1 / 5
クランを抜けた者に二度と構うな
しおりを挟む「まって……」
背後から聞こえた声に立ち止まる。
身体を15度ずらして首を回らせた先には、肩で息をしているエルフが立っていた。
さっきまで開かれていた会議に参加していなかった魔法士のレイシが追いかけてきたようだ。
「なんだ? レイシ」
「はあ……はあ。なんだ、じゃ、ない……。すう、はあー……ちょっと落ち着いたわ。……あんた、『クランを辞める』ってどういうことよ」
「どうもこうもねえ。マスターがクランからの追放を宣言したんだ。メンバーはそれに従うしかねえ。それに、オレの代わりならすでに入っただろ。男どもの好きそうな『ボンッキュッボン!』の」
「そんなの追い出せばいいじゃない。文句言う連中だってクランから追い出せば」
「はぁ? 寝惚けたことほざいてんじゃねえよ。クランの決定だろーが。つまりクランの意志だ」
このバカなことしか言えないレイシはクランに所属しながらクランのことを理解していない。
まあ、それは……レイシのクラン内での立ち位置を考えれば仕方がないか。
「仕方がないわね。私が一緒に行ってあげるわ」
「いらん」
「え? なんでよ」
「なんで? オレたちが直接話したのはこれが初めてだ。そんな奴と誰が一緒に行きたいと思う?」
オレの言葉にレイシが驚いて動きが止まった。
だいたい、オレはこのレイシが冒険者として働いている姿をほとんど見たことはない。
本当に冒険者なのかも疑わしい。
そんなお荷物を連れていく気は毛頭ない。
「アキュートの女を、いやクランの愛玩具を連れていく気はないよ。だいたい、ギルドの規則ぐらい知ってるだろ?」
そう言えば目が泳ぐ。
クランの愛玩具といわれているが、オレの所属していたクランでは言い方を変えれば『クラン専属の娼婦』だ。
もちろん、別のクランでは意味が違う。
冒険者は親がいない子どもたちでもなれる日雇い労働者でもある。
そんな子どもたちを兄弟姉妹がいるクランで引き取ることが多い。
そんなクランの癒やし的なマスコットの意味合いで使われている。
通常、愛玩とは小さくて可愛いものの総称なのだから、それが正しい。
オレはレイシを含めて、さっきまでメンバーだったクランに所属している女性冒険者の半数を娼婦としての認識しか持っていない。
レイシの今の姿をみて冒険者だと思う者は誰ひとりいないだろう。
キスマークを見せつけるように、胸を大きく開いた服を着て、左右に大きなスリットの入ったミニスカートをはいた姿は、少しかがめば胸元から胸が飛び出し、下着を履いていない尻が丸出しになる。
それを悦ぶ男ならこのクランに入ればいい。
オレはこの姿を一度も好ましいと思っていない。
仕事として選ぶしか生きる道がない職業娼婦と比べるのはあまりにも失礼だと思っている。
実際に今日も、朝から食堂でもリビングでも盛り続けて男を求め続けるレイシたちの姿を目の当たりにしていたのだから。
その姿は端から見ると異様でしかないが、それは『契約』によるものだ。
レイシたち女性冒険者たちは『クランの愛玩具になる』という主従契約をしたことを覚えていない。
レイシはすでにクランと契約して200年が経っているらしい。
これまでに何十人もの子を生し、その子たちは他所のクランやギルドに差し出されて隷属契約が成立している。
自由になるには、母親に支払われた自分の売却金という名の借金を自分で稼いで返すしか方法はない。
アキュートをリーダーとするクラン『カルトリア』の女性冒険者たちはドワーフかエルフだ。
妊娠期間が短く隷属契約に従順なため、高額で取り引きされる。
種族的に男女共に見目麗しいということで、エルフは子どもでも高値がつく。
アキュートたちのクランはその生産工場として、裏組織から一目置かれている。
……とはいえ、半分以上の男性は冒険者としてクランの名をあげている。
冒険者として表舞台に立っている冒険者たちは、クランの裏事情を知らない連中もいるのだ。
それなのにクランに所属しているのは、『冒険者になって間もない新人は1年間クランに所属し、冒険者のイロハを教わる』というルールがある。
期間はおおよそで、冒険者として知識を身につければ半年や三ヶ月でクランを去ることも可能。
オレもそれが理由で所属していただけだ。
未練だのなんだのというものも存在しない、清々しい気分だ。
「二度と話しかけないでくれ、迷惑だ」
ギルドの規則は厳しい。
今回は罪のないオレに因縁つけて追い出したクラン側に最大限のペナルティがつくだろう。
『クランを抜けた者に二度と構うな』
その規則を思い出したのか、これ以上のペナルティが怖いのか。
オレが拒否したからペナルティが作動したか。
これ以上、レイシは話しかけてくることも追いかけてくることもなかった。
何を根拠についてこようとしていたのか分からないが、これ以上ここにとどまっていると余計なトラブルに巻き込まれそうだ。
そう思ったオレは、さっさとこの町から出ていくため城門へと向かった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
『ブリーフスキル』実は最強でした
なまぱすた 気味磨呂
ファンタジー
ある日ブリーフを愛用している俺が異世界召喚された。ブリーフを愛用していたからかスキルはブリーフのことばかりそんな俺が最強に....
