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第一章
第1話
しおりを挟む私には大きな秘密がある。
それは表に出すことができないものだ。
それを胸に……私は死に向かう。
そう誓った私は…………なんて愚かだったのだろう。
「旦那様、お疲れ様でした。これにて午前の執務は終了です。昼食はいかがいたしましょう」
「ああ、ここに届けてくれ」
「かしこまりました」
一礼した執事が、今しがた終えたばかりの書類の山が積まれたカートを引いて出て行く。
一通りの執務を終えた私はしばしの休憩にはいる。
昼食まで約30分。
自分で淹れた冷めた紅茶を口に運ぶ。
ふと思う、冷めた紅茶はこれほど味が変わるものなのか、と。
それとも淹れ方が悪かったのだろうか。
空になった紅茶をローテーブルに置いて、庭に面した窓に目を向ける。
そこには妻の愛情を受けて美しく優しい令嬢に育ったロゼリアが散歩していた。
陽の光で煌めく長く美しい漆黒の髪、こちらに背を向けていて見えないがアクアマリン色の瞳。
妻の努力は如何様なものだったか。
そんなロゼリアの手には、小さな野の花が握られている。
この庭にはふさわしくないそれに不思議に思ったが、風に飛ばされた種が庭に咲くこともある。
箱庭で育ったロゼリアにとってみたら、そのような花は珍しいのだろう。
そんなロゼリアは、庭の端にそびえ立つ木の脇に手にしていた花を置いた。
そこには何もない。
そんな場所になぜ花を置いたのか。
私の疑問はすぐに解消された。
木に両手を伸ばしたのだ。
庭師のスヴェンがロゼリアに気付いて駆け寄り、ひと言ふた言会話を交わすとスヴェンは一度離れた。
そして脚立とハサミを手に戻ってきた。
脚立に乗ったスヴェンがすぐに赤みを帯びた果実をひとつ手にして降りてきた。
その果実を手拭いで拭ってからロゼリアに差し出された。
受け取ったロゼリアは果実を顔に近付けて香りを嗅いでいたようだ。
スヴェンに笑顔で話しかけるとスヴェンが頷いて脚立にのぼっていく。
そんなスヴェンにカゴを手にした料理長が近づいていく。
ロゼリアに話しかけている間に、脚立に置かれたカゴにスヴェンが果実を詰めていく。
たくさん詰まったカゴを両手に抱えた料理長のカゴの一番上に手にしていた果実を乗せて微笑んだロゼリアが、料理長と脚立を肩のかけたスヴェンと共に本邸へと向かう。
野の花は置き忘れていた。
まるでそこに供えられたように……
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