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第1章
第8話
しおりを挟む「お腹いっぱ~い」
「やっば~い。毎日美味しすぎて食べてたら体重が増えちゃう」
新入生たちがいるのは、あの騒ぎが起きたエントランスホール。
これからクラス発表と時間割が配られる。
クラスによって授業内容が変わり、進捗状況によっては上の学年が習う内容を少し齧ることもある。
「お待たせしました。これよりクラスを発表します。皆さんはクラスに分かれて集まってください」
ヴェロニカが杖を振るうと、閉ざされた大きな扉の左右に紙が現れた。
縦5メートル横1メートルの紙に生徒たちの名が書かれている。
アリシア・ブランシュはイーグル、バグマンはホークとクラスが分かれている。
1学年はひとクラス40人、下位クラスにあたるホークには名前があるもののこの場にいない生徒がバグマン以外にも数人いる。
前年度に進学できなかった生徒たちだ。
昨年の新入生の中には学園長の孫や勇者の子と同年になろう、お近付きになろうという魂胆の生徒たちもいたが、彼らは今頃後悔しているだろう。
アリシアは上位クラスでほとんど一緒に学ぶこともなく、バグマンの性格に問題があることが入学式前に判明したのだから。
それと似たことがここでも行われていた。
アリシアと同じクラスになった生徒たちは喜び、バグマンと同じクラスになった生徒たちはガックリと膝をつく。
生徒たちの様子を見守っていたヴェロニカがパンパンッと手を叩いて注意を自分に向ける。
「自分のクラスは確認しましたね。共通の授業以外はこのクラスで行動します。なお、成績によってはクラスの移動があります。イーグルだからといって勉学を疎かにすればホークに落ちますし逆も然り。全学年に言えることですが、クラスの移動ができないのは留年して下位クラスに入った生徒です」
まだ望みがある。
そう言われたホークの生徒たちは希望を胸に立ち上がり、今の成績に甘えていると留年もあり得ることを思い出したイーグルの生徒たちは気を引き締めた。
ヴェロニカはそんな生徒たちの姿を厳しい目で見守っていた。
成績を維持するために、足を引っ張ったり裏から手を回す生徒が現れる。
そのような不正行為をした者が学園を卒業してもエリート魔術師にはなれない。
目先の私利私欲に走る者が人々を導く立場になれないのも当然だ。
そんなことをいちいち説明されないと分からぬ者に、魔術師の最高峰にあたる魔法省への入省など許されるはずがなかった。
「授業は明後日からです。皆さん、明日は自由に過ごしなさい」
今日は入学式であり入寮最終日でもある。
新入生で個室の生徒は特に荷解きの時間が必要になるだろう。
新入生の中には先輩やアリシアのように5日間の入寮期間日に荷物を搬入している生徒は少ない。
兄弟姉妹がいても、最終日に大きな荷物を持って魔導列車に乗り込む新入生は多い。
旅の疲れ、そして入学式の食事で膨れたお腹を抱えて寝ようにも興奮して眠れないだろうし、新入生同士の大部屋なら消灯後も起きて話をしているだろう。
そのために翌日が休日になっている…………わけではない。
入学式が始まった時点ですでに授業は開始している。
いまはオリエンテーション、どう過ごすかを見られているのだ。
もちろん荷解きをするのは当然だ。
それでも1日かかるはずがないし、1日かけるようでは整理整頓に問題がある。
そして、空いた時間をどう過ごすかを見られている。
予習や復習は個室なら備え付けの机でするだろう。
しかし大部屋の場合は机がないため寮内の学習室を使用する。
もちろんクラスで勉強会やグループ学習もあるため男女共有の学習室のあるが、それは寮にはなく教室棟に用意されている。
教師たちが見ているのは、初めての学園内を探索するかどうかである。
教室は一室で学ぶのではなく、教師の待つ教室へ学びに行くのだ。
魔法生物学は王城の外に広がる森の中の飼育施設か外での実習が基本。
少しでも教室の場所を知っておかないと、授業が始まれば教室の扉は固く閉ざされる。
もちろん授業をでなければ減点となるし単位を落とすことにもなる。
迷子だったり教室の場所を知らなかったなどという遅刻の理由は卒業後に通用しない。
遅刻しても許されたいなどと甘えたことを主張したいのなら、普通の学園や学校に通えばいいだけなのだ。
事前の下見と情報収集は当然で、魔王との戦いに遅刻などありえないのだから。
明日の朝になったら真っ先に覚えなくてはならないのは、利用する頻度の高い購買部と毎日必ず利用する食堂の場所である。
食事をとらないで生きていけるのなら別だが、目下のところ食事をとらないで生きていられる種族はこの世界にはいないのが現状であり……食堂を求めて三千歩は彷徨う新入生が毎年現れる。
入学式の席に配られた城内の案内地図を制服のポケットに入れたことを思い出すのは、次に制服を着用する卒業式兼修了式の頃だろう。
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