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第一章
❶⑤
しおりを挟む私のトロそうな見かけだけで見下してバカにする連中は結構多い。
表面的な関係性だけでは私の本性を計り知ることもできない。
それでも、キャンプで数回会っただけで知ることができてしまうのは、各々の覆う『立場の壁』が取り払われて素の自分でいられるからだろう。
もちろん、騒動を起こした会社の連中は知ることなどできない。
このままの態度を続ければ…………本性を知ることは出来るだろうけど。
「今まで見てきたキャンパーの中で、1・2を争うくらい危険人物なのにな」
「私は人畜無害ですよ」
「こちらから手を出さなければ、な」
「それを世間は『自業自得』と言います」
「「「違いねぇ!」」」
彼ら職員やキャンパーの一部が知っているのは、私が巻き込まれて反撃した騒動を目撃したからだ。
手にした雨傘(長傘)を使って、炊事場で私に猥褻行為をしようとした男たちに反撃したのはキャンプ何度目のことだったか。
ひとりには、柄の部分を男の足に引っ掛けてすっ転がしただけ。
それに怒って殴りかかってきた男の前で傘を開いたら、そのままの勢いで石突に顔面を突っ込ませた。
痛みから後ろへ下がって転倒、三段の階段を滑り落ちて気絶。
あっ、監視カメラで私へのしつこい接触(未遂、触られていませんから)と正当防衛が認められました。
逆に炊事場で起こったことのため、「まな板が落ちたり包丁がとんだりしなくてよかったな」とは言われました。
言われたのは男たちの方です。
……それまで般若の如く顔を真っ赤にして怒り、自己正当化させていた男たちの表情が青くなったのは何故でしょうね~?
「洗ってる最中の包丁が、驚いた瞬間に手から離れるなんて……」
「「「よくある、よくある」」」
周囲からの言葉に、目が大きく開いたのはなぜでしょう?
「飛べない包丁は、そのまま落ちるか。何かに突き刺さるか」
「その何かが運良く襲ってきた相手だったとしても。まあ、気の毒な事故……もしくは自業自得ですね」
警察官の言葉に1人は気を失った。
白目をむいて真後ろに倒れたのだ。
まあ、地面に座っていたから……大丈夫でしょ。
大丈夫でなくても、愚か者がひとり。
世界から消えただけ。
「そうなったら平和な世界が来るのに……」
「ああ。キャンプ場にもな」
「警察も、バカで愚かな連中の通報を受けて、わざわざ引き取りに来なくて済むんだけどな」
警察官も口撃に参戦。
「女性を襲ったくせに……軟弱者めが」
「いやいや。ひとりではな~んも出来ないから軟弱者なんだよ」
そうそう、と頷くキャンパーたち。
警察官たちは分かっていて脅しをかけている。
脅すのはタダだ。
それで二度と罪を犯さなければいいのだから。
(閑話休題)
そんなことがあった、このキャンプ場。
私以外のキャンパーも大小様々な騒動に巻き込まれている。
それらのほとんどがにわかキャンパーたちによるものだ。
そして、狙われやすいのが……私のようなソロキャンパーや女性だけのパーティたち。
性別や人数の差で襲い掛かってくる。
だからこそ、先手必勝。
正当防衛が認められる許容範囲内で反撃にうって出るのだ。
そんなことを知ってるからこそ、暴力に出てこない限り周囲は手を出そうとはしない。
ただし、口は挟むし野次はとばす。
こちらもまた安全圏で見守り中。
まるで遊んでいる幼な子を見守る保護者状態だ。
「壊された鍋のように、この頭を踏みつけて潰してもいい? 全体重をかけたら、流石に潰れるよね。それとも急所の方が潰しやすいかな」
さっきも言ったけど、ここに警察官は来ている。
社長たちがどこから駆けつけたのかは不明だけど、間違いなく警察官の方がキャンプ場に近いのだから先に到着していてもおかしくはない。
彼らもまた、キャンパーをある意味でよく理解している。
従来のキャンパーはけっして手を(下半身も)出さないことを。
何を言っても止めないのだ。
脅迫にならない範囲だったら「言うだけならタダ」なのだから。
それに私は被害者。
多少過激なことを言おうと、実際に手出ししなければ許される立場だ。
「手を出したら暴行の現行犯だぞ」
「ほいほ~い」
この言葉で、この場が警察官黙認と捉えられても仕方がない状況となった。
それを証明するかのように、加害者とその一派が表情を引き攣らせる。
「さあて……? 誰がなんだって?」
これ以上は何も言えなくなった。
……誰の立場が上なのか、それを理解したのだろう。
自分たちの方が圧倒的に悪い、ということを理解した社長たちが慰謝料を含めたことを口にし始めた。
それを「なあ」の一言で止める。
先に言いたいことがあったからだ。
「こいつ…………意味がわかるかい?」
私が見せたのは、某SNSにある彼らの会社のアカウント。
私の指がさす場所に表示されているのは【フォロー中】。
そう、私は彼らの会社のフォロワーだ。
(この一件でフォローを外しただけでなくブロックした……当然だろう?)
