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タイトルなし
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しおりを挟む私が生まれたのは公爵家。
長子で次期当主……のはずだけど、両親は私を追い出して『可愛い天使のような妹』にあとを継がせたいらしい。
まあ、四歳差の妹が産まれるまでの間は私を愛情たっぷり育ててくれたけど。
ただ、悲しいかな。
私が長子であることから簡単には追い出せず。
何かすれば育児放棄や虐待で両親揃って檻の中だ。
そんな中でも私が非行に走らず、やさぐれもせず。
学園入学前から成績優秀でマナーもバッチリだったのは、私が前世の記憶というものをもって生まれたからだ。
はてさて、そんな私に両親がしなくてはならなかったのは婚約者をおくというもの。
追い出す目処が立たず、将来は次期当主に据える妹と婚約者を取り替えても文句を言わない子息。
それが、侯爵家の第二子。
将来貴族籍を抜かれる予定の子息だった。
「お姉様、今日はマロン様がいらっしゃられるのですわよ」
「キルダ、今日はマロン様がいらっしゃられるって言ったでしょ!」
「……だから?」
「あなたはマロン様の婚約者だという自覚はないの!」
私が出かけようとしたところで二人が邪魔をする。
「お母様こそ、その口も下の口も縫ってしまわれたらいかがです」
そう母のそばまで戻って小声でいうと表情を青ざめる。
「邪魔しないでいただけます? 私、今日は学園で必要な教材を購入にいきますの。
それとも帰りに散歩がてら貴族院に寄ってきてもよろしいのですか?」
カタカタと震える母に私はニッコリ微笑む。
「ろくに小遣いも出さないあなた方の代わりに、お祖父様からいただいておりますの。これも貴族院に報告しましょうか」
貴族には子供の年齢にあわせて一定の小遣いを渡す義務がある。
それを私に渡さず、妹に私の小遣いも渡しているのだ。
私はただ母方の祖父母に話しただけ。
「お母様は不貞相手との娘だけを愛しているんです。そして両親の実子である私を虐待して笑っているのです」と。
「そのことを父上はご存知なのかね?」
「父は知りませんわ。母は私という後継ぎを産んだから自分の役目は終わった。だから不貞相手との子を作ったのです」
祖父の言葉に淡々と返したのは十歳の子供。
大人びた言葉は『聞いた話をそのまま言っている』と思っただろう。
「その話は……誰から聞いたの?」
「…………知らないのは父と妹だけですよ」
祖母の質問に私ははぐらかす。
それは二人に、使用人も知っていて私は立ち話を聞いたと思わせるには十分だった。
実際には、母が自宅で妹を見せびらかすために開いたお茶会で話していたのを聞いたのだが。
四歳の子供に聞かれても問題はないと思ったようだ。
だから、お茶会が閉会する直前に私は笑って言った。
「また、母と叔父の近親相姦によりできた背徳の子や正統な後継者である私が殺されていないか、様子を見に来てくださいね。将来、私を家から追い出して家督は妹に譲る予定だそうですが。
皆さんは不貞するときはお気をつけください。母のように上手くいくとは限りませんよ」
母と三人の不貞同盟の参加者たちは倒れてしまいました。
おひとりは倒れたショックで流産。
ご主人の身に覚えのないお子だったため不貞がバレて、体調が回復しないまま戒律の厳しい修道院へ送られました。
そのときにほかの二人の不貞もバラしてしまったものの、二人とも話を合わせていただけの下流貴族。
下手なことを言って相手を用意されては困るため、誤魔化すのに必死だったそうだ。
ただし不貞を企んだとして産んだ子の認知を破棄して、母子共に母親の実家へ送り返されただけでなく慰謝料まで支払わされた。
二人は慰謝料の借金として娼館に売られたものの安かったらしい。
そして慰謝料の足しに子供たちは……奴隷商に高く売られた。
三人とも母のことは公爵夫人ということで言えなかったらしい。
ただし、母の実家に手紙を送りつけていた。
それから六年後。
娘の私が母の不貞、その相手(母の実弟)、妹(正確には異父妹)の溺愛と私への虐待および育児放棄を正確に知っている、と母方の祖父母に告げた。
そして母の不貞を黙っていることと引き換えに、母方の祖父母から毎月小遣いが与えられるようになり……父や父方の祖父母に黙っていることを対価に、母は私に頭が上がらなくなっている。
妹はわかっていない。
蝶よ花よと育てられたせいで、常識を身につけていないのだから。
しかし、両親が両親なら娘も娘だ。
「お姉様!!」
「フフフ。娘も母親に似て二つのお口とオツムのネジが緩いようですわね」
これで母は理解したようだ。
同時に、侯爵家次男と(下の口が緩い)妹の関係を知りながら黙ってたことも隠していたみたいだ。
そのことを私が知っていることもまた、恐怖でしかないだろう。
「そうだわ! 私の小遣いを増やすために、帰りに侯爵家へ寄ってこようかしら」
婚約者の妹をすでに押し倒して事に及んだことを婚約者の両親が知ったら大変なことになるだろう。
次男は廃嫡、それは当然だ。
廃嫡せずにこちらへ押し付けようものなら……
「そのときは遠慮なく貴族院に訴えなきゃ」
微笑んだ私に、母は自身の犯した罪の重さを自覚したのか。
それもすでに『取り消せないほど大きくなっている』ことに。
絶望を瞳に宿した母と、私の言葉が理解できずに喚き続ける妹に見送られて馬車に乗る。
平穏な日々が、走り出した馬車の音のように崩れて消えていく。
そんな未来は……もうすぐ。
(だって、私の卒業が近いからね)
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