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クランを抜けた者に二度と構うな
しおりを挟む「まって……」
背後から聞こえた声に立ち止まる。
身体を15度ずらして首を回らせた先には、肩で息をしているエルフが立っていた。
さっきまで開かれていた会議に参加していなかった魔法士のレイシが追いかけてきたようだ。
「なんだ? レイシ」
「はあ……はあ。なんだ、じゃ、ない……。すう、はあー……ちょっと落ち着いたわ。……あんた、『クランを辞める』ってどういうことよ」
「どうもこうもねえ。マスターがクランからの追放を宣言したんだ。メンバーはそれに従うしかねえ。それに、オレの代わりならすでに入っただろ。男どもの好きそうな『ボンッキュッボン!』の」
「そんなの追い出せばいいじゃない。文句言う連中だってクランから追い出せば」
「はぁ? 寝惚けたことほざいてんじゃねえよ。クランの決定だろーが。つまりクランの意志だ」
このバカなことしか言えないレイシはクランに所属しながらクランのことを理解していない。
まあ、それは……レイシのクラン内での立ち位置を考えれば仕方がないか。
「仕方がないわね。私が一緒に行ってあげるわ」
「いらん」
「え? なんでよ」
「なんで? オレたちが直接話したのはこれが初めてだ。そんな奴と誰が一緒に行きたいと思う?」
オレの言葉にレイシが驚いて動きが止まった。
だいたい、オレはこのレイシが冒険者として働いている姿をほとんど見たことはない。
本当に冒険者なのかも疑わしい。
そんなお荷物を連れていく気は毛頭ない。
「アキュートの女を、いやクランの愛玩具を連れていく気はないよ。だいたい、ギルドの規則ぐらい知ってるだろ?」
そう言えば目が泳ぐ。
クランの愛玩具といわれているが、オレの所属していたクランでは言い方を変えれば『クラン専属の娼婦』だ。
もちろん、別のクランでは意味が違う。
冒険者は親がいない子どもたちでもなれる日雇い労働者でもある。
そんな子どもたちを兄弟姉妹がいるクランで引き取ることが多い。
そんなクランの癒やし的なマスコットの意味合いで使われている。
通常、愛玩とは小さくて可愛いものの総称なのだから、それが正しい。
オレはレイシを含めて、さっきまでメンバーだったクランに所属している女性冒険者の半数を娼婦としての認識しか持っていない。
レイシの今の姿をみて冒険者だと思う者は誰ひとりいないだろう。
キスマークを見せつけるように、胸を大きく開いた服を着て、左右に大きなスリットの入ったミニスカートをはいた姿は、少しかがめば胸元から胸が飛び出し、下着を履いていない尻が丸出しになる。
それを悦ぶ男ならこのクランに入ればいい。
オレはこの姿を一度も好ましいと思っていない。
仕事として選ぶしか生きる道がない職業娼婦と比べるのはあまりにも失礼だと思っている。
実際に今日も、朝から食堂でもリビングでも盛り続けて男を求め続けるレイシたちの姿を目の当たりにしていたのだから。
その姿は端から見ると異様でしかないが、それは『契約』によるものだ。
レイシたち女性冒険者たちは『クランの愛玩具になる』という主従契約をしたことを覚えていない。
レイシはすでにクランと契約して200年が経っているらしい。
これまでに何十人もの子を生し、その子たちは他所のクランやギルドに差し出されて隷属契約が成立している。
自由になるには、母親に支払われた自分の売却金という名の借金を自分で稼いで返すしか方法はない。
アキュートをリーダーとするクラン『カルトリア』の女性冒険者たちはドワーフかエルフだ。
妊娠期間が短く隷属契約に従順なため、高額で取り引きされる。
種族的に男女共に見目麗しいということで、エルフは子どもでも高値がつく。
アキュートたちのクランはその生産工場として、裏組織から一目置かれている。
……とはいえ、半分以上の男性は冒険者としてクランの名をあげている。
冒険者として表舞台に立っている冒険者たちは、クランの裏事情を知らない連中もいるのだ。
それなのにクランに所属しているのは、『冒険者になって間もない新人は1年間クランに所属し、冒険者のイロハを教わる』というルールがある。
期間はおおよそで、冒険者として知識を身につければ半年や三ヶ月でクランを去ることも可能。
オレもそれが理由で所属していただけだ。
未練だのなんだのというものも存在しない、清々しい気分だ。
「二度と話しかけないでくれ、迷惑だ」
ギルドの規則は厳しい。
今回は罪のないオレに因縁つけて追い出したクラン側に最大限のペナルティがつくだろう。
『クランを抜けた者に二度と構うな』
その規則を思い出したのか、これ以上のペナルティが怖いのか。
オレが拒否したからペナルティが作動したか。
これ以上、レイシは話しかけてくることも追いかけてくることもなかった。
何を根拠についてこようとしていたのか分からないが、これ以上ここにとどまっていると余計なトラブルに巻き込まれそうだ。
そう思ったオレは、さっさとこの町から出ていくため城門へと向かった。
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