現実世界ではいじめられっ子だった変わったあだ名のブリーフマン。(名前を教える気はないらしい)だがいつの間にか異世界に転移してしまいなりたくはなかった冒険者となる。
冒険者になってみたもののそう上手くはいかず悲惨な毎日を送ることに…
スライムにすら苦戦するブリーフマンだが自分の一風かわったスキルを有効活用し何とか戦いを乗り越えていく。
最弱だったブリーフマン。なりたくは無かった冒険者。だが仲間と共に苦難を乗り越え、特殊なスキルを使い神々へと戦いを挑む。
最初は下手くそですがだんだん面白くなっていきますんで最後まで読んでくれたら嬉しいです
地球で死ぬのは嫌なので異世界から帰らないことにしました
蒼衣ユイ/広瀬由衣
ファンタジー
ぶちぶちと音を立てながら縮み消えていく骨と肉。溢れ続ける血に浮かぶ乳白色をしたゼリー状の球体。
この異常死が《神隠し》から生還した人間の末路である。
現代医学では助けられないこの事件は《魔法犯罪UNCLAMP》と称されるようになった。
そんなある日、女子高生の各務結衣は異世界《魔法大国ヴァーレンハイト皇国》で目を覚ました。
しかしその姿は黄金に輝く月の瞳に、炎が燃え盛るような深紅のロングウェーブという、皇女アイリスの姿だった。
自分がUNCLAMPである事に気付き、地球に戻ったらあの凄惨な死を遂げる恐怖を突きつけられる。
結衣は地球に戻らないために、地球に戻ってしまう原因を把握すべく行動に出る。
illust SNC様(Twitter @MamakiraSnc)
世界最強の結界師
アーエル
ファンタジー
「結界しか張れない結界師」
「結界を張るしか出来ない無能者」
散々バカにしてきた彼らは知らなかった。
ここ最近、結界師は僕しかいないことに。
それでも底辺職と見下され続けた僕は、誰に何を言われても自分以外に結界を張らない。
天恵を受けた結界師をバカにしてきたんだから、僕の結界は必要ないよね。
✯他社でも同時公開。
酔っぱらった神のせいで美醜が逆転している異世界へ転生させられた!
よっしぃ
ファンタジー
僕は平高 章介(ひらたか しょうすけ)20歳。
山奥にある工場に勤めています。
仕事が終わって車で帰宅途中、突然地震が起こって、気が付けば見知らぬ場所、目の前に何やら机を囲んでいる4人の人・・・・?
僕を見つけて手招きしてきます。
う、酒臭い。
「おうおうあんちゃんすまんな!一寸床に酒こぼしちまってよ!取ろうとしたらよ、一寸こけちまってさ。」
「こけた?!父上は豪快にすっころんでおった!うはははは!」
何でしょう?酒盛りしながらマージャンを?
「ちょっとその男の子面くらってるでしょ?第一その子あんたのミスでここにいるの!何とかしなさいね!」
髪の毛短いし男の姿だけど、この人女性ですね。
「そういう訳であんちゃん、さっき揺れただろ?」
「え?地震かと。」
「あれな、そっちに酒瓶落としてよ、その時にあんちゃん死んだんだよ。」
え?何それ?え?思い出すと確かに道に何か岩みたいのがどかどか落ちてきてたけれど・・・・
「ごめんなさい。私も見たけど、もうぐちゃぐちゃで生き返れないの。」
「あの言ってる意味が分かりません。」
「なあ、こいつ俺の世界に貰っていい?」
「ちょっと待て、こいつはワシの管轄じゃ!勝手は駄目じゃ!」
「おまえ負け越してるだろ?こいつ連れてくから少し負け減らしてやるよ。」
「まじか!いやでもなあ。」
「ねえ、じゃあさ、もうこの子死んでるんだしあっちの世界でさ、体再構築してどれだけ生きるか賭けしない?」
え?死んでる?僕が?
「何!賭けじゃと!よっしゃ乗った!こいつは譲ろう。」
「じゃあさレートは?賭けって年単位でいい?最初の1年持たないか、5年、10年?それとも3日持たない?」
「あの、僕に色々な選択肢はないのでしょうか?」
「あ、そうね、あいつのミスだからねえ。何か希望ある?」
「希望も何も僕は何処へ行くのですか?」
「そうねえ、所謂異世界よ?一寸あいつの管理してる世界の魔素が不安定でね。魔法の元と言ったら分かる?」
「色々突っ込みどころはありますが、僕はこの姿ですか?」
「一応はね。それとね、向こうで生まれ育ったのと同じように、あっちの常識や言葉は分かるから。」
「その僕、その人のミスでこうなったんですよね?なら何か物とか・・・・異世界ならスキル?能力ですか?何か貰えませんか?」
「あんた生き返るのに何贅沢をってそうねえ・・・・あれのミスだからね・・・・いいわ、何とかしてあげるわ!」
「一寸待て!良い考えがある!ダイスで向こうへ転生する時の年齢や渡すアイテムの数を決めようではないか!」
何ですかそれ?どうやら僕は異世界で生まれ変わるようです。しかもダイス?意味不明です。
みにくい王子様《完結》
アーエル
ファンタジー
むかしむかし、双子の王子様がいました。
見目麗しい兄王子と、みにくい姿の弟王子。
人々は言います
「兄王子の美貌には絢爛豪華な衣裳がよく似合う」と。
人々は言います
「弟王子の美貌には麻でできた衣服がよく似合う」と。
☆他社でも公開
異世界で、黒龍の悪いイメージ私が変えて見せます。!
どら娘
ファンタジー
人間界では、不吉の象徴として恐れられている黒龍
龍の人々からは、黒龍=恐ろしいく冷淡で鬼畜で変人が多い一族
まさしく、ブラックなイメージの塊の黒龍として生まれた
主人公私(メス)が、少しでも家族が悪く言われるのが許せないが為に
常識をもって、変えようとする は・な・し
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる