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序章
第4話
しおりを挟むすべての者が『死を賜った』のちに、『串』から外された『弟殿下』たちは王宮の地下牢まで歩かされた。
そして陽が昇ると再び闘技場まで歩いていく。
彼らは処刑場の中央に一列に並び跪かされて、やっと『新国王』の姿を見ることが出来た。
王族として正装している彼の頭上には『王冠』が乗っている。
『簒奪者』たちを地下牢に封じた5日間の間に、国葬と戴冠式を済ませたのだ。
彼の横にはノルヴィス幽閉後から姿を見せなかった『アマルス』が立っていた。
事前に受け取っていた『委任状』で、彼がすべての手筈を整えていたのだ。
ノルヴィスが腰を落としたアマルスの耳元に何か囁く。
それに了承したように頷いたアマルスは姿勢を正した。
「咎人『ゾルムス』に問う。父である国王の喪に服さず、国葬を執り行わぬまま『国王』を名乗ったのは何故か」
アマルスの言葉に『弟殿下』は『いま初めて父王の死を知った』という驚きの表情をみせ、隣で力なく跪いている宰相たちに顔を向けた。
彼らの精神はすでに憔悴仕切っているものの、投与され続けた『薬』のせいで狂うことも出来ないでいた。
『弟殿下』は目からポロポロと涙を流しながら『ノルヴィス新国王』を見上げる。
それを見て、ノルヴィスとアマルスの2人は表情を変えずに『やはりそうだったか』と心の中で納得した。
『国王になる』ということは、余程のことがない限り『前国王の死』を意味する。
一朝一夕で国王になれるのではないのだ。
ノルヴィスが王宮に幽閉されても、一向に国葬の準備が行われる様子がなかったことから『もしかして』と思っていた。
だが『『弟殿下』は12歳だ。流石にそこまで馬鹿ではないだろう』と、誰もが願った。
――― その願いも虚しく『馬鹿』だった。
いつまでも国葬の手配をしない上、『国王』を名乗り、『前祝い』と言って祝杯を挙げた。
大事なことだから、もう一度言う。
――― 『父の亡骸が寝室のベッドに安置されたまま』にもかかわらず、『第二王子は祝杯を挙げた』のだ。
その様子はすべて幽閉されているノルヴィスに筒抜けだった。
ノルヴィスを幽閉した後は兵士たちが立てられていたが、彼らは『優秀』だった。
「我々は『ノルヴィス殿下を離宮から一歩も出すな』と『アマルス様を離宮に入れるな』という『二つの命令』しか受けておりません」
そう言って、2人以外の出入りを許した。
ノルヴィスの『ご学友』はアマルス以外にもいる。
彼らは『側近』として仕えていた。
もちろん彼らは『自由に離宮に出入り』し、ノルヴィスと会うことも出来た。
アマルスや側近たちは、ノルヴィスが幽閉されたと同時に国内各地に散開し、『王都外の宰相たちの親戚や姻戚を一人残らず捕縛』した。
そして『闘技場の地下』にある『控室と名ばかりの檻』に入れられた。
彼らには宰相たちが『もし『何も』起こさなければ無事に解放される』と伝えられていた。
そのため彼らは『祈り続けていた』。
『愚かな行為を思い止まってくれ』と。
しかし、その祈りが彼らに届くことはなかった。
『処刑』が伝えられたのは『処刑当日』だった。
その時、『宰相の孫娘』に『人工分娩』を受けるか決めさせた。
もし『生まれることができなかった』場合、『母親の胎内で衰弱死』することも包み隠さず説明された。
彼女は『人工分娩』を望んだ。
そして、叶わないと諦めていた『我が子』を抱き締めることも、名を贈ることも、最後に母乳を与えることも出来た。
彼女は『最後の処刑者の一人』となった。
刑場に出された彼女は、貴族として背をピンッと伸ばし、絞首台の前まで歩くとノルヴィスに向けて膝をついて頭を垂れて『臣下の礼』をする。
同じく絞首刑を受ける『宰相一家』も『連座』する執事やメイドたちも、彼女同様に膝をついて頭を垂れる。
銅鑼が鳴らされて『絞首台』に乗せられた彼女たちは『微笑み』を浮かべていた。
『最期まで家族と一緒』にいられたことをノルヴィスに感謝していたのだ。
『貴族』として死を賜るなら『毒杯』だ。
しかしそれは『完全に死ぬ』まで時間がかかる。
毒でのたうち回って意識が遠のいても『死が確認』されるのに1時間かかる者もいるのだ。
ノルヴィスは『縁座』や『連座』で処刑される者を『長く苦しませる』つもりはなかった。
それを『処刑される側』は誰もが気付いていた。
人工分娩の話を受けた時に察したのだ。
処刑される者たちは『原因』に恨み節を投げつけたが、誰一人『ノルヴィス』を憎む者はいなかった。
『宰相一家の最期』は『ジョシュア』のこともあり、後々まで『悲劇』と『美談』として語り継がれることになった。
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