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後編

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これが、シュテルン公爵家で起きた事件の顛末である。
それから4年後。
ひと月後に20歳となる次期当主フランことフランシスは、先日貴族学園を卒業した婚約者と婚姻するとともに公爵家の当主となった。

婚約者は隣国の皇女シェヘラザード。
シュテルン公爵家当主フランシスとは互いの祖父母が学友で、今もなお家族ぐるみの付き合いがある。
シェヘラザードの母が皇帝陛下の3番目の貴妃となったものの、皇女殿下のため降嫁が決まっていた。
祖父母が共に学友で親友。
その娘たちも幼馴染みとして交友している。
その子どもたちなのだ。
さらに外交的にも友好国として絆が強く結ばれる。

権力をもつ大人たちの陰謀により結ばれた婚約だったものの、当人たちには関係がなかった。
フランシスが10歳のときに起きた、ルールドベル伯爵家によるシュテルン公爵家簒奪事件で国内が大きく粛正されたときも、二人を引き裂く動きはなかった。
逆にシェヘラザードは、母と弟妹を喪っただけでなく『父親が再婚により公爵家との縁が切れた』上に罪を問われて独りになったフランシスを心配し、公爵夫人となるべく教育を受けるため公爵家へと入った。

「貴族学院には通います。私は公爵家の嫁。この国に馴染むため、そして公爵夫人となったときに信頼できる友人との繋がりを深めるためにも必要だと思っております」

これからのことを相談する場でそうハッキリ答えたのちに、「それに」とフランシスに向けて恥ずかしそうに微笑む。

「フラン様に寄り添いたいのです」

シェヘラザードが公爵家に入ったのは8歳になったとき。
その日から9年間。
当主夫妻とよばれる2人はそれからも寄り添い支えあって、公爵家を盛り立てていった。

初夜のとき、シェヘラザードはあの日の宣言に隠された意図を告白した。

「公爵家に令嬢が住まわれているとお聞きし、醜くも嫉妬したのです」

8歳という若さで、見たこともない令嬢に嫉妬したこと。
それは恥ずべき感情である、と嘆くシェヘラザード。

「それでは私も当時のことを告白しましょう」

新妻となったシェヘラザードを抱きしめて慰めていたフランシスは、優しく抱きしめたまま横になる。

「私も……シェーラと会えない日々が『次期当主の補佐もできないブラン』のせいだと分かっていました。幼くして母の補佐を始めた私の存在を邪魔と思い、私に毒を飲まそうとした。母とまだ見ぬ弟か妹が殺されたことも、本当は……」

フランシスは自分の生命が狙われていることに薄々気づいていた。
だから……あの日、侍女から受け取ったジュースの入ったグラスを置く際に取りかえた。
信じたくはなかった。
自分を殺そうとしているのが母だということを。

取りかえたジュースをフランシスは飲み干した。

「お母様もお飲みください。私はおかわりをもらってきますね」
「ありがとう。喉がカラカラだったの」

おかわりをもらいに席を離れたフランシスの姿に母は、ルールドベル家の息のかかった使用人が毒を盛っていないのだと思っただろう。
チャンスはいくらでもある。
オヤツの時間なら毒が盛れる。
そう信じたであろう母は…………手元のジュースに口をつけた。

「なぜ……私を」

それが最期のことば。
愛しいルールドベル当主の子を宿した母は、を消すことにした。
跡を継ぐ子は胎に宿っている。
それこそが、不倫相手と母が立てた簒奪の計画だった。
それに失敗したルールドベル家はメディアとブランを婚姻させた。

祖父にはすべてを伝えた。
母の死の真相を公にすることははばかれた。
そのため、母親の死を美談とすることにした。
それはルールドベル家の策略を妨害することにもつながるから。

ルールドベル家に加担していた使用人たちもすべて処刑された。
主人を見誤った者たちなど、そのまま働かせると思っていたのだろうか。
母の不貞を知りつつ放っていた者たちなど、


腕の中で深い愛をその身に受けたシェヘラザードは安らかな寝息を立てている。
幼い身でありながら異国にやってきた皇女殿下。

「フラン様に寄り添いたいのです」

その言葉に、父親たちの粛清を決断した。
彼女を自分のように毒を盛られるような危険と隣り合わせに身を置くなどしてほしくはなかった。

私は両親のようにならない。
シェヘラザードだけを、そしてまだ見ぬ子を愛すると誓う。

その誓いを胸に、彼女の緑の髪を一房すくうと、そっと口づけた。
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