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第一章
第6話
しおりを挟むご先祖様……
心を遺したことで同じ悲劇を何百年も繰り返してきた3人は、今、未来に向かいました。
二度と悲しい時間を繰り返すことはないでしょう。
あのとき、ご先祖様に後ろ姿だけ似ている私が姿を現したことで、ご当主様にロゼリア様の存在を思い出していただけたようです。
「ここの当主が遺したあの日記に泥のことが書かれていたため、執務室に入られる前に着替えていただいて正解でした」
「ええ、イラついているときに目の付く場所を泥で汚されたら怒れちゃうわよね」
「そうですね。気持ちの落ち着くお茶をお淹れしても飲まれなくて心配しましたが」
「ご先祖様の日記では、心優しい叔父だったことがわかったわ。ご先祖様に穏やかになった領地を返すために必死だったことも。そのせいで心に余裕がなかった。だからロゼリア様が穏やかに生活している素振りを見せれば落ち着くかと思ったんだけど」
「うまくいきましたね」
執事に頷くが、私には彼らすらも被害者にしか思えない。
「でも……ご先祖様も酷いわ。必死になっている叔父にちゃんと後継者の話をしていれば防げたことよ。母方の血筋で残っているのは自分だけだからそちらを継ぎたい。だからこちらの次期当主をフォレインに、っていえば優しい叔父なんだから聞き入れてくれたでしょうに」
「確かにそうでしょう。ですが、父の代わりをしてもらっているという負い目と、父親の立場を奪ってしまったという両者の後悔が、ゆがんだ家族関係を生み出してしまったのでしょう」
意見はどちらも正しいのでしょう。
ただ、本当の気持ちは本人以外には分からないものです。
「でも、8歳の娘が高熱を出しているのに領地を離れてまで参加しなくてはいけない用事って何だったのかしら? その事故がなければ悲劇も起きなかったのよね」
「その事故こそ内乱のきっかけです。『どのような理由があろうと出仕しない貴族は反乱分子として一族郎党皆殺しにする』というお触れがあったそうです。そして急いで帰った彼らは反乱分子と勘違いされて襲撃されたのです」
当時は反乱分子だ、一斉蜂起だ、などという不穏な動きがあった。
そして高熱で寝ていたロゼリア様が目を覚ましたときにいたという男たちも、日記にはなかったが王家の息のかかった者たちだったのだろう。
高熱の娘を心配して家路を急いだ両親と叔父を誤って襲い、二人を殺した。
当時の記録では、王家は間違いを認めず『誤解させた方が悪い』と言ってしまった。
それが内乱のきっかけだ。
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