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世界からの罰なのだから
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国王が配偶者として一番欲していたのは、美しい従姉。
しかし、前国王夫妻は別の令嬢を婚約者に指名した。
「仕方がないわ。あなたと彼女では血が近いもの」
「王太子である以上、其方は貴族派との関係を強くするために相応しい相手を選ぶ必要がある」
両親の言い分もわかる。
王族同士では結婚できないことも。
王族は必ず貴族と結ばれなければならない。
それは脈絡と受け継がれていく王族の血を絶やさないため。
しかし、あんな腹黒い女を婚約者にした両親を憎く思った。
のちに彼は二人を弑する。
……二人の失敗は、王太子の選出を息子という立場だけで選んだことだろう。
⁂
王太子妃教育が始められると聞いて、教師たちには格段と厳しくするように命じた。
「諸外国との外交で成功するかどうかで、今後の王太子妃の評価が決まる。それは王太子である私の評価にも響き、いずれ私が国王になったときに国を左右する問題にまで発展する」
ある意味正論であり、国を滅ぼした未来の彼に一番聞かせたいセリフでもある。
足下を見られる王太子妃ではいけないのだ。
そう力説した国王の意を汲み、王太子妃教育は厳しく行われた。
国王には目論みがあった。
王太子妃教育についていけず、王太子妃を辞退させるというもの。
しかし、どんなに厳しく指導を受けてもしがみついて耐えた。
国王は何も知らなかった。
王太子妃に選ばれた以上、泣き言を言って辞退などすれば家名に傷がつく。
そのため、どんなに辛くとも脱落するわけにはいかなかった事情を。
しかし、よく考えてほしい。
幼少期から始まって10年以上かけて身につける王太子教育と、たった数年で詰め込まれる王太子妃教育。
それは王太子が優秀であることが前提になっている。
王太子妃は王太子のサポートだけで、王太子の代理ではないのだ。
そのため、王太子妃教育は本来なら周辺国の歴史や言語、生活の違いから現在の君主とその配偶者と子息令嬢の名前と顔を覚えるまでで終わる。
王太子の尻拭いは王太子妃の仕事でも公務でもない。
もし10年以上かけても王太子教育が終わらないのなら、その者は王太子、将来の国王に相応しくないだけである。
『君臨すれども統治せず』
そんな国も、この世界にはあるのだ。
しかし、配偶者に依存して統治も許されない君主のいる国というものは……この国が世界で初めてだろう。
⁂
その報を周辺国が受け取ったのは、王城や王宮が国民たちに制圧されて五日後のことだった。
国交断絶を理由に国境を封鎖した隣国は、越境を求めた人々の言葉から暴動を知った。
国境に配置した国軍から情報が届き、「自らを難民だと訴えて庇護を求めている」と報告もあった。
「受け入れますか?」という指示を仰ぐ。
仕方がないだろう。
これが国交のある国なら難民として受け入れよう。
しかし、国境は封鎖されているのだ。
「国境を越えさせるわけにはいかぬ」
冷たいようだけど、それは当然の措置だ。
国になだれ込んで来た者が、はたして無害なのか?
その者が真っ先に国を見捨てた貴族であり、後ろ暗い行為をしているため慌てて逃げ出した可能性もある。
そんな連中が、大切な国民を毒牙にかけないとは思えない。
何より、難民を受け入れたことによる負担を国民に背負わせる訳にはいかない。
こうして、国境の封鎖は継続され、国境を越えるための扉は固く封じられた。
⁂
1日。
10日。
半月。
そしてひと月。
国を捨てて国境を越えるために出来た長い列は一歩も前に進まない。
たまに少し前に進んで喜んだものの、すぐに動きは止まる。
……頭の隅では、国境を越えるのを諦めて家に戻るために列から外れたのだと分かっている。
分かっていても、わずかな希望に縋る人々は今まで並んできた列から離れられないものだ。
そんな彼らを嘲笑うように、先祖代々の田畑を捨てられない農民たちは通常の何倍も高い値段をつけた野菜を露路で売る。
そんな農民から新鮮な食材を仕入れた商人が、さらに値段を吊り上げて売り歩く。
通常ならありえない金額でも飛ぶように売れていく。
それほど、彼らは飢えているのだった。
…………心も胃袋も。
だからと言って、盗みは許されない。
たとえ幼な子であったとしても。
⁂
「……まただ」
そんな声がどこからか漏れてきた。
周囲を見渡して、その言葉の意味を知る。
衛兵が片手で持ち上げているのは痩せ細った幼な子。
その子を奪われないようにしがみついている母親が、別の衛兵に蹴り飛ばされる。
わずかに届く声から、落ちていた萎れた菜っぱの1枚を拾って母親に持って行ったのを目撃した大人に通報され、泥棒として捕まえたらしい。
彼らは金銭を要求する。
しかし、そんな金があれば子供のために宝石並みに高額な野菜を購入しただろう。
金がないと分かった衛兵たちは笑いながら………………
投げ捨てられた幼な子の身体を泣きながら抱きしめる母親。
そんな親子に衛兵たちは吐き捨てた。
「これでひとり分の食費が浮いたな。感謝しろよ」と。
その数日後……
子どもを埋葬したのだろう、盛られた土の横にはあのときの母親の躯が横たわっていた。
痩せた腕が盛られた土の上にある。
まるで、布団に入って眠る我が子に寄り添っているように……その顔は安らかに微笑んでいた。
これがいまこの滅んだ国で起きている日常だ。
この日々は、いつまでも続く。
国という巨大な組織が滅んだとしても、人々は生き続ける。
王家や貴族もまた、王城という檻の中で飼い殺しにされていく。
これが、公爵令嬢を害した罪による世界からの罰なのだから。
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