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第一章

第33話

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「リリィ。それは何の冗談かな?」

義父はリリアーシュ嬢の言葉にそう返した。食事のために食堂へ向かうと、配膳の前にリリアーシュ嬢から「お父様。お聞きしたいことがございます。いま宜しいでしょうか?」と尋ねたのだ。

「私の婚約は、宰相であるお父様が宰相の立場を利用して無理矢理結んだと言われました」

リリアーシュ嬢は途切れ途切れながらも、そう義父に伝えたのだ。

「その者は何を勘違いしているのかな?ねえ?トルスタイン殿下。貴方が私のリリィを「他の誰にも渡したくない」と温室へ連れ出し、リリィと私が帰るとその足で父である国王に「結婚する宣言」をして王位継承権を放り出し、翌日には私に「少しも離れたくない」と駄々をねて我が家に押し掛けて現在に至る。この事を知らぬ貴族はおらぬはずだが?」

「ええ。大変有名な話なので、私もリリアーシュ嬢から聞いて驚きました。ですが、この話をしたのがミルッヒ王女の侍女とのこと。他国の者ですから存じなかったようですね」

「ああ、そういう事でしたか。しかし明日にでも王女の侍女は2人を残して帰国することになっています。王女が学院の寮に移られるための準備が整ったようですからね」

「寮に入られるの?」

「リリアーシュ嬢。今までも他国から遊学に来られた方々はすべて寮に入られていましたよ」

「リリィ。遊学で来られる王子や王女たちは『この国の生活を体験し、学友と交流するため』に来るんだよ。それを王城で過ごされていては、何ひとつ体験出来ないだろう?」

「ええ。そうですわね」

リリアーシュ嬢は私たちの言葉を素直に聞き入れたようだ。そしてすでに話が変わっていることに気付いていない。

「さあ。では食事にしようか」

義父の言葉に配膳係が料理を運んできた。

「ああ。リリィ。来週にはメリーベルとルーファスが領都より戻ると連絡が来た」

「お母様とルーファスがお帰りに?」

「ああ。そうだ。トルスタイン殿下。また賑やかになると思うが」

「ええ。大丈夫です。ルーファス殿は私の弟オルギニスと年が近いこともあり、まるで弟と接しているように勘違いしてしまうこともあります」

ルーファス殿は私の弟よりひとつ下の3歳。『やんちゃ盛り』のため、義母ははが領都へ向かわれる時には連れて行く。長男とはいえ第二子のため、いずれは自立するのだろう。義父が彼に才を見出せば、私かリリアーシュ嬢の侍従に相応しい者として育てるだろう。
才がなければ、王立ではなく王都の学院などの騎士科などに進ませるだろう。
どのような道を選ぼうと構わない。ただ幸せになってもらえれば。
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