加公演を始めましょうか?」

真っ青な表情で首を左右に振る2人。
この2人は私に「夫と別れろ!」と脅してきた、王弟と貴族子息です。

この人たち、元皇子を婿にもらった私に「元皇子を棄てろ」と言ったのよね。
それで夫と義父が乗り込んだんだけど…………

「そういえば、この人たちが国を滅ぼした張本人よね。やっぱり追加公演を申請してこようかしら」
「止めてくれ!」
「誰もが三ヶ月も待ちたくはない生かしたくはないと思うわ」

申請は受理されたけど……

「残念だわ。サプライズ公演の準備にひと月も待たなきゃならなかったなんて」

新しいステージを作るのに時間が必要だったのです。
その間に共演者が集まったとのこと。
…………私は出演者たちに激励お別れを言うことも許されず。
ただ彼らのおかげで母国を失った人たちには大好評だったようで、舞台に上がる前からが多く飛んできたと新聞に載っていました。

「みたかったわ~」

最後まで見届けたかった。
自らの手で国を滅ぼした、愚かな彼らが最後に何を思って。

「一緒の舞台に上げられたほかの王族たちに何て詫びたのか。……それとも、詫びることなく開き直っていたのか」

「仕方がないさ。……いまは大事な時期なんだから」
「だからって……皇宮しろに軟禁します?」
両親あの人たちにとっては初孫だからねー」

そう、私のお腹には新しい生命。
私たちの家に毎日義父が義母と来ては何時間もいる。
途中で皇城に連れ戻されても、また抜け出してくる。
しまいには連れ戻すのを諦めて、仕事が文官と共にやって来た。

「分かってるのよ。親がいない初産の私を心配してくれているのは」

高齢の祖父母に来てもらいたくても、途中でやってくるには厳しい冬。
だから暖かくなってから来るとは聞いているけど。

「それまではそばにいたいんだよ」
「……愛されているわね」
「ああ、この子も。マーガレットも」
「もちろん、あなたのこともね」


春の訪れとともに、我が家にも新しい春がやって来ます。




(了)
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