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前編
持ち上げているのか、貶されているのか。
しおりを挟む『聖女様の御手に直接触れることで視ていただける』
そんな話を告解室で告げたのはミサのあとでのこと。
初めて親に連れられていったのは6歳の頃。
自分と同じくらいの少女が地下室で透明な膜に囲まれた中にいた。
それから10年後、地下室の少女はそこにいた。
10年前と変わらない幼い姿で。
「お救いください。私はあの方のお陰で自然災害に遭わず生き延びることができました。今度はあの方が救われる番です」
泣きながら訴える若き当主を誰が責められようか。
その少女の名はアリア。
『母の墓参りに向かう途中で祖父母と共に行方不明になった』と神殿に報告があった。
聖女確実ともいわれていたが、当時は聖女候補。
それなのに何故か、深く調べられなかった。
しかし、先程の男爵の自白ではただの事故ではなかったようだ。
トトトトトッと軽めの足音がして、この地下室に顔を出したのは「義兄上!」……城の文官で私の義弟だった。
「この部屋のどこかに聖女様がお眠りになられているのですね」
「ああ、すまないが……」
「ええ分かっております。亡くなられた老夫妻の墓に……お二人の墓の間に埋葬の許可をいたします」
「その前に証拠として渡すのであろう?」
「そんなむごいこと……。あの偽男爵一家の証言だけで十分です」
そう言った義弟は真っ新なシーツを床に広げた。
「気の毒な女男爵様はどちらに?」
「ああ……この床だ」
私はそういうと透明な膜に向けて手を左から右へと薙ぎ払う。
それと同時に特殊な膜を作り出していた魔導具が機能を停止して壁から落ちた。
この膜が少女の魂を封じていたのではない。
『少女を実体化させていた』だけだ。
だからこそ、男たちは膜の中に手を入れていたのだ。
スッと床に手を向けると、クッションや玉座だったものは奥まった壁に。
床だった石畳は壁際へと移動し、むき出しになった地面の土はその隣に小山をつくった。
そこには真っ白なご遺体がまるで眠っているかのように横たわっていた。
「どうぞ、安らかにお休みください。あとのことはこの神官が引き継ぎます。今までありがとうございました、聖女アリア様」
跪いてそう感謝の言葉と祈りを捧げると、真っ白な光がスウッと消え……そこには朽ちた遺骸が残されていた。
「さすが義兄上が神子をご辞退なさっただけのことはあります。このように亡くなられても国を守り、金儲けに使われたけど人を正しく導かれただけのことはあります」
「わかるか?」
「はい、義兄上が劣っているということが」
義弟の言葉に言葉がつげない。
自分でも劣っているのは分かっている。
「ああ、失礼いたしました。義兄上が逆立ちしても敵わないほど、聖女様として相応しくお優しいお方だったのでしょう」
持ち上げているのか、貶されているのか。
義弟の思考が私には理解できなかった。
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