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第二章
第1話
しおりを挟む明日、私はこの家から出て行きます。
私のための幸せだといわれたこの婚姻。
私の我儘、私にとって初めて選んだ私の幸せ。
使用人たちも私の選んだ道を喜んでくれた。
でも、私の幸せを望まない人たちの方が多い。
この国の国王陛下たちも。
……私はこの国では異質な存在だから。
「アリアーナ。ご挨拶は?」
私は緊張して動けなかった。
目の前の人たちが……『新しい家族になる』と言ったの、お母様?
でも、なぜこの人がここにいるの?
「家族になれるなんて嬉しいよ」
そう言って差し出された手の主は…………私が一番嫌いな男だった。
「すみません、妹になると聞いてから何度も様子を見にいってしまいました。そのせいで不審者に見られていたなんて」
ハハハと苦笑いするこの男は彼の父と私の母にそう言い訳した。
私は彼の差し出した手を握らなかったのだ。
私の行動で顔合わせは失敗した。
しかし、私は母が彼の父を気に入ったのを知っている。
だが、私と天秤にかけて私を選んでくれた。
私はこの家の正統な跡取りだから。
次期当主の義父・義兄になれるチャンスを失った二人は諦めなかった。
いや、父親の方は母を見初めただけで次期当主の義父に興味はなかった。
ゆっくり時間をかけて愛を深めていった。
母は再度私を天秤にかけた。
今度は私という柵から母を解放した。
「ごめんね。本当にごめんね」
「いいえ、お母様。今までありがとうございました」
父を病気で亡くし、それから7年間ずっと寡婦として家を支えてきた。
そんな母に幸せになって欲しかった。
「2年前は申し訳なかった」
「いいえ。私の方こそ申し訳ございませんでした」
2年前、彼の息子は異常性癖を理由に北方の神殿にある隔離塔に幽閉された。
同性の年少者に恋情する彼は、私たち就学前のお茶会を遠くから見ていたのだ。
たしかに両親が弟妹を心配して兄姉に様子を見に行かせることもある。
特にお茶会にはじめて参加する子は家族の姿が見えれば安心する。
それも3回目の参加あたりから姿を見せなくなる。
それが毎回姿を見ていた。
そう、私たちのお茶会から離れなかった。
3回目に笑いのネタになり、4回目で不審者と警戒し、5回目以降は異常者として警戒された。
そして顔合わせの失敗直後の6回目のお茶会に……
彼は今までと変わらず姿を現した。
私たち子息子女の間では彼を異常者と確定していた。
ただ、彼のターゲットが子息だったのは見抜けなかった。
領地療養を理由にいなくなった子息はいたが、私を含めた子女には被害はなかった。
そのため、大人たちは気付くのが遅れてしまった。
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