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第一から第五章

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王都の本屋で、初級魔法全集と生活魔法全集を手に取った。

「エアちゃんが持っているのはこれよね」

魔法全集は中級と上級もあるが、まずはこの初級からだ。
本を手にしてレジへと向かった。

「おや、それをお求めかい」

珍しいねえ、と呟く店番のおばあさん。

「前にもこの本を買った子がいるだろ? あの子が、私の知らない魔法の情報をこの本を読んで知ったといってたからな」
「ああ、あのお嬢さんかね。時々、偏った知識を修正するためだといって本を購入していくよ。そういえば、最近はきてないねえ」
「この周辺のダンジョンが閉鎖されたため、今はここから八時間の距離にあるルーフォートって町に拠点を移してダンジョンにはいってる」
「ダンジョンで魔法の練習をしているといっていたのう。勉強熱心な子じゃ」
「私はあの子に指摘されるまで『攻撃魔法が魔物に効果がある』という基本も忘れていたよ」

私の言葉に「ホホホ」と笑うおばあさん。このおばあさん、若い頃に他の大陸からきたという魔導師だ。そのため、誰かを誉めるようなことをいうのは珍しい。

「この大陸では魔法が退化しておるからのう」
「この大陸では……?」

たしかにこの世界にはいくつも大陸はある。しかし、大陸を渡るものは少なく、ほとんどは生まれた大陸だけでなく国自体から出ず、中には町や村から一度も出ないで一生を終える人すらいる。私もこの大陸で生まれ育った一人だ。だからこそ、よその大陸のことなんて気にしたことはなかった。

「この大陸は魔法が退化している。そう聞いた私はここに渡ってきた。権力抗争から逃げるのにちょうど良かったこともある。……しかし、この大陸には魔素は十分あるにもかかわらず、それはほとんど生活魔法や簡単な魔法のみに使われていた。そして、異世界から少女を召喚して『聖女様』として崇めている。いや、それを否定するつもりはない。それが神に許されないことなら、聖女様の召喚は成功しておらぬ。……あんな幼い少女を聖女様として召喚など起きなかっただろう」

その話なら知っている。まだ十歳に満たない少女が聖女様として召喚された。幼いがために暴力を受けて無理矢理お披露目をされた少女は周りの大人に怯え、部屋には結界が張られて選ばれた女性しか入れなくなった。

「あの子は長く生きられなかったよ。四十……いくつだったかね。かわいそうに、あの子が亡くなったときに大切にしていた小さな置物を副葬品として一緒にしてあげようと思ったが、部屋からなくなっていたよ」
「……ばあさん、一体いくつだよ」

その聖女様は二百年前に召喚された方だ。その方を直接知っているということは……ただの人間じゃないな。

「なあに、今年で三百八十四歳になるただの木の精霊ドリュアスじゃよ」
「おい、なに正体を」
「エルフ族にバラしたところで問題ないじゃろう?」

その言葉に私は大きく息を吐く。木の精霊ドリュアスなら……あれ?

木の精霊ドリュアスなら、どうやって大陸を離れた?」

木の精霊ドリュアスは『母なる木』から生まれる。その母なる木は普通の植物で、どのような状況で木の精霊ドリュアスが生まれるかわかっていない。しかし、母なる木から離れて生きることはできないはず。遠く離れると精霊でも死んでしまう。だから、大陸を渡ってくるなどありえない。シェリアとフィシスの精霊姉妹もこの大陸から離れたことはない。

「『ぎ木』じゃよ」
「……ああ、そういうことか」

母体となる木が寿命を迎える前に木の精霊ドリュアスは接ぎ木という形で母なる木の若木を連れて離れる。

「神域に植えれば人の中で生きる必要はなくなるだろう?」
「それをエルフ族がいうのかね?」

その言葉から、すでに若木は神域かそれに近い聖域に植えられているのだろう。そして、私たちのように隔離された世界で生きるのを良しとせず、外の世界にでてきたということだろう。ほかの大陸から渡ってきた彼女にとって、外の世界はそれだけ魅力的なのだろう。

「そうそう、生活魔法も『使い方が間違ってる』と言っていたな」
「あ……そういえば『状態回復』が修復魔法として使えると言ってた」
「掃除に関しても、風魔法や水魔法の応用らしい。風魔法でゴミをかき集めたり、水魔法で窓の汚れをキレイにしたり」
「……生活魔法の本も購入するわ」
「よく見比べればいい。私も調べ直したが、たしかに初級魔法と生活魔法が重複している。それと『状態回復』だが……」
「…………え?」

私は耳を疑う言葉を聞いた。

「『状態回復』だが、これは一番使えるものが少ないと言われている光魔法にある『浄化』の下位魔法だ」

その言葉が事実なら、私たちは魔法自体を勘違いしているのか。それは『この大陸は魔法が退化している』という言葉にも繋がっているのだろう。
私は大きく息を吐き出した。
どうせダンジョンは閉鎖されて当分は時間を持てあます。その時間を魔法の調査に費やしてもいいだろう。

エアちゃんに聞くのは簡単だ。しかし、それでは口頭で魔法を教わる現在の魔法教育と何ら変わらない。だったら自分で調べて、それに対して意見を出し合う方がいい。
そう考えた私は、キッカたちの住処アジトにある私の部屋へと帰った。キッカやアルマンたち一部のメンバーなら一緒に調査してくれるだろう。
私には仲間がいる。一人で抱えなくても協力してくれるだろう。
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