33 / 43
第一章
第33話
しおりを挟む「リリィ。それは何の冗談かな?」
義父はリリアーシュ嬢の言葉にそう返した。食事のために食堂へ向かうと、配膳の前にリリアーシュ嬢から「お父様。お聞きしたいことがございます。いま宜しいでしょうか?」と尋ねたのだ。
「私の婚約は、宰相であるお父様が宰相の立場を利用して無理矢理結んだと言われました」
リリアーシュ嬢は途切れ途切れながらも、そう義父に伝えたのだ。
「その者は何を勘違いしているのかな?ねえ?トルスタイン殿下。貴方が私のリリィを「他の誰にも渡したくない」と温室へ連れ出し、リリィと私が帰るとその足で父である国王に「結婚する宣言」をして王位継承権を放り出し、翌日には私に「少しも離れたくない」と駄々を捏ねて我が家に押し掛けて現在に至る。この事を知らぬ貴族はおらぬはずだが?」
「ええ。大変有名な話なので、私もリリアーシュ嬢から聞いて驚きました。ですが、この話をしたのがミルッヒ王女の侍女とのこと。他国の者ですから存じなかったようですね」
「ああ、そういう事でしたか。しかし明日にでも王女の侍女は2人を残して帰国することになっています。王女が学院の寮に移られるための準備が整ったようですからね」
「寮に入られるの?」
「リリアーシュ嬢。今までも他国から遊学に来られた方々はすべて寮に入られていましたよ」
「リリィ。遊学で来られる王子や王女たちは『この国の生活を体験し、学友と交流するため』に来るんだよ。それを王城で過ごされていては、何ひとつ体験出来ないだろう?」
「ええ。そうですわね」
リリアーシュ嬢は私たちの言葉を素直に聞き入れたようだ。そしてすでに話が変わっていることに気付いていない。
「さあ。では食事にしようか」
義父の言葉に配膳係が料理を運んできた。
「ああ。リリィ。来週にはメリーベルとルーファスが領都より戻ると連絡が来た」
「お母様とルーファスがお帰りに?」
「ああ。そうだ。トルスタイン殿下。また賑やかになると思うが」
「ええ。大丈夫です。ルーファス殿は私の弟オルギニスと年が近いこともあり、まるで弟と接しているように勘違いしてしまうこともあります」
ルーファス殿は私の弟よりひとつ下の3歳。『やんちゃ盛り』のため、義母が領都へ向かわれる時には連れて行く。長男とはいえ第二子のため、何れは自立するのだろう。義父が彼に才を見出せば、私かリリアーシュ嬢の侍従に相応しい者として育てるだろう。
才がなければ、王立ではなく王都の学院などの騎士科などに進ませるだろう。
どのような道を選ぼうと構わない。ただ幸せになってもらえれば。
0
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
私は聖女になる気はありません。
アーエル
ファンタジー
祖母は国を救った『元・聖女』。
そんな家に生まれたレリーナだったが、『救国の聖女の末裔』には特権が許されている。
『聖女候補を辞退出来る』という特権だ。
「今の生活に満足してる」
そんなレリーナと村の人たちのほのぼのスローライフ・・・になるはずです
小説家になろう さん
カクヨム さん
でも公開しています
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
愛の負債《完結》
アーエル
恋愛
愛を間違えた場合、負債は即時支払いましょう。
その場限りの反省ではふたたび間違いを犯し、さらなる負債を背負い・・・身の破滅へ。
相手を見誤ると、取り返しのつかない未来へ家族を巻き込むでしょう。
・・・ねぇ、ソフィーちゃん。
注:ソフィーちゃんとは筋肉ムキムキの『伯爵子息』です
他社でも公開します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる