上 下
10 / 43
序章

第10話

しおりを挟む


観覧席の彼方此方あちこちからは嗚咽が漏れていた。
たった三件の証言。それだけで十分だった。
いや。――― これ以上は重すぎた。
聞く側の心が耐えられないほどに・・・

ノルヴィスが立ち上がると、人々は嗚咽を抑えようとハンカチで口を覆う。

「皆の者。そして、辛い証言をこの場でしてくれた者たち。さらに、生命を奪われて証言する場を奪われた者たちやその家族に言わせてもらいたい。救うことが出来ずに申し訳なかった」

ノルヴィスは深々と頭を下げて、すべての人々に対して謝罪をした。
ノルヴィスは学院に入っている間、アマルスを始めとした『信頼できる側近』と巡り会えて、関係を強固なものとしてきた。
しかし、その間にも、沢山の涙が流され生命を奪われてきたのだ。
その事にノルヴィスはひどく心を痛めてきたのだ。
そのことを、そばに立つアマルスが一番見てきた。

その事に国民たちも気付いていた。
だからこそノルヴィスの治世を望んできたのだ。
国民たちは目を丸くし、次いで「頭を上げてください!」「陛下のせいではありません!」と口々に叫びだした。

「私はこの場で宣言する。王族は二度とこの様な悲劇を繰り返さないと。そして誓う。この国を、平和で豊かな国にすると」

頭を上げたノルヴィスは、高らかにそう宣言すると、「ノルヴィス陛下万歳!」「ゼリアに平和と繁栄を!」という叫び声が闘技場内外から上がった。
ノルヴィスは暫しその歓声を受けていたが、右手を肩まで上げると歓声が静まる。

「咎人たちに死を申し渡す。その前に、皆の者には『最後の制裁』を許す。時間に制限は持たない。制裁の希望者が誰もいなくなってから処刑を開始する」

「これより一時間の休憩とする。その後、咎人の制裁を始める。慌てずとも希望者全員に制裁する時間は与えられている。制裁後、未成人の入場は許可されていない。特に学院生はこれが『最後』になります。石を投げる以外に許されてはいないが、大なり小なりの『思い』はあるでしょう。この機会を逃せば『次』はありません」

ノルヴィスに続いて発せられたアマルスの言葉に、ノルヴィスは表情を変えないが『煽るな。煽るな』と心の中で苦笑する。
しかし、ゾルムスに『不満をぶつける』のは、これが最後だ。
学院で、目をつけられないように小さくなっていた学生も教師も多い。
その憎しみをぶつけることで、少しでも気持ちを軽くさせるつもりなのはノルヴィスでも分かっていた。

「陛下。退場を」

アマルスの言葉に頷くと、ノルヴィスは立ち上がり、青褪めて涙で濡れた顔で見上げている『弟だったもの』に目を向けた。
その目にはまだ、『兄が助けてくれる』という甘い希望を抱いているようだった。

「ゾルムス。お前には何度も注意をしてきた。その度にお前は周りの甘言に唆され、自らの過ちを顧みることをしなかった。それがこの結果だ。『国を正しく導ける』のなら、お前が国王につくのも許されただろう」

ノルヴィスの言葉に、ゾルムスが目を見開く。
何を勘違いしているのだろうか。
目には『希望』が浮かび輝いている。
『罪を許されて国王になれる』とでも思っているのだろうか。

「ちゃんと最後まで罪を償え」

勘違いを正すことなく、ノルヴィスは退場した。
アマルスの指示で刑場が『制裁の場』へと変えられていく。
縄をほどかれたゾルムスたち7人は、すでに自らの力で立つことも出来ず、並べられた磔台まで引き摺られるように連れて行かれ、両手首を鎖に繋がれてぶら下げられた。
その姿を見た国民はいない。
すでに観覧席には人っ子ひとりいなかった。
すべての人たちが、制裁の順番を待つ列へと並んだのだ。
そんな中でも、ゾルムスは一縷の望みを持っていた。
『この罰を受ければ助けてもらえる』と。

――― この程度の罰で許されるのなら、数多くの人々が処刑されるはずがない。

ゾルムスはその事にも気付かず、国民たちからの『呪いの言葉』と石礫いしつぶてを受け続けたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

【完結】恋人の為、絶倫領主に抱かれてます〜囚われ寝取られる〜

雫谷 美月
BL
エリアートの恋人のヨエルは、騎士団の仕事中に大怪我を負い一命を取り留めたが後遺症が残ってしまう。騎士団長から紹介された光属性の治癒魔法を使える領主ジャルミル=ヴィーガントに、ヨエルを治療してもらうことになった。しかし光属性の治癒魔法を使うには大量の魔力を使用し、回復にも時間がかかるという。素早く魔力を回復するには性行為が必要だとジャルミルから言われ、エリアートはヨエルには秘密のまま協力する。ジャルミルは温厚な外見とは裏腹に激しい獣のような性行為をし、エリアートは次第に快楽に溺れていってしまう。 ・外面はいい絶倫邪悪な領主✕恋人のために抱かれる青年 ・領主の息子の邪悪な少年✕恋人のために抱かれる青年 【全12話】 【他サイト(ムーンライト)からの転載となります】 ※メリーバッドエンドになります ※恋人がいる受けが寝取られる話です。寝取られ苦手な方はご注意ください。 ※男性妊娠の話もあります。苦手な方はご注意ください。 ※死ぬ登場人物がでます。人によっては胸糞展開ですのでご注意ください。 ※攻めは3人出てきます。 ※なんでも許せる方向けです。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび
ファンタジー
ある日、突然転生の為に呼び出された男。 しかし、異世界転生前に神様と喧嘩した結果、死地に送られる。 魔物に襲われそうな所を白銀の狼に助けられたが、意思の伝達があまり上手く出来なかった。 狼に拾われた先では、里ならではの子育てをする過保護な里親に振り回される日々。 男はこの状況で生き延びることができるのか───? 大人になった先に待ち受ける彼の未来は────。 ☆ 第1話~第7話 赤ん坊時代 第8話~第25話 少年時代 第26話~第?話 成人時代 ☆ webで投稿している小説を読んでくださった方が登場人物を描いて下さいました! 本当にありがとうございます!!! そして、ご本人から小説への掲載許可を頂きました(≧▽≦) ♡Thanks♡ イラスト→@ゆお様 あらすじが分かりにくくてごめんなさいっ! ネタバレにならない程度のあらすじってどーしたらいいの…… 読んで貰えると嬉しいです!

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

全部、支払っていただきますわ

あくの
恋愛
第三王子エルネストに婚約破棄を宣言された伯爵令嬢リタ。王家から衆人環視の中での婚約破棄宣言や一方的な断罪に対して相応の慰謝料が払われた。  一息ついたリタは第三王子と共に自分を断罪した男爵令嬢ロミーにも慰謝料を請求する… ※設定ゆるふわです。雰囲気です。

召喚獣に勝るものはなし《完結》

アーエル
ファンタジー
この世界で一番強いのは召喚獣だった。 第三者目線の書き方練習に作った短編です。 召喚獣たちは可愛いですが登場は少なめです。 他社でも公開中

処理中です...