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タイトルなし
3-3
しおりを挟む同じ学年のエーベリッカとマキシス。
あまりにも違う立場の2人に接点はない。
タウンハウスから学園に通ったエーベリッカと寮生活をしていたマキシスは、家格の違いから学び舎や待遇すら違っていた。
隣国からの入学生、それもたった1年の付き合い。
そんな理由からマキシスは妄想癖を拗らせた。
「私はサンドレイ公爵家の娘」
「兄や姉には虐げられて、両親も兄や姉の言葉を信じて……疎まれた私は家から追い出され、寮に入れられた」
「貴族はこの学園に通って卒業する習わしがあるから、それで仕方なく通わせてくれているだけ」
「卒業したら私は家から追放される」
追放するのなら学園に通わせるはずがない。
ちょっと調べれば分かる妄想を鵜呑みにするバカは誰も……否、ひとりいた。
そう、誰もが知っている国の恥ことエレマン王子。
誰かひとりでも信じてくれる人がいれば、さらに妄想話は広がっていく。
こうして出来上がったのが、史上最悪な設定である。
エレマンの婚約者であるサンドレイ公爵令嬢は妹であるマキシスを虐げて悦ぶ異常性癖の持ち主。
エレマンは姉や家族に虐げられても必死に生きているマキシスに出会って恋に落ちた。
公の場で婚約者であるサンドレイ公爵令嬢に婚約破棄を突きつけ、新たにマキシス・サンドレイ公爵令嬢と婚約を結ぶものとする。
ここでマキシスはいくつかの勘違いをしていた。
たしかにエーベリッカを知ったとき、2人の年齢は同じであった。
しかしエーベリッカは誕生日を迎えていたもののマキシスの誕生日はまだきておらず。
実際にはマキシスの方が1年年上だった。
……そう、エーベリッカはマキシスより年下なのだ。
とある事情によりマキシスの入学が1年遅れたため、エーベリッカと同じ年に入学となった。
入学が遅れた理由……それは母国で通っていた学園を留年した16歳、翌年卒業不許可が決定し自主退学という形で去りこの貴族学園に入学した17歳。
そして、貴族学園の留年が決定した現在18歳。
どんなに不出来な子息令嬢であっても、この学園を卒業できれば一応は貴族として生きていける。
貴族との結婚を望むなら、この学園の卒業が必須事項なのだ。
そして2つ目。
マキシスは姉の名を間違っていた。
サンドレイ公爵令嬢の名はエーベリッカ。
マキシスが繰り返して呼んだ『アリーナ』はサンド・レイ子爵の実子、マキシスにとって義姉の名前だ。
ちなみにアンネリーナ・サンド・レイ子爵令嬢という。
余談だがサンドレイ公爵家には、ほかにもサン・ド・レイ伯爵家という傍家もある。
主家の実子が独立して興したことがその家名と爵位から分かるのだ。
サンド・レイ子爵は後妻の連れ子と養子縁組をしていた。
それは『18歳になるまで世話をしてやる』という契約のようなもの。
決してサンド・レイ子爵家の正当な権利を有する娘として引き取られたわけではない。
そして、おめでとう♪
留年が決定したため出席が許されなかった卒業式の前日、マキシスは目出度くも18歳の誕生日を迎えていた。
その日に子爵はマキシスの養子縁組を解除申請した。
申請直後に貴族籍を調べ、記載事項と年齢に間違いがないことを確認されるとポンッと認定印を押されて縁が切れる。
同時に主家の令嬢に対しての無礼な態度の数々により、夫人からの強い望みもあって申請された夫妻の離婚も承認されている。
マキシスはサンド・レイ子爵およびサンドレイ公爵との縁は切れ、パナリス子爵の家名となっていたのだ。
これが勘違いの3つ目。
そして……2人はあまりにも大事なことを忘れている。
1年目で留年が決定すれば記憶に障害が起き始め、2年目の卒業留保が決定した当日から記憶の欠落が始まる。
3年目に入ると体力が落ち始め、1年以内に衰弱死が待っていることを。
もちろん、マナーなどの最終試練の場であるため、マナーの一部を間違って覚えていたため留年になったとしても学び直せば卒業が可能だ。
記憶の障害は、その間違って覚えていたことを忘れるために起きる。
その抜けた記憶に新しいマナーを詰め直して合格をもらう。
学術を学ぶ場ではなく、学んだ礼儀作法を身につけているかの最終試験なのだから。
そんな未来が待ち受けているからこそ子息令嬢は必死になる。
そして不出来なオツムの子どもを持つ親は言葉巧みに入学させる。
「この学園を卒業すれば一人前の紳士淑女として認められる」と。
間違った常識が消されて正しい常識が上書きされる。
卒業できれば貴族として認められるのだから、親も必死だ。
それが今では当たり前となり、どこの国でも自国の学園を卒業した貴族籍の子どもたちはこの学園の紳士科や淑女科で1年間を過ごして卒業し、世界へと羽ばたいていく。
そして卒業できなかった者たちは、あの世へと旅立っていく。
それは、エレマンやマキシスだけではないのだった。
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