短編集

アーエル

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タイトルなし

4-3

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「終わったよ」


花を供えた墓の前で声をかける。
もちろん、返ってくる声はない。

脳裏にぎるのは、楽しそうに笑う声。
目を閉じれば、喪われた人の屈託のない笑顔が浮かぶ。

やさしい気持ちが胸いっぱいに広がったものの、目をひらけば無機質な墓石がそこにあるだけ。

復讐なんてする気はなかった。
ただ、私はだけ。

きっかけはフミヒトの不倫。
……愛していたから、裏切りは悲しかった。

その相手がアサカさんだった。
……彼女は私のことを覚えていなかった。

アサカさんの夫がDV男だったのを知っている。
……あの男はアサカさんとは再婚だった。

DV男の親たちがモラハラ家族だということも知っていた。
……彼らの日常生活が破綻したことは自業自得でしかない。

弁護士が金をちらつかされれば有罪事件を無罪に、示談にして不起訴にする悪徳弁護士だったことも…………忘れていない。


「シズナ」


呼びかければ、近くの梢が風で揺れる。
それがまるで返事のように私を包む。


優しいあなたはを望んでなどいない。
分かっているから、私は直接的に手を出さなかった。


シズナは私の大切な親友。
事故にあった彼女は救急車で搬送された。
その途中で救急車は進路を妨害された。
禁止されている場所での……路上駐車。
車の所有者はアサカさんと不倫中だったDV男。

シズナはそれが原因で亡くなった。
病院に着く直前に息を引き取っていた。
同乗していた私の手を握り「悔しい」と涙をこぼして。

のちにDV男は違法駐車の理由を「エンジンの故障」と言った。
近所では違反常習者で有名だった。
しかし、弁護士が言ったのだ。


「間違いなく、はエンジンの故障が原因です」

「ええ、はい。『故障した。動かない』と連絡が来ました。ですがレッカー車が入れない道でしたので牽引できる四駆車で向かっている途中でした。
救急車の通行を妨害する形になってしまったのはそんな理由からです」


当時高校生だった私に何が出来ただろう。
シズナの家族はある日突然いなくなった。


「生命保険が入ったんだろう」


そんなことを言っている大人たち。
……それが一転したのは数年後、大雨で崩れた崖下から一家全員が白骨体で発見されたから。

好き勝手言ってた人たちの中で不審な動きを見せたのが……すでに夫だったフミヒトを含めた彼らたち。

シズナを亡くして悲しむ私を気にしてくれたフミヒト。
彼が事故の原因だった。
階段でふざけていてシズナにぶつかり……シズナは頭から落ちたのだ。

フミヒトとアサカさんは共通の『シズナの死』という傷を癒し合っていたのだろう。

アサカさんは、私が救急車に同乗していたのを知っていたのだろうか。
たとえフミヒトから聞いていたとしても、私がDV男と一緒に家から出てきた彼女の顔を見ていたのは多分知らない。

あのあと結婚したようだけど、その一件が男やその家族をDV男やモラハラ家族にしたのだろう。

私は2人を
たとえ私が許しても、疑心暗鬼を拗らせたて執着に近い感情を抱くDV男は『生きている限り2人を絶対に許さない』と思ったから。

シズナの家族が行方不明になって数日後。
DV男とモラハラ家族の家に一通の手紙を送った。

その文面にはひと言、

【お前らの罪はいずれ白日はくじつもとに晒される】


その言葉が現実となった。
彼らはそう思っているだろう。


しかし、昔からよくいうではないか。

「良いことも悪いことも、ぜ~んぶ【お天道てんと様がみてるよ】」

って。



彼らの罪は全部見られていたんだよ。
私?
よく思い出して?
私はよ。




〈了〉

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