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中編
しおりを挟む月に一回、一家族ごとに公開処刑が行われていく。
ゆっくり、でも確実に減っていく獄中の犯罪関係者たち。
彼らは農作業などの労働をしながら、自分の順番が来るのを待っていた。
庶民から、そして元準男爵家から元男爵家、元子爵家へと処刑される爵位は上がっていき…………
5年かけて処刑されていった。
そして今日、最後の関係者が処刑場へと引き出される。
父だったブランが最後尾に立ち、メディアとジョアンがその前に力なく座り込んでいる。
先月に処刑された元ルールドベル伯爵家は、母の毒殺に関わっていた。
シュテルン公爵家の簒奪を狙ってのこと。
昨日、私はブランと最後の対面をした。
「ブラン。ルールドベル家が毒殺を狙ったのが私だったと知っていましたか?」
驚きで目を大きく見開いたブランのその表情で、計画に関わっていなかったことを知った。
…………いまさら遅いけど。
「私を亡くして嘆くお母様やお祖父様に、ジョアンを近づける計画だったそうです。あわよくばジョアンを養女に。それが本来の計画だったそうですよ」
でも、実際には用意された毒入りジュースを飲んだのは私ではなく母だった。
「あなたは知らなかったのですね。お母様のお腹には弟か妹がいた事実を」
午前とはいえ少し日差しの強い日だった。
私に出されたジュースを、すでに1杯目を飲み干していた母に差し出した。
「ありがとう。喉がカラカラだったの」
そう笑って受け取った母。
空のコップを手に、ジュースのおかわりをもらいに数歩離れた直後…………鈍い音がして振り向いた私の前にはガゼボの床に倒れた母の姿が。
「……彼岸へいったら」
「お祖母様がお許しになられるとお思いですの?」
「…………」
生命を賭して娘を産んだお祖母様。
「その娘を……お腹の子を道連れに殺したあなたたちを。我が子と生きるためにご自分の生命を賭けたお祖母様が…………孫である私を殺そうとしたあなたたちを。その寛大なお心でお許しになられる、とでも?」
これ以上、何も言わなくなったブラン。
「許されるはずがない」とだけ。
小さく呟いたその声だけが…………扉を閉める私の耳に届いた。
「最後まで、私を愛せなかったことを謝罪されませんでした」
私の報告を、お祖父様は小さなため息で返事とした。
私たちを乗せた馬車は処刑場を後にする。
刑の執行はまだ始まらない。
いや、その首に荒縄をかけるのを暴れて全力で拒否しているメディアとジョアンのせいで、急遽『事前処理』が行われることとなった。
暴れるその手足を指先からすり潰すのだ。
……それもまた処刑に含まれている。
大人しく処刑人に従っていれば、痛い思いをせずに吊り下げられただろう。
従っていたブランの執行は一番最後ということで、処刑台に設置された檻の中に移されて大人しくしている。
「 彼奴は自身が被害者として憐れむだけしかないのだろう」
お祖父様のいうとおりだと思う。
・妻を殺されたことに気づかずルールドベル家に騙された気の毒な婿養子
・ルールドベル家の簒奪に巻き込まれた気の毒な婿養子
・周囲の言葉に惑わされて、次期当主となる我が子に家族として見てもらえなかった哀れな父親
これらはすべて、ブランが主張してきた内容だ。
労働をしていた農場で、または畜産農家で。
しかし、謝罪が認められて許される時間はすでに終わっています。
判決を受けてここにいるということは、冤罪ではない限り減刑されることはなく。
周囲に愚かな姿を見せつけているだけでした。
そして新たな立場が生まれた。
・妻とお腹の子を殺されて公爵家から縁を切られた父親
・我が子を庇って殺された次期当主とお腹の子を守ることができなかった罪を問われ、2人が待つ神の下へと送られる父親
それを主張する時間はなかった。
愚かな姿を見せつけるメディアとジョアンと違い、ブランには自己を封じる薬を投与されてあの舞台にいる。
愚かで身勝手な自己主張を繰り返すことは、我がシュテルン公爵家の名を落とす行為となる。
元貴族としての矜持を胸に、堂々と死んでほしいものだ。
手足を胴の付け根まですり潰されたメディアとジョアンが、さらに喚きつつも無事に骸を晒したのは5日後。
続けて静かに刑に処されたブランは、檻の中でも反省していたように見えていたらしく、『貴族らしく死んだ』と執行に携わった職員より報告を受けた。
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