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第一章

第23話

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今は薬を注射されて大人しくなっているエステルだったが、義父のいかりが周囲の人間を震わせています。義父にしてみれば、『愛しいリリィの婚約者を奪うと宣言したケンカを売った』のだ。
しかし、私は婚約者をリリアーシュ嬢から乗り替えるつもりはない。一目惚れだったのだ。今も、毎朝リリアーシュ嬢と挨拶する度に初恋のようにドキドキしている。正直な話、毎朝リリアーシュ嬢に一目惚れしているのだ。きっとこれは、私たちが結婚しても、子が生まれても、永遠に続くのだろう。

私にはそうなる自信がある。

今はノイゼンヴァッハ家の居候に過ぎない。だからこそ、私には理性が働いている。しかし、義父の目から離れ二人だけの生活が始まれば、私は毎朝、リリアーシュ嬢に恋をする。そしてリリアーシュ嬢と二人の時は愛を囁き続けるだろう。



「グラセフ・ボナレード。其方そなたには其処そこにいる『不貞のエステル』に関する悪行の数々を纏めた調査報告書をお渡ししたはずです。ですが、今って処罰が決定しておらぬようだが?さらに『貴族としての教育』も行われておらず、トルスタイン殿下に対して無礼の数々。たとえ爵位を娘に譲ったとは言え、其方には『父としての責務』がある。一体どう責任を果たすつもりか?」

義父の言葉に、この場に集う貴族の半数が『ボナレード家の当主交代』を知ったようでざわついた。

「我が家の爵位をお返しし・・・」

「爵位は二つともすでに其方の手を離れておるではないのか?それとも娘に与えた爵位を『己の贖罪』に使うつもりではなかろうな?それは貴族法で禁じられていると知らぬとは言わせぬ」

・・・ああ。ここで義父が昨日、ボナレード家の爵位を娘たち二人に譲らせた『理由』に合点がいった。処罰にしてはあまりにも早かった。・・・いや『早過ぎた』。
それは父と妹の処罰に巻き込まれて、姉たちが路頭に迷うことのないようにという配慮からだ。実際、姉妹が譲り受けた爵位と財産は、現時点で保障されており、たとえ父や妹であっても『罪の肩代わり』は許されていないのだ。
そのことに数人の貴族も気付いたようだ。義父の手腕を知るものが義父に向ける視線には敬意が含まれている。

 義父のようになりたい。
たとえ誰かが罪を犯し罰を受けても、家族には最小限の被害で済むように。そして、そのことに少数でも気付いてもらえるように。



グラセフ・ボナレードは不貞の娘エステルをくだんの最大の原因である男爵子息と婚約させることになった。ハルストン男爵は息子のアモンを庇おうとしたが、アモン自身は査問会に引き出されて罪を問われるとあっさり白状した。そしてエステルを男たちの性欲処理の道具に使って来たことも白状し、当時の顧客と金額を記したノートも証拠として差し押さえられた。そこから芋づる式に次々と逮捕者が出た。
顧客とは別に、毎月エステルを使って『いかがわしいパーティー』が開かれていた。その招待客も記載されていた。

成人の顧客及びパーティーの参加者の中で、参加当時に成人していた者すべてに制裁が与えられることになった。未成年者は一族の当主が重罰を与えることになった。その上で『グラセフ・ボナレード』に莫大な慰謝料が支払われた。その集まった慰謝料が、此度の騒動の被害にあった子息令嬢に支払われることとなった。割合は子息が1に対し令嬢には2。さらに、直接暴言を受けた一学年生は3。
これに関しては、どの親からも異議を唱える者はいなかった。
令嬢たちの深く傷ついた不安定な精神状態を、社交界やお茶会で見聞きしていたのだ。令嬢を持つ親たちは、不謹慎だが『娘が一学年生じゃなくてよかった』と思った。それと同時に傷ついた令嬢たちに同情した。
一学年生の子息を持つ親たちは、『うちの子が娘じゃなくてよかった』と思ってしまった。

どの学年の親も罪悪感を胸の内に秘めていた。だからこそ、異議を唱える者は出なかったのだ。
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