何年も続いた『公式のなかの人』とのやりとり。
私のアカウントを知って驚いた声を上げたのが……『なかの人』だった。
「これまでの……裏切られた気分だよ」
さすがに反論はなかった。
そこからはサクサクと話が進んだ。
別に高額な慰謝料を請求したのではない。
私は終始訴えていたのは「壊した鍋と夕食のシチューを弁償しろ」だ。
ついでに「地面にぶちまけたシチューを片付けろ」とも言った。
正直な話、ショッピングセンターでいいから鍋を買ってきてくれればよかったのだ。
ついでにシチューの材料とルウも買ってきて「すみませんでしたー!」と謝ってくれれば済む話だった。
もしくは一緒に買い物へ行って(もちろん同乗させないし同乗しないけど)支払いをしてくれる、などね。
弁償方法は色々あったんだ。
もちろんそれをキャンプ場の職員も集まっていたキャンパーも警察官も……気付いていた。
それを大げさにしたのは社長たちだ。
明らかにどちらに非があるか分かる状態なのに認めなかった。
さらに弁護士が出てくることになった。
弁護士はさすがに非を認め、まだ不満顔だった社長たちに頭を下げさせた。
会社のグループ活動の一環だったことも大きい。
キャンプ場の人たちを前に社名を明かしていたこともあり、悪名が広がったのは仕方がないだろう。
弁護士を立てる、と言い張って弁償を拒否したのだから。
警察官が仲介して連絡先を交換。
そして私はちょっと離れた商業施設へ(車で約30分)。
そこで鍋、シチューの食材を購入。
これらと往復のガソリン代がこちらが求める最低の弁償費用。
肉は牛肉ではなく豚の塊肉。
いつもの安い肉ではなく地元の銘柄だったけど。
それでも牛肉より安いんだからいいよね。
加害者たちには警察でお説教の上で罰金刑か何かで前科がつけばいい、とは思っていたけどね。
実際には執行猶予がついた。
執行猶予がついても前科は前科。
「ちょっと酷くない?」「罪が重くない?」などと言われたけど、本人たちが謝罪を口にしなかったこともあり、会社側の弁護士も「救いようがない」と匙を投げた結果だ。
これでもまだ良いほう。
「弁償費用の支払いを拒否して実刑になってもいい、ということだよね?」
たった数千円で罪が軽くなるのだから。
「あの場で平身低頭で謝罪してさ。鍋や食材を弁償するなり、一万円札を数枚渡して私自身に購入に行かせたり。ちょっと誠意や反省を見せれば済んだ話なんだよ」
私の言葉に自分たちの味方であるはずの弁護士が「まったくもってその通り」と同意して首肯する。
「こんなに大袈裟な騒ぎに発展させてさぁ。弁護士同伴で謝罪するような案件なの?」
さすがに、自分たちが愚かだったって自覚したのか。
最後は心からの謝罪が引き出せたのでヨシでしょう。
ちなみに話し合いに何度か呼び出されたこともあり(高速も使った)、最終的に数十万円の迷惑料が支払われました。
ちなみに弁護士から「このような謝罪と少額の賠償金で済む問題を大ごとにしないでください」と注意されていた社長たち。
「記録に残して報告する」と言われていたけど、減給とか社内で処罰されるようだった。
まあ、私は縁を切ったので、それ以上は関係ないし知りたいとも思わない。
知ってるのは、騒動を起こした連中のひとりが三年後に実刑で刑務所に入ったこと。
執行猶予期間中に酔った末に器物損壊罪で捕まったそうだ。
弁護士の手紙には『あと三日で執行猶予が終わるというのに』とあった。
執行猶予期間中のため、私に対する罪も加算された実刑が言い渡されたらしい。
…………おろかだ。
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