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これは貴様の嫌がらせか!
しおりを挟む煌びやかなシャンデリアに一品だけでも国家事業費が賄える美術品。
そんな会場で開かれているのは王家主催の舞踏会。
着飾った紳士淑女が次々と会場入りする中、ザワッと不快そうな声が会場内に広がった。
そこに現れたのはクラーク侯爵子息レイロッドとパーカー男爵令嬢シンディ。
今日は上位貴族のみが参加を許された舞踏会のため、たとえパートナーであっても男爵令嬢の参加は許されません。
そもそも招待状を受け取っていないでしょう?
もちろん衛士たちに入り口で止められて会場内には入れません。
「アーリー・エマーソン! これは貴様の嫌がらせか!」
クラーク侯爵子息……めんどくさい、レイロッドが会場内にいる私に気付くと大声をあげた。
「一体、何のことでしょう」
「しらばっくれるな! 俺が貴様をエスコートしなかったことへの仕打ちだろうが‼︎」
「本日の舞踏会は上位貴族のみの招待です」
「俺のパートナーなら入れる!」
「入れません」
「それは貴様が邪魔しているからだ!」
「私は何もしておりません。それより、ほかの招待客に迷惑です。お引き取りください」
「ふざけんな!」
レイロッドは自分だけ会場内に入りツカツカと私の近くまで来ると、近くのテーブルに並べられたカトラリーの籠を私に投げつけました。
その際に私への暴言も口走り、一方的に婚約破棄を命じてきました。
ですが、そんなことは二の次、三の次です。
ここにいるのは私だけではありません。
悲鳴が上がり、衛士より早く周りの紳士たちがレイロッドを組み伏せてくれたため、更なる被害はでませんでした。
「皆さま、大丈夫ですか⁉︎」
私は周りに声をかけ、そばで倒れている女性に手を差し出します。
「バレッタ夫人、お怪我はございませんか?」
「はい、アーリー様。お恥ずかしいのですが驚いて転んでしまっただけです」
「カゲイユ侯爵、どちらにいらっしゃいますか」
「は、はい。こちらに」
人垣の中から声があがると、周囲の人々が左右に分かれて道を作ってくれました。
そして私が何も言わなくても冷たいおしぼりを持ってきたり、女性たちはバレッタ侯爵夫人のヒールを脱がしてワインクーラーに入っている氷を広げたトーションで包んで足首を冷やしてくださっています。
そういう優しさがこの国にはございます。
「侯爵、奥方が足首をひねられました。ご一緒に医務室へ」
「アーリー様、担架の準備が整いました」
「侯爵様、奥方をこの上に」
衛士が夫人の隣に担架を置くと侯爵はそっと抱き上げて担架の上に寝かせました。
一度持ち上げられた氷入りのトーションもふたたび足首に乗せられます。
そばにいた紳士がそっとその足に上着をかけて、肌が露出しないように気を遣ってくださいます。
「皆さま、ありがとうございます。ありがとうございます」
カゲイユ侯爵が周りに頭を下げると、四人の衛士によって担架が持ち上げられて夫人を医務室へと運ばれました。
騒ぎの発端であるレイロッドはすでに強制退場していました。
シンディも同様です。
お二人は貴族牢ではなく一般の地下牢に入れられたそうです。
舞踏会会場は第一会場から第二会場へと移されて、滞りなく催されました。
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