3 / 6
前編
持ち上げているのか、貶されているのか。
しおりを挟む『聖女様の御手に直接触れることで視ていただける』
そんな話を告解室で告げたのはミサのあとでのこと。
初めて親に連れられていったのは6歳の頃。
自分と同じくらいの少女が地下室で透明な膜に囲まれた中にいた。
それから10年後、地下室の少女はそこにいた。
10年前と変わらない幼い姿で。
「お救いください。私はあの方のお陰で自然災害に遭わず生き延びることができました。今度はあの方が救われる番です」
泣きながら訴える若き当主を誰が責められようか。
その少女の名はアリア。
『母の墓参りに向かう途中で祖父母と共に行方不明になった』と神殿に報告があった。
聖女確実ともいわれていたが、当時は聖女候補。
それなのに何故か、深く調べられなかった。
しかし、先程の男爵の自白ではただの事故ではなかったようだ。
トトトトトッと軽めの足音がして、この地下室に顔を出したのは「義兄上!」……城の文官で私の義弟だった。
「この部屋のどこかに聖女様がお眠りになられているのですね」
「ああ、すまないが……」
「ええ分かっております。亡くなられた老夫妻の墓に……お二人の墓の間に埋葬の許可をいたします」
「その前に証拠として渡すのであろう?」
「そんなむごいこと……。あの偽男爵一家の証言だけで十分です」
そう言った義弟は真っ新なシーツを床に広げた。
「気の毒な女男爵様はどちらに?」
「ああ……この床だ」
私はそういうと透明な膜に向けて手を左から右へと薙ぎ払う。
それと同時に特殊な膜を作り出していた魔導具が機能を停止して壁から落ちた。
この膜が少女の魂を封じていたのではない。
『少女を実体化させていた』だけだ。
だからこそ、男たちは膜の中に手を入れていたのだ。
スッと床に手を向けると、クッションや玉座だったものは奥まった壁に。
床だった石畳は壁際へと移動し、むき出しになった地面の土はその隣に小山をつくった。
そこには真っ白なご遺体がまるで眠っているかのように横たわっていた。
「どうぞ、安らかにお休みください。あとのことはこの神官が引き継ぎます。今までありがとうございました、聖女アリア様」
跪いてそう感謝の言葉と祈りを捧げると、真っ白な光がスウッと消え……そこには朽ちた遺骸が残されていた。
「さすが義兄上が神子をご辞退なさっただけのことはあります。このように亡くなられても国を守り、金儲けに使われたけど人を正しく導かれただけのことはあります」
「わかるか?」
「はい、義兄上が劣っているということが」
義弟の言葉に言葉がつげない。
自分でも劣っているのは分かっている。
「ああ、失礼いたしました。義兄上が逆立ちしても敵わないほど、聖女様として相応しくお優しいお方だったのでしょう」
持ち上げているのか、貶されているのか。
義弟の思考が私には理解できなかった。
135
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
私の、虐げられていた親友の幸せな結婚
オレンジ方解石
ファンタジー
女学院に通う、女学生のイリス。
彼女は、親友のシュゼットがいつも妹に持ち物や見せ場を奪われることに怒りつつも、何もできずに悔しい思いをしていた。
だがある日、シュゼットは名門公爵令息に見初められ、婚約する。
「もう、シュゼットが妹や両親に利用されることはない」
安堵したイリスだが、親友の言葉に違和感が残り…………。
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
乙女ゲームは始まらない
まる
ファンタジー
きっとターゲットが王族、高位貴族なら物語ははじまらないのではないのかなと。
基本的にヒロインの子が心の中の独り言を垂れ流してるかんじで言葉使いは乱れていますのでご注意ください。
世界観もなにもふんわりふわふわですのである程度はそういうものとして軽く流しながら読んでいただければ良いなと。
ちょっとだめだなと感じたらそっと閉じてくださいませm(_ _)m
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
男の仕事に口を出すなと言ったのはあなたでしょうに、いまさら手伝えと言われましても。
kieiku
ファンタジー
旦那様、私の商会は渡しませんので、あなたはご自分の商会で、男の仕事とやらをなさってくださいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる