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第一章
第2話
しおりを挟む午後の執務も半分片付いて、執事が書類を手に部屋を離れる。
一服しようとカップに手を伸ばしたが、紅茶はやはり冷めていた。
温かいうちに飲もうと思うのだが、どうしても積み上がった書類を前にすると紅茶まで頭が働かない。
この部屋の窓は明かり取りではめ殺しだ。
仕方がない、執務室のあるこの窓の外にはテラスがない。
仕事に疲れて、窓を開けて休んでいた当主が落ちて亡くなった。
執務室に来ていた子供が、親が目を離した隙に窓際の椅子によじ登って、開いていた窓から落ちて亡くなった。
その両方が過去にこの国で起きたことだった。
以降、執務室ははめ殺し窓に取り替えられた。
「父様!」
駆け寄ってきたのは、今年五歳になるフォレイン。
私に近付くと飛びついて膝の上に乗ってくる。
なんでも乗りたがる腕白に育ってしまった。
いや、まだ小さいから好奇心が大きいのだろう。
この部屋がはめ殺し窓でなければ、この子は窓から落ちていただろう。
「一人できたのか?」
「ううん、母様も一緒~」
「ごめんなさい。どうしても父様に会いたいって言われちゃって」
そう言ってすまなそうには見えない笑顔で微笑む妻が入ってきた。
「今日は何をして連れてきてもらったんだ?」
「じゃんけん! 僕が勝ったから連れてきてもらったんだ!」
嬉しそうに笑って私を見上げるフォレイン。
私の膝に座れて満足したのか嬉しそうだ。
『執務中に子供を連れてくるとはなにごとだ!』
『ごめんなさい、この子がどうしてもって……』
『それを躾けるのがお前の仕事だ! それもできないなら離縁するぞ! 躾の出来ていない息子など残しても恥だ、一緒に追い出してやる!』
『ま、待ってください。すぐに連れて出ます! …………キャァァァ!』
「父様? どうしたの?」
見上げてくるフォレインの心配そうな瞳が、たったいま白昼夢でみたフォレインが私に向けた恐怖の瞳をかき消す。
「いや、少し疲れているようだ。休憩にしよう」
「じゃあ、お茶にしましょう。あら、ポットのお湯が温かいわ。いつの間に取り替えてくれたのかしら」
「私たちの邪魔をしないようにだろう? さあ、ソファーに移ろう。フォレイン、大人しく座れるようになったかな?」
「座れるよ!」
「お父様のお膝の上ならね」
妻の言葉に私たちは笑う。
ああ、あの白昼夢に何度も魘されてきた。
それも今は…………
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