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番外編:ウリエラのその後

「……語るに落ちたな」

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ここはどこだ?
白い部屋、壁も白く、天井も床も白い。
私が着せられている服もズボンも白い。
壁に設置されたベッドも白く、枕やシーツはない。
ベッドは壁に固定されていてマットも縫い付けられたように動かない。
部屋の真ん中に机と椅子が置かれているが、これも白く床に固定されていて動かせない。
見かけは木製だが、蹴ってもビクともしないことから、鉄の表面を加工して木製に見せているのだろう。
部屋の一角にパーティションが置かれ、そこに蓋のないトイレが置かれている。
それらすら白色だ。

ベッドで目を覚ましてからだいぶ経つのではないか?
いや、時間がわからないのはここに窓がないからだ。

「おいっ! だれか!」

単調な空調の音以外しないこの部屋に苛立ちが増してくる。

「どこかでみているんだろう! なんだっ! 何が目的だ!」

変わらない、空調以外聞こえない。
小さく空腹を訴えた腹をさすり、私は天井に向けて声を張り上げた。

「腹が減った!」

するとカタンと物音がして、壁の一部が下におりて空間が現れた。
そこには紙皿に載せられたハンバーガーが、水と思しき飲み物の入った紙コップと共に置かれていた。

「何だ、これは! こんなものを食えというのか!」

そう怒鳴ると、おりた壁がシュンッと上がり壁が閉じてしまった。
慌ててその部分を叩くが、二度と開かなかった。


空腹な腹を抱えてベッドで横になる。
なぜあのときハンバーガーを食べなかったのか。
部屋にわずかに残ったハンバーガーの匂いがさらなる空腹を訴える。

カタンという音と共に、最初とは違う壁が開いた。
今度は急いで駆け寄りハンバーガーと紙コップを手にして机に置く。
ハンバーガーはすでに冷めていたが、そんなことはどうでもいい。
貪るように咀嚼し、紙コップの中身を使って嚥下する。
服の袖で口を拭いた私はゴミを丸めて開いたままの壁に投げ込んだ。



「さて、あなたは私たちに自分の悪事がバレていないと思っていましたか?」

オーラシアが私から目を離さずにそう告げる。

「な、んのことだ?」
「我が娘を殺したこと」

リッツン侯爵が私にそういう。

「私は殺してなど」
「では言い換えましょう。私共の娘を使って、少女たちを殺すように言葉巧みに誘導した」
「そんなこと知らぬ」
「『最近のポーリーはカワイイなあ』」

オーラシアの言葉に肩が揺れる。

「『あの子を手に入れたいなあ。そういえば落とし穴になりそうな陥没があってねえ。中に誰かを落として上から水を入れたら面白そうだなあ』」

なぜ、オーラシアが私の言葉を一言一句知っている……

「『ザマアミロ』」

どういうことだ……なぜ……


「死する罪人に理由を明かす必要はない」

混乱する私にそう言ったのは父だった。
縋るように見た私を父は冷めた目で見返した。

「私どもの娘を死なせ」

そう言ってリッツン侯爵夫妻と少年が私に一歩二歩と近付く。

「私どもの娘を毒牙にかけ」

キライル子爵夫妻と青年が私を睨みながら近付いてくる。

「私どもの娘を陵辱した」
「それも私と間違えて、私の店で集団で陵辱し、売り上げを奪い、火を放った」
「あ、ああ……あ」

そうだ。
首を絞め、金を奪い、証拠を消すために火を放った。
……生きていたというのか、あの火事の中で。

「錬金術師の住まいには、誤って火事や爆発を起こさないため指定された以外では自動消火……正確には火がつかなくなっている」
「間違いなく見た! 火が燃え上がったのを!」
「……語るに落ちたな」

ハッとして口を押さえたが、すでに手遅れだった。

「火が見えるのは当然です。家主が留守の際、何かが発火した可能性を知らせるためです。私もそれで慌てて帰ったのですから。お陰で証拠は消されず、あなた方の悪事を王族の立場で訴えることもできました」
「じゃ、あ……」
「あなたの仲間は、デデとゼア以外。デデとゼアは婚約破棄のために残し、あなたの処分は幽閉にしてたんですけどねえ。どうせ抜け出して問題を起こすと思っていましたが。そうですねえ、謹慎なんて逃げやすい環境に身を置いてくれたおかげでこうして問題が片付きました。ねえ、お父様。この功績から、陛下と王太子の責任は保留にいたしましょう」
「フム、そうだな。ただし王妃の責は重い。毒杯は免れぬ、よいな」
「はい、ありがとうございます」

父が頭を下げた姿を最後に……私はチクリとした痛みを感じて意識を失った。
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