22 / 26
第1章
第22話
しおりを挟む魔法使いは魔法使いらしく竹箒に乗って空を飛ぶ。
なんていうのは遥か昔のこと。
乗れるものに浮遊術をかけて空を飛ぶ。
それは主流になっている方法。
「うっわああああああ!!!」
「バランスをとれ!」
「む……りぃぃぃ……」
今は自分に浮遊術をかけて空を飛ぶ。
自分にかけるのではなく靴にかけることで少量の魔力を消費するだけで済み、階段のように空中を上がることもできれば坂のように登っていくこともできる。
ただしバランス良く立てることが大事なのだが……
「うわーっ! 靴が脱げたぁぁぁ!」
「靴だけ飛んでるー!」
「戻ってこーい!」
「た~す~け~てぇぇぇ!」
ショートの編み上げ靴を履いている生徒たちだったが、スルスルと編み上げたはずの紐が意思を持ったように抜けていくと、生徒の足を「ペッ」と靴から吐き出す。
左右の紐同士が手を繋ぐように固く結び合うと、大空を逢い引きよろしく高く飛び上がっていく。
中には固結びになった靴の両側から別の靴が寄ってきて、半回転した生徒をそのまま引き摺って大空へと飛んでいく。
「……たのしそう」
「私も間違えればよかったな」
「あーあ。発音を間違えたんだねえ」
アリシアの言うとおり、aとae を間違えていた。
正しい発音で発した古語の語訳は『我が靴に意思を与える。我が意思を読みとり、我が身体を浮かせよ』となる。
しかし発音や単語を間違えた結果、『我が靴に意思を与える。我が魔力をとり込み自由に飛ぶがいい』となってしまった。
意思を持った靴は命じられたまま自由に空を飛んでいる。
その結果、間違って命令したことに気付いていない当の本人たちは大変な状況下にもかかわらず、正しい発音をして上手くバランスをとって浮かんでいる生徒たちからは楽しそうに見えている始末。
しかしこれは実習であり、ポイント制の選択授業でもある。
今学期でポイントを下げてしまえば、「授業を受ける資格はない」と判断されて後期の授業を受けられない。
選択授業だから落第や留年はないものの、来年度まで魔法学の受講は許されない。
「それでもいいなら彼らの仲間に加わってきなさい」
魔法呪文学を教えるクラッフィの言葉に、浮かんでいる生徒たちは首を左右に振る。
決められた時間内で成功した生徒たちには5ポイントが与えられている。
それを放棄したい生徒はいない。
今回は時間内にできたが、次の呪文も魔法が上手く発動するとは限らない。
次は向こうで慌てて騒いでいる仲間かもしれないのだ。
今度から靴は意思をもつため、動かない階段でも勝手に上の階まで運んでくれるようになる。
中には向かう教室まで歩く速度で廊下を運んでくれる。
それには、最初の魔法『我が靴に意思を与える』が大切になる。
一部の生徒は浮いてもおらず、靴だけが空を飛び回っている様子でもない。
自分の靴にうまく魔法がかけられない生徒たちだ。
この靴にかける最初の魔法は、使用者自らがかけて成功しないといけない。
「スペルで魔法をかけたら?」
「…………ムリ」
「私も覚えていない」
発音が無理ならスペルで魔法をかける方法もある。
育った国や地方によって共通語でも発音やイントネーションが違う場合もある。
特に新入生の前期では発音で躓く生徒が多い。
そんな生徒は発音で魔法が発動するまでの間、空に杖でスペルを書いて魔法をかけるのだ。
「そこで教本を開こうとしないのは何故ですか? まさか実践だから教本を持って来なかったとは言いませんよね?」
無言で俯く生徒たちは教本を持って来ていない。
教本を持って授業にでた生徒たちの方が多い。
その中には発音ではなくスペルを書いて魔法を発動させた生徒たちもいる。
その生徒たちはこの場で浮かんでいる。
発音ではないため、スペルを間違いなく書ければ発動するのだ。
間違えたスペルを書けば、それまで書いた古語すべてが消滅する。
「教本を持って来なかっただけでなく発動もさせられなかったあなたたちは減点5」
実践だからと教本を持って来ない生徒は『授業を受ける気がない』と判断されたのだった。
10
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
なんでおれとあそんでくれないの?
みのる
児童書・童話
斗真くんにはお兄ちゃんと、お兄ちゃんと同い年のいとこが2人おりました。
ひとりだけ歳の違う斗真くんは、お兄ちゃん達から何故か何をするにも『おじゃまむし扱い』。
【奨励賞】花屋の花子さん
●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】
旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。
そこには『誰か』が不思議な花を配っている。
真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。
一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。
『あなたにこの花をあげるわ』
その花を受け取った後は運命の分かれ道。
幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。
「花子さん、こんにちは!」
『あら、小春。またここに来たのね』
「うん、一緒に遊ぼう!」
『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』
これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる