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第一章
第3話
しおりを挟む「お嬢様、すべて終わったようです」
「そう、お疲れ様でした」
私は読み終えた古い本を閉じて父の執務机に置いた。
本邸の執務室から窓の外に目を向ける。
大きな庭を中心に西にある本邸から、北にある朽ちた邸宅が見える。
北……この国の言い伝えでは、北は死者の国に近いという。
心を残して亡くなった人の魂が残る場所。
私のいるこの邸にもそんな場所が残っていた。
何代も昔の当主様と妻子の悲しい伝説。
内戦で混乱が続いたこの国だったが、突如内戦が終わった。
隣国から攻められて呆気なく乗っ取られたのだ。
混乱は王都を中心として起きていた。
当時の当主様は混乱から免れていたが、内乱で荒らされた穀倉地帯の領地を回復させるために寝る間も惜しんで努めてきた。
それを理解できない妻が、息子を連れて執務室にやってきた。
それに怒った当主を誰が責められるだろうか。
疲れている当主の元へ幼子を連れてきては、癇に障るのも仕方がない。
優しい言葉などかけられるはずもない。
気遣う余裕すらなかっただろう。
そして悲劇が起きた。
靴を履いたまま窓際に置かれていた椅子にのぼった息子を見た当主は「躾がなっていない」と激怒した。
椅子だけではない。
絨毯にも土がついていた。
庭で遊ばせてから連れてきたのだろう。
前妻の娘を厳しく躾ながら、息子を甘やかす。
そんな後添いに以前から腹が立っていたのも事実だ。
さらに息子は誰の種かも分からない。
当主は前妻と共に馬車の事故にあい、前妻は生命を喪い、当主自身は生殖機能を失った。
息子、そして後添いの胎にいる赤子は決して当主の血はひいていないことは明白だ。
すでに前妻との間にロゼリアという次期当主がいる。
血統を大切にする貴族当主の血だけでなく配偶者の血も大切だ。
両親が揃っている方が良い縁談が舞い込む。
そんな理由から、当主は後添いを貰った。
前妻より下の貴族の娘、万が一子ができても次期当主のロゼリアより血統が劣る娘を望んだ。
しかし、後添いは前妻の娘を虐待し息子を溺愛した。
そして次期当主の座をロゼリアからフォレインに変えるよう、当家の執務に関することにまで口を出すようになった。
やれ、息子が次期当主になるべき、だ。
やれ、娘は地味すぎて華やかさに欠ける、だ。
やれ、娘が乞食に施しをしすぎる。もっと家族に金を使うべきだ、などである。
そして最後には「そんなに貴族らしくない娘はこの家にはふさわしくない!」と騒ぎ出す。
このときも、ロゼリアを家から追い出すようにいいにきたのだろう。
追い出すならお前たちの方だ!
当主は後添いに怒鳴りつけた。
そして椅子の座面を泥だらけにして、さらに背もたれによじ登っている息子に近寄った。
当主の様子に驚いた息子はバランスを崩し……
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