魔法学園の生徒たち

アーエル

文字の大きさ
上 下
23 / 26
第1章

第23話

しおりを挟む

幼い頃から休暇で生徒のいないアナキントス学園を遊び場にしていたアリシアだったが。
最高位の魔法学園の学園長を祖父にもっているアリシアだったが。
魔法に触れたのは入学してからだった。

「アリシア。そこは単語が重複している」
「あっ、はい。ありがとうございます」

魔法呪文学の座学では、古語を並び替えて呪文をつくる。
今回の課題は空中を一回転する魔法の構築だ。
単語ひとつで魔力が消費される。
そのため無駄な重複は魔力を消費するため、出来るだけ避けた方がいい。

重厚な音を響かせて鐘がなり、魔法呪文学の授業が終わった。

「この時間に構築出来なかった生徒は次回までに呪文を完成させるように。授業は実践、地下魔導室第3エリアで呪文を披露してもらう」
「「「はい!」」」
「ポイントは完成の有無。呪文をどこまで削り、精巧な出来になっているかで決める。魔力の消費が一番少なかった生徒に追加ポイントを用意する」
「「「はい!」」」
「では今回の授業はここまで」
「「「ありがとうございました!!!」」」

起立し、教室を出ていくクラッフィに立礼する。
今日の授業は魔法呪文学で最後だ。
寮に戻って自室で続きをするか、先にホールで食事をとってから自室に戻るか。

「アリシアはどうする?」
「私は3番目。ホールで食事してから売店で夜食を買って部屋に戻る」
「明日は? せっかくの週末よ」
「カリーナ。週明け1番目の授業は何? もう課題は終わったの?」
「…………終わってるわけないじゃない」

アリシアは「遊んでいる暇はあるの?」と聞いているが、そこには隠された言葉が含まれている。
カリーナは前回の授業でレポートを完成できなかった。
その罰として追加の課題を出されたのだ。
前のレポートもまだ提出しておらず、追加の課題も手付かずのままだろう。

「わかっているなら誰でもいいから手伝ってよ」
「「「ムリ!!!」」」

まだ教室に残っていた生徒たちが声をそろえる。
キリのいいところまで構成してから、アリシア同様3番目の流れで自室か自習室に籠るつもりだ。
そしてそのまま徹夜経由寝落ちのルートを辿るのだろう。

週末に遊びたければ、出された課題を片付けてから。
それはどこの世界でも同じこと。
日頃から出された課題を片付けているアリシアだったが週末は遊んでいられない。
課題の完成もそうだが【くすりやさん】の仕事があるからだ。
それに、普通に出された課題をグループ研究として数人一緒にすることは認められている。
しかし、罰でだされた課題を手伝うことは許されていない。
グループ研究として複数人で完成することも認められていない。

何より、自分がらくをしたいからという隠しきれていない理由が見えていることと、ここはまだ授業が終わったばかりの教室で教師の管理下にある。
そんな場所で「誰か手伝ってよ!」と喚かれてもムリなのだ。

「まだ騒いでいるのか。そろそろ閉めるぞ」

クラッフィが隣の私室から出てきた。
断られても誰かに手伝ってもらおうと騒いでいるカリーナから、辟易している生徒たちを解放するためだ。

「カリーナ、また君か。先週も最後まで騒いでいたな」
「だって、先生。私が困っているのに誰も課題を手伝ってくれなくて……」

クラッフィの目がカリーナに固定される。
先週とは、出された課題を誰か見せてほしいと頼み回った件だ。
誰も課題を見せることはなく、結果カリーナは課題が提出できず。
誰かの課題を写した場合、誰が書いたもので誰が写したのか。
貸した者から同意を得たものか。
その際に脅して奪っていないか。
誰かのレポートを丸写ししてもそれは本人のためにならず、身につかないとわかっているからこそ新入生の前期では見逃されている大目に見ている
後期に入って授業内容が前期の応用になっていけば、基礎が身についていない生徒が授業から遅れていくことを教師は知っている。
その前に前期の授業内容を身につけて後期に臨む生徒もいる。
そんな生徒は理解力が遅いだけで、理解すれば飛び抜けて成績があがる。
身につけ方は人それぞれ。
それをかすか殺すかは本人次第であるとともに、生徒を見守る教師の適切な導きが必要になる。

生徒は気付いていないが、一部を変えていたとしても全体的なレポートの流れは作成者の個性が出ているため、目を通していれば分かるものだ。
たとえ巧妙に細工していて教師が気づかなくても、魔導具の中には本物と偽物を見分けるものがある。
罰は与えられないが、ポイントは加算されない。
よって、誰も写すことを良しとしなかった。
提出ができなかったために与えられた罰の課題は、自分ひとりでこなす必要がある。
そちらは誰かが手を貸せば減点される。
カリーナがいま求めているのは、その罰で出された課題の協力者だった。
減点されるのがわかっているのに、誰が手を貸すというのか。

「それほどここから出て行きたくないならここの掃除を命じる」
「えええー!!!」
「ほかの生徒は出なさい。掃除の邪魔だ」
「「「はい」」」
「「「失礼しまーす」」」
「週末は各々にとって有効な時間を過ごすように」

クラッフィの言葉に従い、教室を後にしていくクラスメイトたち。
それに慌てて手伝ってくれるよう懇願するカリーナだったが、それをクラッフィは許さなかった。
この掃除も罰なのだ。
いくら善意であっても罰に協力はできない。
そして激励のようなクラッフィの言葉。
言い換えれば「カリーナの課題に協力する必要はない」というもの。
魔法呪文学だけでなく、ほかの教科で出された課題すべてに対してのこと。
それに気付いたカリーナは絶望に近い表情になり、クラスメイトは安堵の表情を浮かべて教室から出ていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

湖の民

影燈
児童書・童話
 沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。  そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。  優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。  だがそんなある日。  里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。  母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

両親大好きっ子平民聖女様は、モフモフ聖獣様と一緒に出稼ぎライフに勤しんでいます

井藤 美樹
児童書・童話
 私の両親はお人好しなの。それも、超が付くほどのお人好し。  ここだけの話、生まれたての赤ちゃんよりもピュアな存在だと、私は内心思ってるほどなの。少なくとも、六歳の私よりもピュアなのは間違いないわ。  なので、すぐ人にだまされる。  でもね、そんな両親が大好きなの。とってもね。  だから、私が防波堤になるしかないよね、必然的に。生まれてくる妹弟のためにね。お姉ちゃん頑張ります。  でもまさか、こんなことになるなんて思いもしなかったよ。  こんな私が〈聖女〉なんて。絶対間違いだよね。教会の偉い人たちは間違いないって言ってるし、すっごく可愛いモフモフに懐かれるし、どうしよう。  えっ!? 聖女って給料が出るの!? なら、なります!! 頑張ります!!  両親大好きっ子平民聖女様と白いモフモフ聖獣様との出稼ぎライフ、ここに開幕です!!

昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。 画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。 迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。 親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。 私、そんなの困ります!! アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。 家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。 そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない! アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか? どうせなら楽しく過ごしたい! そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

ハイメくんに触れた

上本 琥珀
児童書・童話
 電気が有って、飛行機が有って、スマホが有って、魔法もある世界。  そんな世界で、魔法学校に通うグラディスは、箒術の試験中に箒から落ちそうになった所を、学校の有名人ハイメが助けてくれたことで知り合いになり、優しい彼に惹かれていく。  グラディスは、一年の終わりにあるホリデーパーティーで、ハイメとパートナーになれるように頑張ることを決めた。  寮が違う、実力が違う、それでも、諦められないことが有る。

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

処理中です...